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本書の要点

  • 1990年代末、倒産寸前の日産自動車は仏ルノーと提携し、COO(最高執行責任者)としてカルロス・ゴーン氏を迎え入れた。ゴーン氏は決断の甘い日産幹部に代わって、大胆なコストカットと人員削減により、日産をV字回復に導いた。

  • 提携当初、日産とルノーは対等な関係をめざしていた。しかし、2001年のルノーによる日産株の買い増しにより「不平等条約」に発展。日産はルノーの「キャッシュカウ」となった。

  • 業績回復後は拡大路線の一途を辿り、日産・ルノー連合は三菱自動車を傘下に置いた。一方で、急激な拡大により、品質の低下や不正が生じた。

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フランスから舞い降りた救世主

コストカッター、カルロス・ゴーン

1990年代末、日産自動車は存続の危機に瀕していた。巨額赤字にもかかわらず、リストラや工場閉鎖は中途半端。2兆円以上もの有利子負債を抱えていた。窮地にあった日産は、1999年3月にフランスの自動車大手ルノーと資本業務提携を結ぶ。ルノーは6430億円を投じ、日産の株式を36.8%取得して再建に乗り出した。

「問題意識はあっても行動が徹底しない」。日産の企業風土は社内外からこう評されていた。過剰設備への対処や原価軽減、商品開発に至るまで、すべての決断に甘さが残り、それが業績悪化の要因となっていた。

かつては業績不振に苦しんでいたルノーを救ったのは、「コストカッター」の異名を持つカルロス・ゴーン氏。96年に仏タイヤ大手ミシュランから引き抜かれた人物だ。ゴーン氏はルノー入社後、ベルギー工場の閉鎖をはじめとする徹底した合理化と購買コスト削減を断行。またデザイン担当の副社長の手腕により、「トゥインゴ」などのヒット車を連発。ルノーは欧州メーカー販売台数トップとなり、瞬く間に業績は回復した。

日産は、自ら再建するための人的支援として、カルロス・ゴーン氏をCOOとして迎え入れた。日産とルノーが選んだのは、互いの企業文化を尊重しながら、購買や開発などの相互協力できる部分で戦略を統合する「提携」という道だ。

妥協のない再建

IndypendenZ/gettyimages

1999年6月25日、ゴーン氏は株主総会を経て日産自動車のCOOに就任した。日産は過去8年間のうち7期が連結赤字。99年3月期連結決算では、最終赤字が277億1400万円を記録した。

ゴーン氏はまず、日米欧にある日産の拠点を訪問し、数百人の社員から話を聞いた。役員より先に部課長クラスとの面談を行ったのは、現場の声を重視したためだ。「君の部署の問題は」「何を改善したら現状が好転するか」と、直接彼らの意見を聞いた。その結果をCEO(最高経営責任者)の塙義一社長に報告。塙社長は「ゴーンさんが高く評価しているのは、自分が知らない人物ばかり」と驚いたという。ゴーン氏は、これまで経営中枢に届かなかった現場の声を吸い上げ、「妥協のない再建」へと動き出したのである。

日産の企業文化を破壊

99年10月、ゴーン氏は日産再建の計画書「日産リバイバルプラン(NRP)」を発表した。NRPでは、工場閉鎖や人員削減、非自動車事業の売却など、復活に不可欠な課題を掲げていた。とりわけ早く大きな効果を見込めるのは、コストの6割を占める購買である。

そこでゴーン氏は、部品・資材メーカー500社を集め、説明会を実施。3年間で20%の購買コスト削減への協力を要請した。さらには、今後は部品・資材の調達先をこれまでの半分に絞り込むこと、その際、資本関係の有無を考慮しないことを伝えた。日産は、自らの生き残りのために巨大な系列解体に着手したのである。これに対し、「長い間一緒に努力してきたメーカーを切り捨てるのか」という思いがまじった声も上がった。

ただし、系列の解体により、ゴーン氏はリスクも抱えることとなる。日産としても、コスト削減の達成を系列メーカーに頼れなくなるからだ。これまで無理を聞いてくれる存在だった系列メーカーが、NRPに賛同せず去ってしまえば、プラン自体が画餅に終わりかねない。ゴーン氏には微妙な舵取りが求められた。

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【必読ポイント!】 ゴーン帝国の誕生

日産とルノーの「対等」な関係

bee32/gettyimages

ルノーには、短期間で奇跡的なV字回復を遂げた、コスト削減とヒット車開発の遺伝子がある。一方、日産の強みは、研究開発や生産技術、品質管理などの分野で秀でていることだ。

ゴーン氏は、両社の優れた部分を交配する「遺伝子組み換えチーム」を編成。先進技術開発戦略を担当していたパトリック・ペラタ氏や、仏財務省出身のティエリー・ムロンゲ氏など、ルノーからは21名が派遣された。日産からは塙社長のほか技術担当副社長だった澤田勉氏などがルノーに送り込まれ、開発や生産技術面でルノーに協力することになった。

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要約公開日 2019.08.15
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