洋画家の美術史

未 読
洋画家の美術史
ジャンル
著者
ナカムラクニオ
出版社
定価
1,232円(税込)
出版日
2021年01月30日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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洋画家の美術史
洋画家の美術史
著者
ナカムラクニオ
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定価
1,232円(税込)
出版日
2021年01月30日
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レビュー

本書の表紙を飾るのは、「日本最初の洋画家」と目される高橋由一の描いた、日本一有名な「鮭」だ。本書は、高橋からはじまり、1999年に亡くなった三岸節子まで、16人の日本の洋画家を、日本美術史の変遷とともに紹介している。その作品の多くは、油絵などの西洋の技法を取り入れながらも、日本人の美意識が強く反映されたものだ。著者は、こうした近代洋画を、外側は西洋風、中身は日本風のオムライスにたとえている。

泰西名画という古い言葉がある。辞書を引くと「泰西」とは「日本から見て先進国としての西洋」とある。絵画といえば、西洋が本場であり、日本で描かれる油絵は後進だと思われるかもしれない。しかし、本書を読むと日本の洋画にも独自の魅力があり、単純な優劣では語れないことが理解できる。

そうした絵と画家について語る著者の口調からは、絵に対する愛情と、画家に対する崇敬の念がストレートに伝わってくる。素描された画家たちの生きざまも、それぞれじつに興味深い。

いまビジネスパーソンの間で注目が集まっているアートの世界だが、このような身近な人と作品から入ってみるのはいかがだろうか。本書が最適な案内役を務めてくれるだろう。

しいたに

著者

ナカムラクニオ
1971年東京都目黒区生まれ。荻窪「6次元」主宰、アートディレクター。日比谷高校在学中から絵画の発表をはじめ、17歳で初個展。現代美術の作家としても活動し、山形ビエンナーレ等に参加。著書は『人が集まる「つなぎ場」のつくり方』(CCC メディアハウス)、『金継ぎ手帖』『古美術手帖』『チャートで読み解く美術史入門』『モチーフで読み解く美術史入門』『描いてわかる西洋絵画の教科書』(以上、玄光社)など多数。金継ぎ作家としても活動し、アメリカ在住の日本画家マコトフジムラと共同で金継ぎの学校「キンツギアカデミー」をロサンゼルスに設立。

本書の要点

  • 要点
    1
    幕末から明治にかけて、西洋文明を取り入れる中で、日本的なモチーフを油絵で描くことで疑似的な「西洋風絵画」を作るところから日本の洋画は始まった。
  • 要点
    2
    やがて、西洋的なものはより内面化され、画家の個性や目指すところによって多彩な表現をみせる成熟期を迎える。
  • 要点
    3
    大正・昭和にかけて、さらに多彩な個性が花開いた。画風も画家の生きざまも様々である。
  • 要点
    4
    やがて、大胆な色使いにより人間の内的感情や感覚を表現し、近代絵画から現代絵画への橋渡しをした日本的フォーヴィスムとも呼べる画家たちが登場する。

要約

日本の近代洋画はオムライスだ

知られざる洋画家の作品と歴史
momo5287/gettyimages

日本の近代洋画は「鑑賞できるオムライス」のようなものだ。オムライスの外側は西洋のオムレツだが、中身は日本的なケチャップご飯だ。油絵として描かれていても、日本の近代洋画のモチーフは極めて日本的だ。

明治から大正にかけて日本に輸入され独自に進化した「和製洋画」は、西洋の技法を用いながらも日本人向けにアレンジが加えられることで、瞬く間に市民権を得た。著者の考える洋画の定義は、明治から昭和にかけて、「独自の進化を遂げた洋風絵画たち」である。本書では、西洋を見よう見まねで吸収した黎明期、より成熟していった和製洋画の時代、西洋と日本の個性がぶつかり合って爆発した「昭和モダン」の時代、独自の進化を遂げた「日本フォーヴィスム」の時代の画家たちに分けて、有名なのによく知られていない日本の洋画家たちの作品と歴史について紹介している。オムライスを食べるように楽しんで読んでもらいたい。

日本のモチーフを油絵で描く、西洋絵画の黎明期

日本最初の洋画家 高橋由一

黎明期の洋画家として最初に取り上げるのは、佐野藩士の子として生まれた高橋由一(たかはし ゆいち 1828~1894)だ。由一は武士であったが、幼少から絵を描くことを好み、12歳頃から狩野派の絵師に弟子入りして本格的に絵を学んだ。20歳を過ぎた頃に西洋の写実的な石版画を見てリアルな表現に感銘を受けるも、当時は画材が手に入らず、藩の仕事に追われた由一が油彩を学ぶことができたのは39歳の頃、横浜のイギリス人画家のチャールズ・ワーグマンに師事してからのことであった。

代表作は、「鮭」だ。縦に異様に長い構図は、床の間に掛け軸を掛ける日本の習慣の名残である。モノクロの写真ですら珍しかった明治の時代、実物と見まがうばかりに写実的に描かれた鮭の絵は、人々に大きな驚きを与えたに違いない。

西洋における静物画は、宗教上のアレゴリー(寓話)として描かれており、寓意的な意味や人生哲学が隠されている。たとえば、スペイン画家のルイス・メレンデスの「鮭、レモン、三つの器のある静物」で描かれた鮭は「キリスト」、周囲に描かれた果物は「人間の罪」、ポットは「女性」を暗示している。

しかし、由一の鮭には、そうした教訓めいた押し付けがましさがない。写真のような鮭が描けたという、描く喜びに満ちあふれている。作品にはサインも制作年の記載もない。この即物性、記録性が、工芸品のようなオーラを放ち、日本人の心を打つのだろう。

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