野菜も人も畑で育つ
信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営

未 読
野菜も人も畑で育つ
ジャンル
著者
萩原紀行
出版社
同文舘出版 出版社ページへ
定価
1,870円(税込)
出版日
2021年02月09日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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野菜も人も畑で育つ
信州北八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営
著者
萩原紀行
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同文舘出版 出版社ページへ
定価
1,870円(税込)
出版日
2021年02月09日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
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レビュー

いま、脱サラをして農業に従事したいと考える人が増えている。せわしない都会を離れ、空気がおいしい田舎でのんびり暮らす。そんな生活にあこがれている人も多いかもしれない。

しかし、実際の農業はそううまくいくものではない。

本書の著者である萩原紀行氏は、農業界のイノベーターと呼ばれる人物だ。信州・北八ヶ岳にあるのらくら農場の代表であり、2019年の「オーガニック・エコフェスタ」で開催された栄養価コンテストでケールなど3部門の最優秀賞を獲得、総合グランプリをも受賞するほどの質の高い野菜を作っている。

そんな萩原氏も決して順風満帆だったわけではない。農業とは無関係の人生を歩いてきたために、いざ農業の道に入ったときは知識も経験も全くなかった。従来の農業のあり方や新規就農者ゆえのさまざまな壁が立ちはだかる。持ち前の行動力と柔軟な思考で試行錯誤を続け、解決策を模索する日々。そうして長い時間をかけて、野菜も人もよりよい方向に育っていったのだ。そのノウハウを集めたのが、本書の「のらくら農場経営の公式」である。

農業という仕事は決して簡単なものではない。しかし萩原氏から感じる農業愛には、その苦労以上の喜びがあることがわかる。

本書には、日々の生活やビジネスとしての農業、そして農場のメンバーや農家仲間、取引先と一緒に問題を解決してきた実績が満載だ。農業に興味がある人はもちろん、チームづくりや部下の育成など日ごろの業務に悩む人にもおすすめしたい。

中山寒稀

著者

萩原紀行(はぎわら のりゆき)
のらくら農場 代表
1971年、千葉県松戸市生まれ。大学卒業後、東洋エクステリア(株)(現LIXIL)に営業職として勤務。後に妻となる彼女に触発され、農業に関心を持つ。持ち前の行動力で農業に突き進み、サラリーマンを辞め、埼玉県小川町の霜里農場で11ヶ月、住み込み研修を受ける。
1998年、長野県八千穂村(現・佐久穂町)で就農し、夫婦2人で75aから小さく農場をはじめる。現在は約7.5haで約50品目の作物を有機栽培。ハイシーズンには16名ほどのチーム(組織)で運営。これまで農家ごとの暗黙知だった栽培技術を形式知にすることで生産性を向上。さらに生産者同士の集合知へと発展させることで、付加価値の高い事業モデルの構築に取り組む。
2014年、「TED×SAKU」で「集合知の農業へ」を講演し、反響をよぶ。2019年、「オーガニック・エコフェスタ」で開催される栄養価コンテスト(一般社団法人日本有機農業普及協会主催)では3部門で最優秀賞を獲得し、総合グランプリを受賞。2020年はケール部門で二連覇。農業界のイノベーターとして、消費者・商業者から注目と共感を集めている。妻と二男一女。

本書の要点

  • 要点
    1
    それぞれの農家によって培われてきた「暗黙知」をメンバーが理解できるような「形式知」に変換し、チーム運営をすることによって「集合知」に昇華させていく。
  • 要点
    2
    みんなが無理だという市場にはライバルが少ない。しかも同業の80%が反対しているなら、もっとも画期的な何かが生まれる。
  • 要点
    3
    一方通行の上下関係ではよいアイデアは生まれない。一緒に考えるチームになることで、乗り越えるべき壁を自分ごととして捉えるメンバーが増え、集合知が生まれるようになる。

要約

のらくら農場のチーム運営の公式

かつては、もどかしさの連続だった
PeopleImages/gettyimages

「のらりくらり、野良で暮らそう」が、のらくら農場の名前の由来だ。長野県の八ヶ岳の北に位置する高原地帯にこの農場はある。両親が農家だったわけでもなく、農学部出身でもないけれど、都会の営業マンをやめて農業をはじめた。23年目になる。夫婦2人でこっそりはじめた農場だったが、2020年の農繁期には16名のメンバーが畑を走り回っている。

のらくら農場には、IT企業や料理人、学生など、さまざまな業界から人材が集まっている。それぞれのメンバーがアイデアを出し合うことで、新しい視点で農業と向き合うことができるのだ。また、日本の農家の平均年齢は66歳だが、のらくら農場の平均年齢は33歳程度とダントツに若いことも特徴の一つである。

作物にも特徴がある。普通は、経営効率を考えてなるべく品目を絞って経営するが、のらくら農場は年間50~60品目を栽培している。いつ、どのくらいの量を出荷するかや、高い栄養価を持つ野菜などを狙って作ることも得意だ。

そんなのらくら農場もかつては、うまく仕事が回らないし、スタッフ同士がうまくかみ合わず、もどかしさの連続だった。農家が経験的に培ってきた「暗黙知」を理解しやすい「形式知」に変換し、「集合知」へと変えていく。そうしたことの積み重ねで、次第にチーム運営の公式ができ上がってきたのである。

実践の中で生まれたのらくら農場の強み

無理だといわれることは、ライバルが少ない

農業をはじめたころに、「オーガニックでいろんな作物を栽培したい」と言うと、「無理だ」と返されることが多かった。そのため、就農後15年くらいまでは町で自分から「有機栽培です」と言わなかった。壁ができるのが嫌だったのだ。

市場では、参入障壁がないところに利益があるとわかると、利益ゼロになるまで参入が続く。無理だと言う人は市場に参入してこないので、ライバルになることはない。「無理だ」と言われるたびに都合よく解釈をして、自分の居場所は安泰だと考えることにした。また、当時の新聞記事に掲載されていた、「同業の80%が反対するとき、もっとも画期的な何かが生まれる」という言葉も、勝手に解釈して救われた気持ちになった。

逆のパターンもある。東京オリンピックが開催されることが決まったときに、選手村用にオーガニック食材を確保しようという流れが起きた。しかし、安易にこの流れに乗るのは危険だと思った。オーガニックが広がるのは悪いことではないのだが、広がることは陳腐化と紙一重である。一過性のブームは、生産を疲弊させてしまうのだ。

仕事がなければ仕事を作る
MaYcaL/gettyimages

標高1000メートルに位置するのらくら農場は、冬はすべてが凍りついてしまう。そのため、露地では何も作ることができない。仕事が少ないがゆえに、冬の期間の雇用を維持するのは難しい。全員を通年雇用する力はないのが現実である。

夫婦プラスアルファの農場から脱出しようとしていた頃に、一度に3人のメンバーが増えた。「これだけの人数でやる冬の仕事がない。だからそれを一緒に作ろう」とその3人に正直に話をした。

冬だけ稼働する仕事として、以前から漬物加工をやっていた。地下室(ムロ)を増設し、長イモやゴボウ、ニンジン、大根数種類などを年末までに詰めるだけ詰め込んで、冬を迎える。そして、年明けに徐々に出荷していく。地下室は外がマイナス15℃でも凍らないし、熱源は地熱。電気や灯油は一切使わない。これにより、冬の出荷を延長できるようになった。

レトルトスープにも挑戦している。企画をスープの製造会社に持ち込んだところ、ハードルになったのが、製造過程に出汁をとる工程がないことだった。通常は出汁ではなくアミノ酸をいれる。アミノ酸を使うと、他のスープと後味が似てしまう。小さな農場が大手と後味が一緒になってしまったら、存在意義がない。

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