ここ最近、しきりにイノベーションが重要と言われている。だが多くの経営層は、具体的な案を持たないまま変革やイノベーションの号令を出しているし、実際に現場で行われている施策も小手先のものにすぎない。いま根本的に新しいモデルが求められている。
日本のビジネス界には、新しいアイデアを持ちながらそれを形にする場がないという「モヤモヤ」を抱えている人が多い。イノベーションとは、ひとりの人間の「モヤモヤ」が妄想へと発展し、その青写真を描くために構想を練ることから始まるものだ。
ビジネス界におけるイノベーションの対象分野は、ユーザー体験を中心にした軽いものから、技術をユーザー価値に翻訳したうえで社会に実装するという、インフラそのものを再構築する重いものへと変化している。新たなコンセプトを「構想」することから、新たなコンセプトを広げるために組織を変化させ、社会に「実装」していく――私たちはそんなイノベーション実践の時代に突入している。
企業内イノベーションの世界では、新規事業と既存事業は相容れないものだ。このふたつはそれぞれ、「創造」と「管理」というまったく異なる原理で動いているからである。
「管理」は産業革命によって生まれた「モノをつくるための会社」、すなわち「生産する組織」を合理的に運営するための手法だ。それに対して「創造」は情報革命によって生まれた「知識やアイデアをつくるための会社」、すなわち「創造する組織」における日常の営みである。
「生産する組織」ではトップが資本を投じ、トップダウンで生産目標が決められる。短期間で安定して目標を達成するため、各工程に人を割り振りし、給料により人を管理する。ここでは分業により仕事を標準化し、生産の安定化・最大化を図る。一方で「創造する組織」は、長期的に新たなアイデアや事業などを通じて、新しい価値を生み出し続けることを目的とする。生産のための設備は人であり、人のエネルギーによって駆動するため、アウトプットは安定しない。アイデアとアイデアの出会いにより、突然変異のように創造することが営みの中心だ。
イノベーションの現場の常識が既存の管理型の人間に理解されないのは、このふたつの世界がまったく異なっていること、またそれらがどう異なっているのかが共有されていないためなのである。
すでにビジネスモデルができあがっている組織では、トップが立てた戦略に合わせて組織構成を決め、役割にあわせて人をはめこんでいく。一方で新しい仕組みを創造しなければならないイノベーションの現場では、「組織は人に従う」ものだ。事業オプションが複数ある場合、事業性よりも事業リーダーとの相性がいいかどうかが、最終的に成否を分けることが多い。新たなものを生むとき、リソースは何よりも「人」なのである。
トップダウン型の組織では、人は部品としての役割をまっとうすることを求められるため、「どんな世界をつくりたいか」といった美意識を含む主観は出さないほうがいい。しかしイノベーションの現場では、こうした主観こそが原動力となっていく。
なによりも重要なのは、プロジェクトが「自分事」になっているかどうかだ。
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