社長の条件

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出版社
出版日
2019年05月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

経団連会長と経営共創基盤代表取締役CEOによる、骨太の「プロ経営者論」が登場した。社長をいかに選ぶか。本書は、その重要性と難しさを認識させる力作である。いまの時代、企業のトップに何が求められるかは明白だ。難しい局面でも果断に決断でき、リーダーシップを発揮できる人物にほかならない。

日本では、「営業一筋」「ボイラー一筋」という職歴は、一見美しく見える。しかし、企業経営という観点からは不十分であり、より幅広い経験を積んでおくことが重要だ。特に若い時には修羅場を経験することが大事だという著者らの主張には、大いに頷ける。

成熟国家となった現代の日本は、何もしなくても経済成長の恩恵を受けられる環境ではない。どの企業も、知恵と工夫を凝らして競争を勝ち抜いていく必要がある。だが、これまで日本では、相変わらずの順送り人事や年功序列による社長や役員の選抜が珍しくなかった。今後は、実力があり、真に決断力を発揮できる企業トップを選ばなければ、企業は生き残れないといってもよい。

くわえて、コーポレートガバナンスが実践できているかどうかも重要な要素になる。社長の選び方が決まれば、人材育成や採用の仕方も変わるのは当然の流れであろう。本書では経営を「厳しい知的格闘技」と表現する。その厳しさに耐えられるだけの人材をいかに見出し、育てていくのか。令和時代の経営戦略を描くためのヒントが本書にある。

ライター画像
毬谷実宏

著者

中西 宏明(なかにし ひろあき)
経団連会長。日立製作所取締役会長。1946年生まれ。1970年、東京大学工学部電気工学科卒業、日立製作所入社。1979年、スタンフォード大学大学院修了(コンピュータエンジニアリング学修士課程)。1998年、日立ヨーロッパ社社長。2003年、欧州総代表。2004年から北米総代表を兼務。2005年、日立グローバルストレージテクノロジーズ社取締役会長兼CEO。2009年より日立製作所副社長として、川村隆社長(当時)とともに、同社V字回復を牽引。2010年より日立製作所社長。2014年、日立製作所取締役会長兼CEO。2018年5月より経団連会長。

冨山 和彦(とやま かずひこ)
経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。1960年生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験に合格。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。カネボウ等を再建。解散後の2007年、IGPIを設立。数多くの企業の経営改革や成長支援に携わる。パナソニック社外取締役、東京電力ホールディングス社外取締役。日本取締役協会副会長。『AI経営で会社は甦る』(文藝春秋)はじめ著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    これからの時代の経営者は、変化に対して鋭敏であり、自ら変化を創造していくようなセンスをもち、決断力を発揮できなければならない。
  • 要点
    2
    今後は企業の持続的な成長を実現するような、攻めのガバナンスが求められる。
  • 要点
    3
    社長の候補者は、できるだけ若くから経営視点でものを考え、金融サイドと事業サイド双方の視点を養う必要がある。
  • 要点
    4
    経営という厳しい知的格闘技を楽しめて、やりがいを見出せるかどうかが、経営者としての一番大事な資質である。

要約

変革の時代には社長の定義が変わる

産業の構造変化に対応することが急務
metamorworks/gettyimages

2018年、日本経済団体連合会(経団連)が、次代の日本の経済社会に向けた提言「Society 5.0」を発表した。これからは、デジタルトランスフォーメーションやITがますます浸透し、あらゆる産業の構造が大きく変化する。製造、サービスのあり方、物流などにおいても、過去の延長ではない劇的な変革が起きるのだ。こうした時代においては、変化に対して鋭敏であり、自ら変化を創造していくようなセンスをもった人でないと、経営者は務まらないといえる。

経営トップに求められる資質はどう変わったか?

現在は、トップの経営力がかつてないほど問われるようになっている。カギを握るのは企業トップの判断力であり、経営判断そのものが会社の方向性を大きく左右する。

たとえば電機業界でいえば、かつては同じような業態の大きな会社が、横並びで競い合っていた。しかし昭和、平成を経たいま、そうした風景は一変した。いいモノを作ったから売れるという時代ではもはやない。どうやったら生き残れるかという判断ができるリーダーが求められている。

マーケットがグローバル化する現在、経営者にはグローバルな環境で訓練を積む機会が必要だが、日本ではそうした機会が非常に少ない。オペレーションで経験を積んだだけで経営感覚を磨くことは難しい。良き課長が良き部長になり、良き取締役になって社長まで出世してゆく――。そんな従来の流れは、もはや通用しない。20年間同じ仕事をしてきた人が、その企業体の将来を考えられるかと問われると、それは厳しい。若い時期から、1つのプロフェッション(専門職)として経営の全体感をもてるようトレーニングを積むことが肝要だ。

修羅場の時にリーダーの本当の実力が問われる

バブルの崩壊期、産業再生機構にいた冨山氏は、会社が生きるか死ぬかの瀬戸際の時でも、自分で物事を決められない経営者を多数見てきたという。変革を伴う大胆な意思決定を下す際は、会社の構成員全員がハッピーにはなりえない。多くの場合、光と陰が生まれるのは仕方のないことだ。

そんな中、自分の意思決定に対する反響を、すべて引き受ける覚悟がない人が経営者やリーダーだと、それは会社にとって悲劇でしかない。マイナスの反響を恐れて、構造的に弱くなっていくノンコア事業を玉砕寸前まで引っ張ってしまうのは、むしろ不幸なことだ。だからこそ、自分で決断できるリーダーでないといけない。決断できるかどうかは向き不向きもあるが、決断することが正しいという認識をもてれば、ためらうことはないはずだ。

デジタルトランスフォーメーションの時代は、マーケット状況がシビアになる期間が非常に短くなっている。液晶事業で最高益を上げた関西の総合電機メーカーが、数年後に一気に経営危機に陥ってしまった例もある。ゆえに、素早く決断することが欠かせない。

では、そうした経営力やリーダーシップを養うためにはどうすべきなのか。重要なのは、海外拠点で従業員に給料が払えなくなるような局面で対処するというような、厳しい経験をすることだ。計算できないことが起きた時に対応する経験を積むと、腹が据わる。経営者という仕事に向く人材にいろいろなミッションを与えて、ある意味でエリート教育を行うことが必要となる。

【必読ポイント!】 日本企業再興に必須なガバナンス改革

「稼ぐ力」を取り戻すための処方箋

いわゆる「失われた20年」の間に、日本企業は世界での存在感を失った。その原因は、マクロ経済的な要因のみならず、企業レベルで「稼ぐ力」を失ってきたことにも起因している。このミクロレベルの最大の問題は、ガバナンス不在の日本的経営、つまり企業の上層構造にある。日本を再び活性化させるには、コーポレートガバナンス経営の実践が欠かせない。ガバナンスが変わると日本経済全体も変わるはずだ。

戦略を取締役会が議論することが重要
Rawpixel/gettyimages

コーポレートガバナンスの議論は、「Society 5.0」時代の経営という脈絡でとらえなければならない。つまり、戦略性という観点での議論が必要だ。ガバナンスとは、下から上がってきた、実行してきたことの結果の報告を審査することではない。これからのガバナンスは、企業の力をどこに向けていくかといった戦略を議論できる仕組みをつくることである。会社の不正を正すだけでなく、企業の持続的な成長を実現するような、攻めのガバナンスこそが求められる。

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要約公開日 2019.08.07
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