人類とイノベーション

世界は「自由」と「失敗」で進化する
未読
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世界は「自由」と「失敗」で進化する
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人類とイノベーション
出版社
NewsPicksパブリッシング

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出版日
2021年03月03日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

ここ10年で、ほぼすべての人の生活水準は劇的に良くなった。極貧生活を送る人の数は史上はじめて10パーセント未満に減ったし、マラリアの致死率も急激に下がった。戦争もまれになった。電話での会話だって、Wi-Fiのおかげで基本的に無料だ。もちろん悪くなったこともあるが、良くなっていることのほうが圧倒的に多い。

世界は過去も現在も未来も、悪い方向ではなく良い方向に進んでいるのはイノベーションのおかげだ――『繁栄』や『赤の女王』などの名著の執筆者として知られる著者はそう主張し、「合理的な楽観主義者」を名乗る。彼によれば、イノベーションとはエネルギーを利用してありえないものをつくり、それを広める新たな方法を見つけることだという。

本書の原題は「HOW INNOVATION WORKS」というシンプルなものだが、邦題に「人類」という単語があるように、イノベーションを軸に壮大な人類史を描き出し、新しい世界の見方を提示している。前半で「エネルギー」「公衆衛生」「輸送」「食料」「ローテク」「通信とコンピュータ」「生命」といった具体的なイノベーションを紹介し、後半でそれらに共通する本質について考察するという構成だ。本要約ではその中から、「エネルギー」と「生命」のイノベーションを主に取り上げるが、どのページを開いても新しい発見があるに違いない。

ライター画像
しいたに

著者

マット・リドレー(Matt Ridley)
リチャード・ドーキンス(『利己的な遺伝子』)と並び称される科学・経済啓蒙家。英国貴族院議員(子爵)。元ノーザンロック銀行チェアマン。
1958年、英国ノーザンバーランド生まれ。オックスフォード大学で動物学の博士号を取得。「エコノミスト」誌の科学記者を経て、英国国際生命センター所長、コールド・スプリング・ハーバー研究所客員教授を歴任。オックスフォード大学モードリン・カレッジ名誉フェロー。
事実と論理にもとづいてポジティブな未来を構想する「合理的楽観主義(Rational Optimism)」の提唱者として世界的に著名で、ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)らビジネスリーダーの世界観に影響を与えたビジョナリーとして知られる。合理的楽観主義をはじめて提示した著書『繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史』(早川書房)はゲイツ、ザッカーバーグが推薦図書にあげている。
他の著作に『やわらかな遺伝子』『赤の女王』『進化は万能である』などがあり、著作は31か国語に翻訳。最新刊である本書『人類とイノベーション』は発売直後から米英でベストセラーを記録している。

本書の要点

  • 要点
    1
    イノベーションとは、発明を実用的かつ手ごろな価格で、信頼できるかたちで定着するところまで発展させることだ。ゆえに発明そのものより、はるかに大きな意味をもつ。
  • 要点
    2
    イノベーションはゆるやかに生まれるものであって、突然現れるものではない。そこに劇的なものはなにもない。
  • 要点
    3
    イノベーションはつねに協力と共有を必要とする。独りの人間だけでできることは、ほぼない。
  • 要点
    4
    イノベーションは、振り返ってみればあきれるくらい予測可能に思えるが、実際には予測しようとしてもまったくもって不可能だ。

要約

エネルギーのイノベーション

熱と仕事
Keith Lance/gettyimages

古来、人類が使ってきたエネルギーは、おもに2種類に分けられる。「熱」と「仕事」だ。人びとは暖を取って、食べ物を調理するために木や石炭を燃やした(熱)。また、物を動かすのに自分や牛馬の筋肉を使い、たまに水車や風車を利用した(仕事)。かつてこの2つのエネルギーは別々のものと見なされ、木や石炭が力学的な仕事をすることはなく、風や水や牛が何かを熱することもなかった。

だが1700年を過ぎた頃から、この2つのエネルギーがつながるようになった。蒸気が「熱」を「仕事」に変換したのである。蒸気機関という、人類史上最も重要なイノベーションの誕生だ。

蒸気機関はワットの偉業だと思われているが、それは違う。ワットは最初の蒸気機関が生まれてから半世紀近く後に、大きな改善を加えただけだ。蒸気機関を最初に発想したのは、北西ヨーロッパに住む1人もしくは複数人だ。このようなスタートポイントのあいまいさは、イノベーションのひとつの特徴である。

斜陽産業となった原子力発電

電球を発明したのはエジソンだと信じられているが、これも違う。ただしエジソンが6000種類以上の材料を試したうえで、日本の竹をファラメント(芯)にし、電球を実用レベルのものにしたことは間違いない。

イノベーションは、「発明」とは異なる。イノベーションとは発明を、実用的かつ手ごろな価格で、なおかつ信頼できて定着するところまで発展させることであり、発明そのものよりはるかに大きな意味をもつ。たとえば人工の明かりは、最も偉大なイノベーションのひとつであり、それを安価にしたのがエジソンの電球だ。エジソンは、発明家ではなくイノベーターなのである。

一方で、行き詰まりをみせているイノベーションが原子力発電だ。イノベーションには試行錯誤、言い換えるなら「自由」と「失敗」が欠かせない。だが原子力は失敗の代償があまりにも大きいので、実質的に試行錯誤が封じ込められている。現状では、「新設される発電所より古いものが閉鎖されるペースのほうが速い」という斜陽産業になり果てているのもそのためだ。

生命のイノベーション

同時に発生した農業
AegeanBlue/gettyimages

農業が、人類にとって大きなイノベーションであったことは言うまでもない。農業によって、人類は狩猟と採集をするまばらな集団から、土地の生態系に手を加える密度の高い集団へと変わった。それはまた、王や神、戦争のような、それまでなかった新しい文化イノベーションを生み出した。

農業に関しては、ひとつの疑問が指摘されている。近東、中国、アフリカなど、少なくとも世界の7カ所で、それぞれまったく無関係に、それにもかかわらずほぼ「同時」に始まったことである。

それを説明するのが「気候」だ。1万2000年前に、世界は氷河時代(更新世)から現在の間氷期(完新世)に移行した。気候が温暖で湿潤になり、安定した状況になると、ほぼ同時に人びとは植物を積極的に採取し育てるようになった。農業は、他の多くのイノベーションと同じように、起こるべくして起こった。必然であり不可避だったからこそ、多くの異なる場所で発生したのだ。

遺伝子のイノベーション

農業は、人間の遺伝子をも変えた。そのイノベーションとは、8000年前ごろに発明された

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要約公開日 2021.04.26
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