経営改革大全

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出版社
日経BP 日本経済新聞出版本部

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出版日
2020年02月19日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

著者の腹案では、本書のタイトルは『間違いだらけの経営モデル選び』だったという。あるベストセラーのパロディになってしまうのであきらめたというが、これは本書のめざしているところを端的に表しているといえるだろう。

本書では、100の経営モデルを取り上げて、それぞれについての「通説」と「真説」が対比されている。単純に通説が否定されているわけではない。通説とは「過去」の解釈であり、真説とは「未来」に向けての解釈と捉えるべきだろう。

著者がとりわけ強調するのは、「グローバル・スタンダード」および株主第一主義についての誤解と、「働き方改革」のはきちがえである。グローバルと呼ばれているものは、しょせんアメリカ企業のものまねにすぎない。そのアメリカにおいてすら、企業は株主のものであるという通説は、もはや過去のものになろうとしている。それなのに、あいかわらずグローバルという教条主義にとらわれて、長期的視点を脇に置き、ROE(自己資本利益率)の数字に汲々としている日本企業がある。

また、働き方改革をワーク・ライフ・バランスと読み解いて、時短やリモートワークなどといったうわべだけのブームに走っている企業が後を絶たない。著者によると、本来手を入れるべきところは働き方ではなく「働き甲斐」だ。

著者は、異質なものを取り込み、より上質なものへと昇華する日本企業の伝統にある「和」の力に着目する。その上で提案される「志本主義」に、きっと誰もが納得するだろう。

ライター画像
しいたに

著者

名和高司(なわ たかし)
一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻客員教授
東京大学法学部卒、ハーバードビジネススクール修士(ベーカースカラー授与)。三菱商事(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして、約20年間、コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。日本、アジア、アメリカなどを舞台に、多様な業界において、次世代成長戦略、全社構造改革などのプロジェクトに幅広く従事。
2010年6月に一橋大学大学院特任教授に就任。同校においては、「問題解決」「イノベーション戦略」「デジタルトランスフォーメーション戦略」「コーポレートガバナンス」などを担当。2014年より、30社近くの日本企業の次世代リーダーを交えたCSVフォーラムを主宰。
デンソー(2019年6月まで)、ファーストリテイリング、味の素、NECキャピタルソリューション(いずれも現在も)の社外取締役を兼任。
主な著書に『学習優位の経営』(ダイヤモンド社、2010年)『失われた20年勝ち組企業100社の成功法則』(PHP研究所、2013年)、『CSV経営戦略』(東洋経済新報社、2015年)『成長企業の法則』(ディスカバー・トゥエンティワン、2016年)『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』(ディスカバー・トゥエンティワン、2018年)『企業変革の教科書』(東洋経済新報社、2018年)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    マルチステークホルダーに配慮する本来の日本型経営こそ、アメリカ型資本主義が次にめざすものだ。日本企業は遅れているのではなく、むしろ先を行っている。
  • 要点
    2
    次世代の価値軸となるのは、プロフィット(利益)ではなく、パーパス(志)である。人間の高い志や熱意、執念が周りの賛同を生み出し、新たな価値を生む。そして志を社内、社外に広め、共有することで、ますます価値が高まっていく。これからは「資本主義」ではなく「志本主義」の時代だ。

要約

株主から社会へ

ROEを追求する日本企業

企業は株主のものである。株主からあずかったお金でどれだけ効率よく利益を生み出したのかというROE(自己資本利益率)こそが、経営者が追求すべき数値目標だ。

こうしたアメリカ流株主第一主義は、一時期日本のビジネス社会を席巻した。その象徴が、ROEは8%以上確保しなければならないと説いた2014年の「伊藤レポート」である。

近年、日本版コーポレートガバナンス改革が、こうした動きに拍車をかけている。その結果、すぐに収益回復できない事業は売却する、リスクの高い投資は絞り込むなどして、キャッシュをため込まずに、配当や自社株買いでROEの数字をあげることを最優先している企業が多くある。

ところが、こうして日本企業が懸命にあとを追おうとしている株主第一主義は、当のアメリカにおいて見直されつつある。

株主第一主義の見直し
utah778/gettyimages

2019年8月、アメリカの主要企業の経営者181名が集まるアメリカ最大の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は、数十年貫いてきた「株主第一主義」を改めると宣言し、世界の注目を集めた。そこでは次のように、主要な5つのステークホルダーと、経営者がそれぞれのステークホルダーに対して果たすべき役割が挙げられている。

(1)顧客:顧客の期待に応えてきた伝統を前進させる

(2)従業員:公正な報酬の支払いや福利厚生の提供

(3)取引先:規模の大小問わず、良きパートナーとして扱う

(4)地域社会:持続可能な事業運営で、環境を保護する

(5)株主:長期的な株主価値の創造に取り組む

注目すべきは、株主利益の尊重が5番目に掲げられていることである。この声明を懐疑的にみる向きもあるが、従業員や地域社会を含むマルチステークホルダー主義は、アメリカにおいても着実に浸透しつつあるとみていいだろう。

アメリカの先を行く日本型経営

マルチステークホルダーの考え方は、日本企業にこそ親しいものではないだろうか。日本にはかねてより、企業は社会の公器であるという考え方があったからだ。「三方よし」は、その代表例である。

株主以外のステークホルダー、ひいては社会全体に配慮する本来の日本型経営こそ、実はアメリカ型資本主義が次にめざそうとしているところなのではないだろうか。わたしたちは、アメリカの後を追っているのではない。むしろ何周も先を走っているのだ。

働き方から働き甲斐へ

ワーク・イン・ライフをめざす
Prostock-Studio/gettyimages

いま日本では、一億総活躍社会の実現に向けて、労働環境を大きく見直す取り組みが進んでいる。いわゆる「働き方改革」である。その中身は、「労働時間の短縮」と「正規・非正規の格差の解消」、そして「柔軟な働き方の実現」の3つだ。

こうした取り組みは、ワーク・ライフ・バランスという言葉からうかがえるように、ワークとライフは別のものであるという発想のもとに行われている。だが仕事は人間にとって生活の重要な一部であり、多くの人が、起きている時間の過半数を仕事に費やしている。それなのに、仕事を単なる時間の切り売りと位置づけること自体が問題ではないだろうか。ワークとライフを切り離すのではなく、ワークをライフの一部に組み入れる必要がある。

ワークをライフの一部に組み入れるために、著者は

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要約公開日 2020.07.17
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