22世紀を見る君たちへ

これからを生きるための「練習問題」
未読
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出版社
定価
946円(税込)
出版日
2020年03月18日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「努力すれば報われる」「頑張ることに意味がある」は、日本で古くから言われてきた、王道の精神論である。日本は戦後数十年間、この独自の「ガンバリズム」のもと飛躍的な発展を遂げてきた。もちろんこの頑張りは間違いではないし、努力は必要だ。しかし、これは「一億総中流」という稀有なバランスで成り立っていた、当時の日本社会だからこそ功を奏した精神論だとも言える。

今の私たちを取り巻く世界は、個人的な頑張りだけではどうしようもない問題に溢れている。感染症、異常気象、格差社会……。真面目に生きているのに、頑張っているのに、なぜこんな事態になるの? と天を仰ぐようなことばかりだ。IT化などに伴い、今後はさらに予測できない時代になるだろう。そんな不透明な時代に必要な「教育」とは何か。本書は、2020年度に行われる大学入試改革を軸に、日本の教育問題に深く切り込んでいる。

長らく「努力」の結果としての学力を重視した大学入試が行われてきたが、この度の改革によりその路線が変わるという。もちろん基礎学力は必要だが、アイデア力、コミュニケーション力、コーディネート力などの多様な能力が評価対象となる。もちろん、この中には「努力する力」も入るだろう。

自分たちが受けてきた「教育」は、その時代の価値観を反映したものであること。今後は過去の「成功体験」を追随しても意味がないこと。本書を読むと、それがよくわかる。教育関係者や保護者ならずとも、一読して損はない良書である。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

平田オリザ(ひらた おりざ)
1962年、東京都生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。戯曲と演出を担当。現在、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、大阪大学COデザインセンター特任教授。2002年度から採用された国語教科書に掲載されている平田のワークショップ方法論により、多くの子どもたちが、教室で演劇を創る体験をしている。戯曲の代表作に『東京ノート』(岸田國士戯曲賞受賞)、『その河をこえて、五月』(朝日舞台芸術賞グランプリ受賞)、『日本文学盛衰史』(鶴屋南北戯曲賞受賞)、著書に『演劇入門』『演技と演出』『わかりあえないことから――コミュニケーション能力とは何か』『下り坂をそろそろと下る』(以上、講談社現代新書)、『芸術立国論』(集英社新書)、小説『幕が上がる』(講談社文庫)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    2020年度に行われる大学入試改革では、従来の「努力」に基づいた学力審査から、「主体性・多様性・協働性」を問う内容に重点が置かれるようになる。
  • 要点
    2
    2000年代後半より、大学の定員数が志願者数を上回り、学生が大学を選ぶ時代になった。
  • 要点
    3
    ネット社会になり情報・知識の地域間格差はなくなってきている一方、生まれ育った環境に左右される「身体的文化資本」の格差が生まれている。今後の入試は身体的文化資本を問うものになっていくため、子どもたちの身体的文化資本が育つような教育政策に切り替えていく必要がある。

要約

現代日本における大学入試

未来はわからない
Wenjie Dong/gettyimages

教育とは、子どもたちに対し、来たるべき未来を生きるために必要な能力を授ける行為である。ここで言う来たるべき未来とは、20世紀前半頃までは、ある程度は予測できるものだったかもしれない。しかし今、未来予測は不可能だ。子どもたちが将来どんな職業に就くのか、そこで必要とされるスキルはどんなものなのか、誰もわからない。

もっともわかりやすい例は英語教育だろう。40年近く前、著者が通っていた予備校の恩師は「あと数年もすれば自動翻訳が発達するから、英語を学んでも無駄だ」と説いた。この予言は見事に外れたが、誰も彼を笑うことはできない。

21世紀の半ば以降、中国語やロシア語がより重要になるかもしれない。自動翻訳の進歩により、それをツールとして上手に使いこなしつつ、微妙なニュアンスを表情や身振りで伝えるコミュニケーション能力が求められる可能性もある。このまま英語が世界を席巻し続けるかもしれない。未来は本当にわからない。

大学入試改革

2021年1月、現行のセンター試験が廃止され、共通テストが開始される。

この大学入試改革は、高校と大学の授業カリキュラムにも変革を促す意欲的なものだ。そこで問われていたのは、新しい「学力」観である。

文部科学省は2007年、学校教育法を改正し「学力の三要素」という新しい提言を行った。この三要素とは(1)基礎的な知識・技能、(2)思考力・判断力・表現力等の能力、(3)主体的に学習に取り組む態度(主体性・多様性・協働性)の3つである。これらは並列ではなく、三角形の下から順に(1)→(2)→(3)と置かれている形だ。

今回の入試改革で求められているのは、共通テストのあとに各大学が課す2次試験で、「(2)思考力・判断力・表現力」または「(3)主体的に学習に取り組む態度」を測るような試験を行うことだ。では「主体性・多様性・協働性」を問う試験とは、どのような内容だろうか。

四国学院大学の事例
Prostock-Studio/gettyimages

ここでは、著者が考え、実践してきた大学入試について紹介する。

著者が客員教授、学長特別補佐を務めている四国学院大学は、香川県善通寺市にある、全生徒数1200人の私立大学である。全国的にも珍しいメジャー(専攻)制度を導入しており、1年次の教養教育を経て、2年次からは学部を越えて、すべてのメジャーの中から好きなものを選ぶことができる。中四国地区で唯一の演劇コースを有し、2016年度からは新制度入試を前倒しで実施しているという、先進的な大学である。

演劇コースの新制度入試は、6〜7人のグループに分かれ、与えられた題材でディスカッションドラマ(討論劇)を作るというものだ。この試験で評価基準となるのは、メンバーと協働して何かを成し遂げられるかどうかだ。生徒の持っている知識や情報量ではなく、生徒の本質を見極めることが目的である。

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要約公開日 2020.08.29
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