独ソ戦

絶滅戦争の惨禍
未読
独ソ戦
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絶滅戦争の惨禍
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独ソ戦
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出版社
定価
946円(税込)
出版日
2019年07月19日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

史上最大規模であった第二次世界大戦のなかでも、独ソ戦は想像を絶する惨禍が繰り広げられ、桁違いの死者、犠牲者を出した。そのためか、ヒトラーやドイツ軍の戦略、各会戦における戦いの経緯、使用された兵器の詳細に至るまで数々のトピックが語られ、一般のミリタリー愛好家向けの書籍やムックが大量に刊行されてきた。これまでは概ね次のような論調がよく見られた。ヒトラーが軍の作戦に口出ししたためにソ連軍を潰滅させる好機が失われ、ドイツ軍の敗戦を招いたのであり、それがなければドイツ軍はソ連軍を圧倒できた、と。

しかし、そのような一般的理解は、冷戦終結後の研究によって覆されつつあるようだ。本書は、新しい研究にもとづき、いま世界の学問的潮流では独ソ戦がどのように理解されているのかを紹介するものである。個々の論点はコンパクトにまとめられ、膨大な情報量が短い紙幅にしっかりと収められているため、戦史だけでなくナチス・ドイツの思想的背景に至るまで、余すこと無く把握できる好著となった。特に、一般的に触れる機会の少ないソ連の「作戦術」という用兵思想は、軍事的な事柄以外にも、組織のマネジメントや、物事を捉える考え方の一つとして応用できるだろう。

これは決して、戦後社会を生きる日本にも無関係の話ではない。平和について深く考えるためには、戦争を漠然と全体像だけで見るのではなく、個々の戦いの実像まで正確に知る必要がある。本書からは、その意味でも多くの学びを得られるはずだ。

ライター画像
大賀祐樹

著者

大木毅(おおき たけし)
1961年生まれ。立教大学大学院博士後期課程単位取得退学(専門はドイツ現代史、国際政治史)。千葉大学ほかの非常勤講師、防衛省防衛研究所講師、陸上自衛隊幹部学校講師などを経て、現在、著述業。
著書─『「砂漠の狐」ロンメル』(角川新書、2019)、『ドイツ軍事史』(作品社、2016)ほか
訳書─エヴァンズ『第三帝国の歴史』(監修。白水社、2018-)、ネーリング『ドイツ装甲部隊史1916-1945』(作品社、2018)、フリーザー『「電撃戦」という幻』(共訳。中央公論新社、2003)ほか

本書の要点

  • 要点
    1
    ヒトラーとナチス・ドイツにとって独ソ戦は、人種主義とゲルマン民族生存のための東方植民地帝国建設という思想にもとづく「世界観戦争」であり、「絶滅戦争」であった。
  • 要点
    2
    これまでの一般的理解は、ドイツ軍将校の回想録や戦記によって形成されてきたが、冷戦終結後、多くの新史料が参照されることで、新たな独ソ戦像ができつつある。
  • 要点
    3
    ソ連による反撃を成功させ、ソ連を勝利に導いた大きな要因は、戦前から練られてきた用兵思想である「作戦術」が機能するようになったことである。

要約

現代の野蛮

未曾有の惨禍
bruev/gettyimages

ナチス・ドイツおよび同盟国の軍隊は、1941年6月22日に独ソ不可侵条約を破ってソヴィエト連邦に侵攻し、1945年まで、一般に「独ソ戦」と呼ばれる戦争を続けた。この戦いでは、北はフィンランドから南はコーカサスまで、数千キロにわたる戦線において、数百万の大軍が、歩兵戦、空挺作戦、上陸作戦、要塞攻略などで、空前の戦いを繰り広げた。まさに第二次世界大戦の主戦場である。

ナチス・ドイツとソ連のあいだでは、ジェノサイドや捕虜虐殺といった無意味な蛮行が繰り返された。それゆえ惨禍も想像を絶する規模となった。第二次世界大戦における日本の死者は、戦闘員が210万ないし230万人、非戦闘員では55万ないし80万人と推計されている。一方ソ連は、戦闘員が866万8000ないし1140万人、民間人が軍事行動やジェノサイドによって450万ないし1000万人、疫病や飢饉によって800万から900万人亡くなった。公式には総数2700万人の命が失われたとされている。ドイツの死者も、独ソ戦以外の戦線も合わせて、戦闘員444万ないし531万人、民間人150万ないし300万人におよんだ。

歪められた日本人の記憶

ヒトラー以下のドイツ側の指導部は対ソ戦を、人種的に優れたゲルマン民族が「劣等人種」スラヴ人を奴隷化し、「ユダヤ的ボリシェヴィズム」を撲滅するための「世界観戦争」、すなわちみな殺しのための絶滅戦争であると規定していた。

そのような侵略者と対峙するソ連の独裁者スターリンは、コミュニズムとナショナリズムを融合させて、独ソ戦をかつてナポレオンの侵略をしりぞけた「祖国戦争」になぞらえ、ロシアを守るための「大祖国戦争」と規定した。ドイツ側は住民虐殺を繰り返し、ソ連側は報復感情による無法行動をエスカレートさせた。両軍の残虐行為は、合わせ鏡に憎悪を映したかのように拡大していったのである。

しかし日本では専門の研究者を除き、この「世界観戦争」という重要な側面が、一般に認識されているわけではない。これまでの一般的な理解は、ドイツ国防軍の将官の回想録や戦記の翻訳などによって形成されてきた。回想録の多くは、軍事的には素人のヒトラーが作戦指揮に介入し、ミスを繰り返して敗戦を招いたなどと、死せる独裁者に責任を押しつける主張を展開した。パウル・カレルによる戦記は日本でもベストセラーとなったが、ドイツ国防軍の犯罪を漂白する「歴史修正主義」に依拠していた。

だが、ソ連崩壊以後に史料公開や事実の発見が進んだことで、欧米の独ソ戦研究は飛躍的に進み、日本との理解・認識のギャップが大きく広がった。本書は、独ソ戦に関して、現在のところ史実として確定していることは何か、定説とされている解釈はどのようなものか、どこに議論の余地があるのかを伝えるためのものである。

ドイツ軍の大攻勢

スターリンとヒトラーの思惑
Artsiom Malashenko/gettyimages

世界各国に張り巡らされたソ連のスパイ網から、ドイツによる侵攻が迫っているとの情報が大量に送り届けられたにも関わらず、スターリンはそれらの情報を一切信じなかった。ソ連軍は無防備、無警戒のままドイツ軍の奇襲を受け、大損害を被ることとなる。

その理由はいくつか考えられる。

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