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本書の要点

  • 日本の社会構造の基礎は、鎌倉時代の武家社会にある。中国から輸入した律令制に代わり、日本独自のやり方で国を治めた最初の例であった。

  • 日本の組織は家族関係に似ている。互いが譲り合い、話し合いで物事を決める。その結果を承認することがリーダーの役割である。

  • 外国の制度をただ模倣しても定着しない。その国が伝統的に持つ秩序を重視し、折り合いをつけることが大切だ。

  • 13世紀より日本人は、能力第一主義の原則で生きてきた。この行き過ぎを止める役目として登場したのが一揆であり、これは現代まで受け継がれている。

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国の存亡を決めるもの

ローマは一日で滅びず

Floaria Bicher/gettyimages

トルコのイスタンブールは、かつて東ローマ帝国の首都コンスタンティノポリスであった。4世紀頃、この町はひどい混乱状態にあった。戦車競技場では年中乱闘が起こり、宗教論争では殺し合いが発生するといった末期的症状であった。皇帝が亡命しかけたことも一度や二度ではない。しかし、これで国が滅びるかと思いきや、それから1000年も存続している。

ローマ帝国は、誰の真似をしたわけでもなく、自分たちの力でひとつの組織を作り上げていった国である。だから、「ローマは一日にしてならず」というだけでなく、ローマは一日では滅びなかった。ダメかと思えばまた立ち直る、恐るべき復元力を持っている。それは、自分たちの伝統的な規範や文化構造、組織といったものが、有機的な関連をもって一体化しているからにほかならない。これらは自分で作り上げたものだから、自分で舵もとれるというわけだ。

一方、外からいろいろなものを輸入してうまく作り上げたような国は、急膨張することはあっても、根がないから簡単に崩壊してしまう。東ローマ帝国を滅亡させた後に中東一帯を支配したトルコは、一時は北アフリカをも占拠し、ウィーンにまで攻め上がった。しかし、衰退期に入ってからも長続きしたローマ帝国と違って600年ほどで瓦解してしまった。

トルコはもともと伝統文化のあまりない中央アジアの民族だった。それがイスラム教をとり入れ、東ローマ帝国の体制をそのまま真似していった。ただ、自分たちの新しい体制を作る能力がなかった。おそらく、本来持っていた基本的な社会構造とあとから輸入した宗教や制度がマッチしなかったため、自分たちでコントロールできなかったのだろう。

日本社会の基礎を作った源頼朝

では、日本の基礎、現在の社会構造の土台になるものは、いつ頃どのようにできたか。それは武家政治がはじまる頃ではないかと推測する。

それ以前の律令制(法律を基本にした政治体制)は中国から輸入した体制であったが、あまりうまくいっていなかった。そこで源頼朝は、日本株式会社ともいえる日本社会の基礎を作った。この「新社」を作った時の原則のようなものが、明治維新まで続いたのだ。

頼朝の時代、朝廷は形式化・組織化していたものの実際は動いていなかった。そこから必要な部分だけを抜き取ったのが鎌倉幕府である。組織として「こうあるべき」というものはなかったが、いちばんの原則と考えられていたのは「話し合い」であった。

当時の争い事のほとんどは荘園争いであり、公平に裁かなければ人望を失う。これをこなしていたのが北条氏であった。北条氏は伊豆の小領主でいわゆる“下っ端”であったが、どうやってその後約130年間も日本を平和に統治できたのか。そのいちばんの原則が、何か問題が起きたら当事者同士で話し合わせることだったのだ。北条氏は、その話し合いの最後に出てきて経過を聞き、結論を肯定するだけである。互いに話し合うことで調整し、第三者がそれを認証する。これが、日本方式の祖なのである。

アメリカ式の限界

scyther5/gettyimages

戦前の日本には『改造』というとてつもなく権威のある雑誌があった。『改造』の巻頭論文は日本を動かすとも言われ、発行部数はトップ。京橋に大きな自社ビルがあり、戦前にアインシュタインを日本に招聘したのは改造社の社長であった。

改造社はアメリカと関係の深い出版社で、2代目社長は戦後いち早くアメリカに留学して経営学を学んだ。帰国してから会社のシステムをすべてアメリカ式に直したところ、たった2年で潰れてしまった。当時の社員は「伝統的に社が持っていた秩序という意識と、アメリカ式の組織という意識が合わなかった」と振り返っている。

アメリカ式とは次のようなシステムである。

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要約公開日 2020.10.23
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