ADHDの正体

その診断は正しいのか
未読
ADHDの正体
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その診断は正しいのか
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ADHDの正体
出版社
出版日
2020年04月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

心の病に対する理解は、近年になって高まってきたと言える。しかし、ADHDや発達障害について、それがどのようなものか、他の病とどのように違うのか、正しく説明できる人は少ないのではないだろうか。実際にADHDと診断された人であっても、病の全容を精確に把握できていないかもしれない。それでは、医者の治療方針が本当に自分に合っているかどうか、自分では判断できないだろう。あるいは、社会生活や対人関係において漠然とした生きづらさを抱え、「もしかしたら自分はADHDかもしれない」と不安を抱えている人も、少なからず存在するのではないだろうか。

本書は、近年増加している「大人のADHD」が、従来考えられていたように子どもの発達障害の延長線上にあるものかどうか、疑問を提起している。さまざまなエビデンスに基づいて、大人のADHDは遺伝的要因ではないところにも大きな原因があることを明らかにしていく。大人のADHDは薬を処方するだけではよくならない場合が多く、別の側面から問題に取り組む必要があるのだ。そのヒントは「愛着」という言葉にある。

これは、ADHDの診断を受けた人に限った話ではない。なんとなく生きづらさを感じている多くの現代人にとって、共通する問題ではなかろうか。その対策と予防法を提案している本書の主張は、広く一般社会の問題をよい方向に導くものとして捉えることができるだろう。

ライター画像
大賀祐樹

著者

岡田尊司(おかだ たかし)
岡田クリニック院長、精神科医。1960年香川県に生まれる。東京大学文学部哲学科に学ぶも、象牙の塔にこもることに疑問を抱き、医学を志す。京都大学医学部で学んだ後、同大学院精神医学教室などで研究に従事しながら、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。2013年に岡田クリニック(大阪府枚方市)を開院したのは、生きづらさを感じながら日々を過ごしている人が気軽に相談できる身近な「安全基地」になりたいとの思いからだった。『脳内汚染』(文藝春秋)、『愛着障害』(光文社新書)、『人間アレルギー』(新潮社)など多くの著作を通じても、人々の悩みや不安に向き合っている。

本書の要点

  • 要点
    1
    ADHDは先天的な発達障害と考えられてきたが、近年になって診断を受けた人が急増しているため、遺伝だけが要因とは考えられなくなった。
  • 要点
    2
    特に大人のADHDは環境要因の影響が大きく、不安定な愛着によって引き起こされる場合が多い。養育の過程における愛着の問題が親から子へ受け継がれることで、遺伝要因と養育要因が混じり合う。
  • 要点
    3
    愛着障害による擬似ADHDに対する薬物療法ではデメリットのほうが大きい。症状を一時的に抑えようとするのではなく、根本的な愛着の問題と向き合う必要がある。

要約

大人のADHD

急増するADHD
Ankabala/gettyimages

ADHDは、多動・衝動性、不注意を特徴とする障害で、先天的な脳の発達のトラブルによって起きる発達障害の1つとされる。たいていは成長するにつれて改善がみられる。しかし、「大人のADHD」のケースも急増している。大人になっても症状が残る、あるいは子どもの頃には気づかれず、大人になって初めて診断される場合だ。

薬を処方されたが良くならず、セカンドオピニオンを求める人も増え始めている。患者自身が薬に期待しているとしても、臨床医がADHDと診断して抗ADHD薬を処方することに対し、疑問に思う部分は多い。

この違和感の正体を明らかにするために、ADHDをめぐる状況について徹底的に調べ直すことにした。ADHDをはじめとする発達障害は、ブームと言っても過言でないほど多くの人の関心を集めているが、なぜそんな事態が起きているのか。診断や診療は適切に行なわれているのか。それに対する答えは、ある意味不都合な真実となるかもしれない。

大人のADHDは発達障害なのか

ADHDは、1990年代半ばまで、主に子どもの障害と考えられていた。早くからADHDの薬物療法が行なわれていたアメリカでは、成人になっても薬剤投与を止められないケースが膨大な数に上った。臨床現場からの切実な訴えを受けて、近年になり日本でも成人に対するADHDの診断と投薬が認められるようになっていった。一方で診断基準が緩められていった結果、60代の人にまで処方するなど首をかしげるようなケースが目立つようになっている。患者、治療者の双方にとっても、薬の効果を実感できない状況が生まれているのだ。

「大人のADHD」は、児童期から成人期まで持続している神経発達障害を認められることが、その診断の根拠となっていた。ところが、そんな大前提に真っ向から疑義を突きつけるような研究結果が、2015年に発表された。ニュージーランドの地方都市で同時期に誕生した子ども1037人を対象に、38年もの長期にわたって追跡調査が行なわれた。その結果は次の通りである。児童期にADHDと診断された人の9割以上は、年齢とともに治癒した。一方、成人になってADHDと診断された人のおよそ9割は、児童期にはADHDではなかった。つまり、成人のADHDは児童のADHDとは別物であることが示され、発達障害だという前提自体が怪しくなったのだ。

実際このほかの研究でも、成人のADHDと児童のADHDとで異なる特性がいくつも認められている。しかし、「大人のADHD」の原因が何であれ、かれらが助けを必要としているのは間違いない。

ADHDを生み出す要因は遺伝だけなのか

ADHDという概念の形成
KatarzynaBialasiewicz/gettyimages

ADHDは先天的な神経発達障害だとされているが、その根拠はどこに由来するのだろうか。

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要約公開日 2020.08.11
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