ディープテック

世界の未来を切り拓く「眠れる技術」
未読
ディープテック
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世界の未来を切り拓く「眠れる技術」
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ディープテック
出版社
出版日
2019年09月24日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

日本企業に生まれる新たな活躍の舞台、ディープテック。テクノロジーを駆使し、環境問題やエネルギー・資源不足などの根深い課題(ディープイシュー)を解決していく考え方、活動を指す。

ディープテックの領域では、日本企業のローテクが他の企業と「つながる」ことで力を発揮する。最先端の技術だけがイノベーションを生み出すのではない。日本の「眠れる技術」にイノベーションの芽が潜んでおり、それが他国にはない優位性を生むというのだ。

たとえば、液体を使って空気をきれいにするシステムの開発をめざす、シンガポールのスタートアップ「新重工」。同社は、実装の際に必要なポンプの開発に難航していた。だが、日本の大手ポンプメーカーの技術を用いることで、開発が一気に実現へと近づいた。大手ポンプメーカー側も、工場内の粉塵を除去できるシステムを共に開発できれば、日本中の工場から新たなニーズを呼び込める。このように、日本企業の技術を求めるスタートアップは国内外に数多く存在する。

では、ディープテックで成果を出している企業の共通点は何か。著者らによると、「自身が持つ一番強い技術を狭い領域でしか使えていないと認識している点」だという。ではどのように機会を探せばいいのか。ディープイシュー解決に向けて自社の技術をどう活かすのか。それを考えるためのヒントがちりばめられた本書は、国内外のディープテックのケーススタディーとしても、示唆に富む。何より、著者らの熱量あふれる文章に鼓舞されること間違いなしの一冊だ。

著者

丸幸弘(まる ゆきひろ)
2002年、東京大学大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化した。大学や地域に眠る知識を組み合わせて新たな知識を生み出す「知識製造業」を営む。ユーグレナを始めとする多数のディープテックベンチャーの立ち上げを担い、日本と東南アジアを中心に、ビジネスエコシステムを構築するイノベーター。

尾原和啓(おばら かずひろ)
フューチャリスト。京都大学大学院で人工知能を研究。マッキンゼー・アンド・カンパニーやNTTドコモ、グーグル、リクルート、楽天など数多くの企業で新規事業立ち上げを担う。現在はシンガポール、インドネシアのバリ島が拠点。著書は『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』など多数。近著『アフターデジタル』は世耕弘成経済産業大臣も推薦。

本書の要点

  • 要点
    1
    欧米や東南アジアを中心に広がりつつある「ディープテック」とは、テクノロジーを使い、環境問題などの根深い課題を解決していく考え方、活動を指す。
  • 要点
    2
    日本企業の「眠れる技術」が国内外のディープイシューの解決に役立つ可能性がある。
  • 要点
    3
    ディープテックで活躍している企業の共通項は、「自身が持つ一番強い技術を狭い領域でしか使えていない」と認識し、それ以外の可能性を探り新たな価値を社会に提供している点だ。

要約

ディープテックとは何か?

ディープテックの定義

欧米や東南アジアを中心に、「ディープテック」という言葉が広がり始めている。ディープテックとは、テクノロジーを使い、根深い課題(ディープイシュー)を解決していく考え方、活動を指す。

ボストンコンサルティンググループとHello Tomorrowが調査した、7つのディープテクノロジーカテゴリーへのグローバルな民間投資総額を見てみよう。すると、2015年~2018年の4年間で、総額が180億ドル(約2兆円)になったという。

本書では、ディープテックを次の5つのように定義する。(1)社会的インパクトが大きい、(2)ラボから市場に実装するまでに、根本的な研究開発を要する、(3)上市までに時間を要し、相当の資本投入が必要となる、(4)知財だけでなく、情熱、ストーリー性、知識の組み合わせ、チームといった観点から参入障壁が高いもの、(5)社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その解決のあり方を変えるもの。

日本企業は「眠れる技術」の価値に気づけるか
slpu9945/gettyimages

ディープテックでは、既存技術や眠れる技術が活きるケースが多い。具体例として、世界で最も生産されている植物油のパーム油が挙げられる。パーム油の大半は、マレーシアとインドネシアで生産されている。この生産過程において、パーム油を搾汁した後の搾りカスが、年間約540万トンも排出され、メタンガスを発生させる。これが環境汚染の元凶となっているのだ。

この問題解決に役立っているのが、日本の培ってきた技術だ。搾りカスを微細な繊維にし、インドネシアのディープテックベンチャーが開発した素材を加えた。これにより、鶏の餌に必要な成長促進剤の代わりとなる、「マンナン」を抽出可能にした。つまり、搾りカスが新商品となったのだ。

この事例のように、日本の「眠れる技術」が世界各国、とりわけ東南アジアのようなエマージングマーケットの社会課題解決に役立つ可能性がある。

非中央集権型社会に商機あり

ディープテックにおけるキーワードの1つが、副産物を意味する「バイプロダクト」である。その最たる例が、先述したパーム油の搾りカスの利用だ。

もう1つのキーワードが「decentralized(ディセントラライズド)」である。非中央集権型、分散型を意味する。ディープテックによるディセントラライズドが進む領域は、具体的には、水道や電気、交通手段などのインフラ領域が挙げられる。

従来こうしたインフラ整備は、国が中央集権的に担ってきた。たとえば、現在のガス管は、定期的に掘り起こして点検や補修を行わなければならない。しかし、地域によってはプロパンガスの方がコスト下がる。そして、スマートメーターでチェックすれば、運搬も効率的になる。このように、セントライズされたインフラより、ディセントラライズドされたインフラの方がサステイナブルになるケースを考える必要があるのだ。

ディープテックの系譜を知ろう

均質化が進んだシリコンバレー
zimmytws/gettyimages

ディープテックは、シリコンバレー発のテクノロジーイノベーションという歴史の流れの中に位置づけられる。シリコンバレーには、世界の時価総額トップ5の企業のうち4社が本社を置く。そして、巨額の資金がめまぐるしく循環している。スタートアップ、アクセラレーター、エンジェル投資家、インキュベーターなどのプレイヤーが集まり、世界最大のエコシステムを形成しているのだ。

一方でアジアも急伸している。すでに2018年には、VC(ベンチャーキャピタル)の投資額では、中国がアメリカを抜いている。また投資先でも、中国、インド、東南アジアのVC投資額は、全世界の半分を占めるまでになっている。

さらに、シリコンバレーでは、スタートアップの成長パターンの均質化が指摘されている。それは、Yコンビネーターをはじめとしたアクセラレーターにより、スタートアップが育つ環境が整備されているがゆえといえる。大企業から買収されるEXITをゴールとし、そこから逆算する「逆算型のスタートアップ」ができてしまう傾向にある。最初は斬新なアイデアを持っていたスタートアップも、EXITしやすい事業へと方向転換するケースが多発しているのだ。

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要約公開日 2021.05.02
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