依存症というと、薬物やアルコール、またはギャンブルなどが一般的に連想される。だが「新時代の依存症」として近年指摘されるのが、行動嗜癖だ。
行動嗜癖とは、なんらかの悪癖を常習的に行うことである。たとえば「毎日筋トレせずにはいられない」、「ドラマを一気に何話も見てしまう」、「インスタグラムでしきりに投稿してしまう」……これらはすべて行動嗜癖の一種だ。そしてその多くには、常習を促すテクノロジー系プロダクトが関係している。まさに依存症ビジネスである。
1日に何時間、何回スマートフォンをいじっているか、その実態を知ると戦慄を覚えるはずだ。「モーメント」というアプリのデータによると、平均1日3時間、39回だという。これを月に換算するとほぼ100時間、スマホを手にしている計算になる。携帯を手元に置いておかないと不安を覚える「ノモフォビア」という言葉も生まれたほどだ。
人間は自分の行動が他人に影響を与える様子を直接観察することで、他者に共感したり理解したりする方法を学ぶ。だが傍にスマホを置いたまま子どもの世話をしていれば、自然と目はスマホにいってしまい、注意が逸れがちになる。そして対面でのコミュニケーションではなく、テキストメッセージやSNS上でのやりとりが中心になると、相手の反応を直接読むことができなくなっていく。
このように携帯デバイスを近くに置いておくだけで、悪影響が生じることもあるのだ。
ベトナム戦争に赴いたアメリカ兵の実に85%が、「退屈」からヘロインに手を出したとされている。ヘロインは非常に依存性の高い薬物で、一度手を出すと95%は依存症状から抜け出せない。しかしヘロイン依存症となったベトナム戦争の帰還兵たちは、その95%が症状を再発させなかった。この結果は何を意味するのだろうか。
依存症は本人の性格だけでは語れない。ベトナム戦争の帰還兵たちが依存症から脱せられたのは、ベトナムという環境から離れたからである。ゲームのようなプロダクト、ベトナムのような場所など、依存症状を呼ぶ「合図」があるからこそ、依存症に陥ってしまうのだ。
世界で最も猛威を振るい、成人全体の3分の2が罹患している現代病は、慢性的な睡眠不足だと言われている。その原因のひとつが、デジタルデバイスのブルーライトだ。これが睡眠へと誘うメラトニンの生成を阻害している。だがその事実が認知されるようになってきても、人びとは枕元に携帯電話を置き続けている。
薬物常習者とゲームの依存症患者の脳では、ドーパミンの負の無限連鎖が発生している。フルターボの快感をエラーと察知してドーパミンが抑えられると、人はドーパミンを求める行動を起こしてしまう。耐性ができると、脳はさらなる刺激を求めるようになるのだ。
とはいえ依存症はドーパミンの作用だけが原因ではない。じつは依存対象を欲しがる仕草を見せる依存症患者の多くは、その対象を好きなわけではない。「好きという気持ち(好感)」と「欲しいという思い(渇望)」は別なのだ。そして渇望は、好感よりも強い感情である。ある物資や行動と、心理的な苦しみからの解放感が一度結びついてしまうと、「欲しい」という気持ちを抑えることは非常に難しい。これが依存症の真実だ。
ゲームでもなんでも、慣れてくると飽きてくるものだ。だが試練や敗北を適当に味わえるようにすると、人間はそのゲームにはまり込んでしまう。
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