そろそろ左派は〈経済〉を語ろう
レフト3.0の政治経済学

未 読
そろそろ左派は〈経済〉を語ろう
ジャンル
著者
ブレイディみかこ 松尾匡 北田暁大
出版社
定価
1,870円(税込)
出版日
2018年05月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.5
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そろそろ左派は〈経済〉を語ろう
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レフト3.0の政治経済学
著者
ブレイディみかこ 松尾匡 北田暁大
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定価
1,870円(税込)
出版日
2018年05月01日
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4.0
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
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レビュー

欧州の左派の間では、「デモクラティック・エコノミー」というコンセプトがさかんに議論されている。デモクラティック・エコノミーと聞くと、「貧困対策の分配や、ブラック労働をなくそうという運動のことだろうか」と思う方もいるかもしれない。しかし実際には、きわめてマクロ的な視点から経済活動に関する決定権を社会で広く分散し、みんなが自分の人生に主導権を持って生きていける経済を実現しようとするものだ。

政治制度としての民主主義がある程度確立されていても、経済的不平等があれば民主主義は不完全である。経済的なデモクラシーの遅れが、いわゆるトランプ現象やブレグジット、欧州での極右勢力の台頭につながった。「いまの左派の最重要課題は経済というのが、欧州左派の共通認識である」――これが著者たちの見解だ。

本書はブレイディみかこ氏、松尾匡氏、北田暁大氏という有識者の鼎談(ていだん)からなる。2017年にグラスゴー大学教授アンドリュー・カンバースが発表した、デモクラティック・エコノミーの達成度合いの尺度ともいえる「経済民主主義指数」では、日本はOECD加盟国の中で下から4番目に位置する。つまり日本は世界的にみて、経済的にもっとも不平等な国のひとつなのだ。

こんな時代だからこそ、私たちは経済を語らなければいけないと著者たちは口をそろえる。普段私たちが何気なく感じている不平等感について、熟考するきっかけを与えてくれる一冊だ。

池田明季哉

著者

ブレイディ みかこ
イギリス・ブライトン在住の保育士・ライター・コラムニスト。著書に『ヨーロッパ・コーリング』『THIS IS JAPAN』『子どもたちの階級闘争』『労働者階級の反乱』など、共著に『保育園を呼ぶ声が聞こえる』などがある。

松尾 匡 (まつお ただす)
1964年石川県生まれ。立命館大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『商人道ノスヽメ』『不況は人災です! 』『この経済政策が民主主義を救う』など、共著に『これからのマルクス経済学入門』『マルクスの使いみち』などがある。

北田 暁大 (きただ あきひろ)
1971年神奈川県生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門は社会学。著書に『広告の誕生』『広告都市・東京』『責任と正義』『嗤う日本の「ナショナリズム」』など、共著に『リベラル再起動のために』『現代ニッポン論壇事情』などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    欧州の左派の間でデモクラティック・エコノミーが盛んに議論されている一方で、日本の左派の間ではいまだに実態に合わない脱成長論が人気である。
  • 要点
    2
    財政健全化をねらって緊縮政策をおこなったイギリスは、健全化どころか借金を増やすことになった。この事例を受けて、いま世界では反緊縮の波が起きている。
  • 要点
    3
    不可視化されているだけで、日本にも貧困や階層が存在する。いまこそ階層で団結し、経済を語るべきときだ。

要約

【必読ポイント!】 経済を語らない日本の左翼

下部構造を忘れた左翼

日本では年齢で階級が分かれてしまっている傾向にある。バブル期と小泉構造改革の間に挟まれてしまったロストジェネレーション世代(現在30代後半から40代半ば)と比べれば、現在は就職率もよくなった。しかしいまの若い世代は、団塊の世代と比べればずっと貧しい階層にいる。

その一方で、経済的に豊かな時代に育った年長世代の左派の間では、脱成長論が人気だ。北田氏によれば、日本の左翼は法や政治、文化などの「上部構造」に焦点を当てがちで、社会の土台となる経済の仕組み、すなわち「下部構造」を忘れてしまっているという。「大事なのは経済だけではない」という思想が変質して、「経済は大事ではない」という主張にすり替わってしまっているのだ。

「再分配」と「経済成長」は対立しない
SIphotography/gettyimages

たしかに日本の左派の間でも「富の分配」自体は議論されているが、「成長」とは切り離されて考えられることが多い。「誰かが得をしたら、そのぶん誰かが損をしている」というイメージが、「再分配と経済成長は対立したもの」と捉えられる一因なのではないかと松尾氏は指摘する。日本には「身内は助け合うが、他人は食うか食われるか」という発想がはびこっており、共同体が解体されたいまでは、低成長社会の中で限られたパイを奪い合うことに帰結しかねない。

経済の平等を考えるときは、「何の平等か」を問う必要がある。ロスジェネやデフレ不況に苦しめられた世代は、キャリアの出発点において不平等な状況に置かれており、そもそも機会が平等ではない。消費増税を財源にしておこなわれるような再分配政策は、所得の低い人に相対的に重い負担を強いることになる。

「短期の成長」と「天井の成長」

松尾氏は技術革新などによる供給能力の向上を「天井の成長」(長期の成長)、需要が喚起されて経済が押し上げられることを「短期の成長」と表現し、区別して説明している。

そのことを区別せずに「成長はいらない」という主張がされるとき、「『短期の成長』はいらない」ということを意味してしまうことがある。日本が需要不足の状態にあり、完全雇用状態にほど遠いにもかかわらずだ。これでは桶に水(=労働者)が少ししか入っていないにもかかわらず、それを満たそうとするような「成長」さえも否定してしまうことになる。そうなれば雇用不安をかかえる労働者はますますお金を使わなくなるので、また需要が不足してしまう。

失業問題を解決するのであれば、やはり「成長」が必要なのである。

長年繰り返すお金と階層の問題

古くて新しい経済問題
stroblowski/gettyimages

新自由主義でも社会民主主義でもない「新しいレフトの道」を名乗って出てきたイギリスのブレア政権であったが、やったことはほとんど新自由主義と変わらなかった。ブレア政権は「能力主義の社会をつくる」と宣言していたが、これは能力で決まる新たな階級の存在を容認するだけであり、階級の格差を縮めてより平等な社会にしようということではなかった。これでは貧困をなくすことはできない。「第三の道」という政策は、結果的に多くの人を痛めつけることになったのである。

欧州の新しい左派の運動は、経済問題を重視している。

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