「うつ」は炎症で起きる

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「うつ」は炎症で起きる
出版社
出版日
2019年05月31日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「体が資本」という言葉が示すように、私たちは自分の健康に気を配り、家族の健康に気を配る。体さえ健康であれば、与えられた仕事をこなし、家族との大切な時間を過ごすことができる――私たちの多くはそう考えている。

しかしいくら体が健康でも、満足に動くこともままならなくなる病気がある。それが「心の風邪」と形容されるまでに身近になった、うつ病だ。現状ではうつ病の予防方法も治療方法も、十分に解明されているとはいいがたい。しかし本書を読むかぎり、うつ病の原因を自分の心の弱さやストレスと決めつけてしまうのは早計のようだ。場合によっては、そうした思い込みはうつ病の症状を悪化させるだけだという。

本書がなによりもユニークなのは、心や精神の側からだけではなく、身体の側からうつ病のメカニズムを解明していこうとするところである。「炎症の治療がうつ病に効果がある」と聞くと、戸惑う方もいるかもしれない。しかし炎症がうつ病を引き起こすメカニズムを明確に語っているため、十分に説得力を感じられるのではないか。そのぶん多少の専門用語が登場するが、丁寧でわかりやすく解説されているので、あまり苦にはならないはずだ。

思えば私たちの住む社会は、不登校や引きこもりにあふれている。世の中には想像以上にうつ病がはびこっているのかもしれない。うつ病に関する見方を、ガラリと刷新してくれる快著である。

ライター画像
香川大輔

著者

エドワード・ブルモア (Edward Bullmore)
ケンブリッジ大学の精神医学科長および臨床神経科学科のウルフソン脳イメージングセンター長。ケンブリッジシャー&ピーターバラNHSファウンデーション・トラストの精神科の名誉専門医、および研究開発部部長でもある。文学士、医学士、博士、王立内科医協会員、王立精神医学会員、イギリス医学院会員。オックスフォード大学を経て、ロンドンの聖バーソロミュー病院で医学を学ぶ。香港大学で内科医として勤務した後、ロンドンのセントジョージ病院、王立ベスレム病院、モーズレイ病院で精神科医としての教育を受け、キングス・カレッジ・ロンドンの精神医学研究所で臨床科学者としての教育を受ける。1999年より、ケンブリッジ大学精神学科教授。2005年から、グラクソ・スミスクラインで非常勤講師をしており、現在、うつ病のための新たな抗炎症薬の開発のために産学協同体を率いている。神経科学およびメンタルヘルス分野の世界的エキスパートである。

本書の要点

  • 要点
    1
    「精神と身体は完全に別個のものだ」という心身二元論にとらわれてはならない。
  • 要点
    2
    マクロファージやサイトカインといった免疫系物質は、うつ病の発症と密接に関係している。
  • 要点
    3
    心と身体の垣根を超えてうつ病を捉えることにより、充実した医療サービスが提供される可能性は高まるだろう。

要約

【必読ポイント!】 うつ病と炎症の関係性

心と身体を免疫でつなぐ神経免疫学
tadamichi/gettyimages

うつ病は身近な病気だ。しかしうつ病になると多くのことに支障をきたし、生活の質や寿命が低下してしまう。

残念なことに、うつ病の原因やその対処方法に対して、確固たる答えはまだ出ていない。広く普及しているうつ病の治療薬は存在しているものの、ここ30年で飛躍的な進歩はなく、その効果は十分でないことが多い。このままだとうつ病は、世界に弊害をもたらす最大の要因となるおそれがある。

うつ病は心や脳の問題だと捉えられているが、うつ病のメカニズムを解明するには、思い切って別の考え方をする必要があるだろう。一般的にうつ状態に陥る原因として、深刻な病気やネガティブな体験が挙げられる。たとえばある患者がリウマチ性関節炎という炎症性疾患を患ってうつ状態になった場合、それは「リウマチ性関節炎にかかって悲観的な気分になったから、うつ病になったのだ」と考えられる。一方で「炎症が直接人の思考や行動に影響を与える」とは思われない。その根底には、「精神と身体は完全に別個のものだ」というデカルトの心身二元論(以下、二元論)が横たわっている。

こうした考えを覆しうるのが、心と身体を免疫系というメカニズムによってつなぐ「神経免疫学」(あるいは「免疫精神医学」)という学問分野である。神経免疫学だと、リウマチ性関節炎にかかった患者がうつ状態になったのは、炎症を起こしたことで産出されたサイトカインという炎症性タンパク質に原因があると考える。これが血液に乗って体中をめぐり脳に達することで、炎症シグナルが脳の神経細胞に伝わる。すなわち「心が炎症を起こした」というわけだ。

われ思う、ゆえに憂うつ
Nastasic/gettyimages

炎症とうつの関係性がこれまで無視されてきたのは、デカルトの二元論と無関係ではない。デカルトは「体は物理的、心は精神的」とし、両者を明確に区別した。多くの部品(神経、血管、筋肉)などから構成される人体を、デカルトは機械と捉えたのである。

このようないわゆる「人体機械論」は、人体を科学的に解明するきっかけとなった。その一方で、顕微鏡で見たり部品に分解したりできない心は、科学的に扱いにくいことから、心と体は同じではない異種のものとして捉えられてきた。

多くの医者もこのような二元論を根底に抱いている。そのため心と体を明確に区別しようとし、炎症を起こしたうつ病の患者を見ても「やっかいな病気にかかったことを知ったから、うつ病になった」と考えてしまう。デカルトの有名な言葉を借りるのであれば、「われ思う、ゆえに憂うつ」となる。

炎症と「うつ」をつなぐ免疫の仕組み

デカルト的二元論にとらわれず、「炎症が原因でうつ病が引き起こされる」という考えを理解するには、まず免疫の仕組みを理解する必要がある。

刃物で手を刺すなどして体のなかに細菌が侵入した場合、その細菌は驚くべきスピードで増殖を始める。こうした細菌の攻撃に対し、体中の隅々に張り巡らせる防衛線の役割を果たすのがマクロファージだ。マクロファージは敵の細菌に直接攻撃を加え、これを破壊する。同時にサイトカインを分泌することで、他のマクロファージを奮起させ、救援を依頼する。

しかし免疫系が細菌の増殖を抑制するために攻撃を加える際、罪のない第三者を誤って攻撃してしまうことがある。その際に分泌されるサイトカインが脳にまで到達すると、マイクログリアを活性化させ、脳にも影響を及ぼしてしまう。

炎症とうつの間の因果関係

炎症とうつ病の因果関係を調べる方法としては、一定期間にわたり、同じ人のサイトカイン濃度と気分状態をくりかえし測定するというやり方がある。

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要約公開日 2019.10.13
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