転職は一般的な選択肢になったものの、転職のセオリーはアップデートされているとはいいがたい。
転職をしようと考えたとき、これまでの職歴から強みや実績で自分を売り込む人が多いだろう。しかし、著者は採用する側から見れば、それによって生じる他の候補者との違いは、「誤差の範囲」だという。同じような仕事をしてきたのなら、誰でも似た経歴や強みを持つようになるものだ。
自分の強みといっても、マニュアルや評価項目に書かれていそうなことばかりが浮かぶのではないだろうか。さらにいえば、強みで勝負すると、自分よりも優秀な人が出てきたら負けとなってしまう。強みを生かしたパーソナルブランディングは、圧倒的な強さで勝ち続けられる人にしか通用しない。
著者がすすめるのは、「持ち味」を生かした転職だ。自分の資質に合っていることは、特に意識しなくてもスイスイできる。変化の激しい時代では、資質がないことまで新しい技術や知識を覚えていくのではキリがない。自分の資質を知り、キャラをはっきりさせて、自分軸を育てていくことが重要だ。
キャリアというと、その会社で上に登っていくことをイメージしがちだ。しかし、上に行けば行くほど、熾烈なポジション争いが待ち受けている。上に上がったところで、下のマーケットが増えるわけでもない。そこで著者がすすめるのは、視点を変えて「横の山」に登ることだ。対象となるマーケットを移し、そのマーケットでよそ者の視点と知見から、新しい価値を提供するのである。
そのときのキーワードは「逆張り」だ。ライバルがいないか少ない「アウェイ」にスライドし、自分の資質や経験の中から相手に喜んでもらえそうなことを行う。好例といえるのは、お笑いの世界で時代をつかんだ西野亮廣さんである。彼はお笑いでの知見を生かし、絵本作家、オンラインサロンなど、新たな事業を次々と当てている。
いざ転職するとなると、転職先の企業に貢献できるのか、不安はつきものだ。もし前の会社に戻りたいと思ったとしても、一度退職すれば、自分のいたポジションには他の誰かがおさまってしまう。そう思うとなかなか転職に踏み切れないだろう。しかし、著者は新しい会社や仕事との相性は、事前に8割以上はつかめるというのだ。
見るべきポイントは、「仕事」や「会社の価値観」と自分の資質がマッチするかどうかである。ある会社で優秀だった人が、同業他社に移ったら結果が出ず、普通の人になってしまったという話を聞いたことがあるだろう。仕事と本人の資質はフィットしているのに、このような事態に陥るのは、その会社のカルチャーと合わないからだ。
著者は、会社のカルチャーを知るために、経営理念を「YES/NO」の判断基準で分析することを推奨している。会社の経営理念を取り出し、それを「YES」とするのであれば「NO」は何かを考える。それによって、会社のカルチャーの背骨が見えてくる。
たとえば、「みんなで決める文化」と経営理念にあるとしよう。これを「YES」とすれば、反対のキーワードの「NO」は何かと考える。そこで「トップダウンがない」が思いついたとしたら、それによって起こりそうな問題を考えるのだ。すると、「個人に権限がなく、いちいち決済承認が必要なのでは」「意思決定が遅いのでは」といったことが思いつく。そして、「ベンチャーというが、実は堅実なカルチャーなのではないか」といった仮説が立てられる。
これをすべての項目で実施し、矛盾が何なのかを精査する。そして、この判断軸で実際に意思決定が行われているのか、面談などで会った相手に直接聞けば、カルチャーの実態が見えるだろう。
どんなに儲かる仕事でも、自分に向いていなければ活躍できない。そして、向いている仕事であることを前提にすれば、儲かる業界や組織に移った方がよい。儲かりにくい業界は、どんなに大変な仕事でも利益が出にくく、それゆえ年収が上がりにくいためだ。
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