僕らはそれに抵抗できない

「依存症ビジネス」のつくられかた
未読
僕らはそれに抵抗できない
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「依存症ビジネス」のつくられかた
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僕らはそれに抵抗できない
出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2019年07月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

「ついゲームをやりすぎて今日も寝不足だ」、「同期の誰よりも稼ぎたくて残業しすぎてしまう」、「健康のために万歩計を見ながら毎日12,000歩歩いているけれど、だんだん疲れが抜けなくなってきた」……こうした行動の裏には、依存症が見え隠れする。

魅力的なプロダクト、次々と現れる目標値、健康への強迫観念など、現代社会は依存性を強めるものでいっぱいだ。ある意味でそれは、現代にはびこる「病」とも言える。しかし本書は、特定のプロダクトや目標を持つことそのものを「悪」と見なすのではなく、依存症になるプロセスや環境に焦点を当てる。誰でも最初から依存症になる気質があるわけではない。脳の異常や性格のせいにされがちな依存症だが、重要なのは冷静にそのメカニズムを解きほぐすことだ。

本書では刺激的な心理学実験が数多く紹介されており、ちょっとした行動にどのような意味づけがなされるか、その根拠がわかるようになっている。また依存症の解決方法についても、著者の理想論を押しつけるのではなく、現実的に可能な線で提示している。手放しに特定の解決策を推奨するだけでなく批判点も紹介し、どう利用すればよいか自ら考えるように促しているところにも誠実さを感じた。

すぐそばに置いてあるスマホをどう扱うか、そういうことからじっくり考えさせられる一冊だ。

著者

アダム・オルター (Adam Alter)
ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのマーケティング学科准教授。専門は行動経済学、マーケティング、判断と意思決定の心理学。『ニューヨークタイムズ』『ニューヨーカー』『WIRED』『ハフポスト』など、多数の出版物やウェブサイトで精力的に寄稿するほか、カンヌ国際広告祭やTEDにも登壇。2013年の著書『Drunk Tank Pink: And Other Unexpected Forces That Shape How We Think, Feel, and Behave』(邦訳『心理学が教える人生のヒント』林田陽子訳、日経BP社、2013年)は、ニューヨークタイムズのベストセラーとなり、マルコム・グラッドウェルやダン・アリエリーから絶賛されている。

本書の要点

  • 要点
    1
    「新時代の依存症」として、ゲームへの没入、インスタグラムの過剰な使用など、悪癖を常習的に行なってしまう行動嗜癖が近年指摘されている。
  • 要点
    2
    依存症は性格の問題ではなく、当人の虚無感などを癒すようにデザインされた環境やプロダクトに関係している。
  • 要点
    3
    依存状態に気づき、なぜそうなるのかを知ることが、克服への大きな一歩となる。
  • 要点
    4
    依存を促すテクノロジーは諸刃の剣なので、うまく利用して人生を豊かにすることもできる。

要約

人間は依存する生き物

新しい依存症

依存症というと、薬物やアルコール、またはギャンブルなどが一般的に連想される。だが「新時代の依存症」として近年指摘されるのが、行動嗜癖だ。

行動嗜癖とは、なんらかの悪癖を常習的に行うことである。たとえば「毎日筋トレせずにはいられない」、「ドラマを一気に何話も見てしまう」、「インスタグラムでしきりに投稿してしまう」……これらはすべて行動嗜癖の一種だ。そしてその多くには、常習を促すテクノロジー系プロダクトが関係している。まさに依存症ビジネスである。

携帯を携帯しすぎる
piola666/gettyimages

1日に何時間、何回スマートフォンをいじっているか、その実態を知ると戦慄を覚えるはずだ。「モーメント」というアプリのデータによると、平均1日3時間、39回だという。これを月に換算するとほぼ100時間、スマホを手にしている計算になる。携帯を手元に置いておかないと不安を覚える「ノモフォビア」という言葉も生まれたほどだ。

人間は自分の行動が他人に影響を与える様子を直接観察することで、他者に共感したり理解したりする方法を学ぶ。だが傍にスマホを置いたまま子どもの世話をしていれば、自然と目はスマホにいってしまい、注意が逸れがちになる。そして対面でのコミュニケーションではなく、テキストメッセージやSNS上でのやりとりが中心になると、相手の反応を直接読むことができなくなっていく。

このように携帯デバイスを近くに置いておくだけで、悪影響が生じることもあるのだ。

依存症は性格の問題ではない

ベトナム戦争に赴いたアメリカ兵の実に85%が、「退屈」からヘロインに手を出したとされている。ヘロインは非常に依存性の高い薬物で、一度手を出すと95%は依存症状から抜け出せない。しかしヘロイン依存症となったベトナム戦争の帰還兵たちは、その95%が症状を再発させなかった。この結果は何を意味するのだろうか。

依存症は本人の性格だけでは語れない。ベトナム戦争の帰還兵たちが依存症から脱せられたのは、ベトナムという環境から離れたからである。ゲームのようなプロダクト、ベトナムのような場所など、依存症状を呼ぶ「合図」があるからこそ、依存症に陥ってしまうのだ。

好きなのではない、欲しいだけ
AntonioGuillem/gettyimages

世界で最も猛威を振るい、成人全体の3分の2が罹患している現代病は、慢性的な睡眠不足だと言われている。その原因のひとつが、デジタルデバイスのブルーライトだ。これが睡眠へと誘うメラトニンの生成を阻害している。だがその事実が認知されるようになってきても、人びとは枕元に携帯電話を置き続けている。

薬物常習者とゲームの依存症患者の脳では、ドーパミンの負の無限連鎖が発生している。フルターボの快感をエラーと察知してドーパミンが抑えられると、人はドーパミンを求める行動を起こしてしまう。耐性ができると、脳はさらなる刺激を求めるようになるのだ。

とはいえ依存症はドーパミンの作用だけが原因ではない。じつは依存対象を欲しがる仕草を見せる依存症患者の多くは、その対象を好きなわけではない。「好きという気持ち(好感)」と「欲しいという思い(渇望)」は別なのだ。そして渇望は、好感よりも強い感情である。ある物資や行動と、心理的な苦しみからの解放感が一度結びついてしまうと、「欲しい」という気持ちを抑えることは非常に難しい。これが依存症の真実だ。

【必読ポイント!】 依存症が人を操るメカニズム

難易度のエスカレートがハイにさせる

ゲームでもなんでも、慣れてくると飽きてくるものだ。だが試練や敗北を適当に味わえるようにすると、人間はそのゲームにはまり込んでしまう。

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要約公開日 2020.01.03
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