予測マシンの世紀

AIが駆動する新たな経済
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予測マシンの世紀
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おすすめポイント

私たちの身の回りは、AIであふれている。Facebookの画像認識、SiriやAlexaのような音声アシスタント、Googleの検索テクノロジー――これらはすべてAIのかたまりだ。身近になりすぎて、もはやそこにAIが使われていることにも気づかないほどである。一方ですさまじい勢いで進化するAIだからこそ、その負の側面にも注目が集まっている。「AIによって自分の仕事がなくなるのではないか」という危惧も、その現れではないだろうか。

身近にあるのによくわからないAIだからこそ、不安に思うことも理解できる。しかし不安に思っているだけでは、これからやってくる変化には対応できない。本書がすばらしいのは、AIを「安価な予測マシン」とシンプルに捉え、ビジネスに変革を起こすための具体的な方法論を提示している点だ。ここから得られる知識は、競争優位を築くうえで大いに役立つはずである。

本書を読んで、ダーウィンが言い残したとされる次の言葉を思い出した。「もっとも強い者が生き残るのではなく、もっとも賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」

きたるAI時代を前にして、「仕事がなくなる」と恐れおののき、それでも現状に甘んじているようでは、その人の仕事はきっと本当になくなってしまうに違いない。本当に変革が必要なのは、ビジネス側ではなく私たちの心なのだろう。手遅れになる前に、本書を一読することを強くおすすめしたい。

ライター画像
香川大輔

著者

アジェイ・アグラワル (Ajay Agrawal)
トロント大学ロットマン経営大学院教授。専門は経営戦略とアントレプレナーシップ(起業家精神)。同校に創造的破壊ラボ(CDL)を創設し、IT戦略や科学政策、起業ファイナンス、イノベーションの地理的条件に関する研究を行なっている。AI・ロボティクスを開発するキンドレッド社の共同創設者。同社は人間と同等の知能を持つ機械の構築をミッションに掲げている。ブリティッシュコロンビア大学で戦略学と経済学の博士号を取得。

ジョシュア・ガンズ (Joshua Gans)
トロント大学ロットマン経営大学院教授。専門は経営戦略。CDLチーフ・エコノミスト。スタンフォード大学で経済学の博士号を取得。著書に『子育ての経済学』など。

アヴィ・ゴールドファーブ (Avi Goldfarb)
トロント大学ロットマン経営大学院教授。専門はマーケティング論。同校の研究講座「人工知能とヘルスケア」主任。CDLチーフ・データサイエンティスト。ノースウェスタン大学で経済学の博士号を取得。

本書の要点

  • 要点
    1
    AIは驚異的な予測能力を持つ「予測マシン」である。これが安価になったことで、データやセンサーといった「補完財」の価値が高まっている。
  • 要点
    2
    意思決定(=決断)するうえでもっとも重要なのは予測だが、決断は他にも入力、判断、行動、結果、フィードバック、訓練という6つのタスクから成り立っている。どのタスクを自動化するかという視点で考えると、ワークフローにAIを活用しやすくなる。
  • 要点
    3
    AIが普及しても人間の仕事は残される。しかしいままで以上に格差が拡大することや、AIを独占する企業が誕生することも懸念される。

要約

AIが生み出した予測マシンの可能性

経済学から考えるAI

AIについて語るとき、ディープラーニングや深層強化学習といったテクノロジー面に焦点が当てられがちで、専門外の人間からするとわかりにくいところも多い。しかし経済学の観点からAIを「安価な予測マシン」と捉えると、その本質が理解しやすくなる。

AIがもつ予測精度は、いま驚異的な速度で進化している。予測のコストがこのまま下がり続ければ、予測が役に立つ活動は増え続け、応用範囲は広がっていく。予測のコストが下がると、その「補完財」であるデータやセンサーの価値も高まっていくことになる。

データが「石油」と化すAI時代
jo youngju/gettyimages

AIには大量のデータが必要なので、データの価値は高まる一方だ。AIが普及するにつれ価値が高まるデータを、「新しい石油」と呼ぶ人たちもいる。たとえばアップルウォッチの心拍数を計測するアプリは、大量のデータを予測マシンと結びつけることで、心臓発作の兆候を予測できる。このような機械学習による予測精度は、従来型の統計にもとづくデータ処理モデルとは比較にならないほど性能がいい。その結果「知能」と呼ばれるまでに予測マシンは進化したといえる。

データは統計学的に収穫逓減(ていげん)の法則にしたがうため、データが大量にあればあるほど、その価値は下がることになる。しかし大量のデータ保有は、提供するサービスにわずかな違いを生み出す。その僅かな違いが、大きな競合優位を築くこともある。

予測の分業

急速な進化を遂げたAIだが、万能とはいえない。人間に欠点があるのと同様に、機械にも欠点がある。最大の効力を得るためには、人間と機械の役割を分担し、分業することが欠かせない。

複数の要因が複雑に絡み合う場合、たとえ専門家であっても人間は誤った予測をしがちだ。逆に予測マシンも、事象の発生度合いが低い場合や、因果推論の問題が発生するような場合では限界がある。

人間と機械は、間違え方のタイプが違う。ゆえに組み合わせることで、お互いの弱点を補完し合えるのだ。両者の適切な組み合わせが実現すれば、人間が機械の予測を改善し、機械が人間の予測を補えるようになるだろう。

決断における予測マシンの役割

決断の構造
Gilnature/gettyimages

私たちは、私生活においてもビジネスにおいても数多くの意思決定(決断)を行なっている。多くの場合、意思決定が行われるのは不確実な状況だ。機械学習が進化したいま、意思決定において予測マシンを効果的に活用することが求められる。だがそのためには、意思決定する際の決断の構造をまず確認しなければならない。

決断するためには、結果を予測し、判断することが求められる。そしてそれにもとづき行動に移る。予測は入力データや行動の結果から得られるフィードバックにより訓練され、精度が向上する。つまり決断は予測の他にも、入力、判断、行動、結果、フィードバック、訓練という6つのタスクから成り立っているといえる。

決断するにあたって、AIの得意な予測が重要な役割を果たすのは間違いない。しかし判断や行動については、依然として人間のほうが得意としている。予測の精度が向上しそのコストが低下すれば、人間の判断や行動の重要性はむしろ以前より増すはずだ。

予測マシンによる判断の実現

とはいえ人間の判断には、どうしても時間と労力が必要となる。

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要約公開日 2019.06.19
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