本書の要点

  • 海外ビジネスにおいて「異文化」を言い訳にしてはいけない。自分のバイアスを取り払い、本当の問題がどこにあるのか、本質を見抜く力が必要だ。

  • 海外でのビジネス展開に重要なのは、相手の国や文化への理解よりも自己理解である。現地企業の信用を得るには、自社の理念や魅力を、説得力を持って語れなければならない。

  • コミュニケーションは「質」より「量」である。外国語でのコミュニケーションは大事なことが伝わりにくい。日本人に対するときよりも、丁寧に時間をかけて伝えなければ伝わらない。

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【必読ポイント!】 それは本当に「異文化のせい」か?

「異文化だから」を疑え

Ada daSilva/gettyimages

海外に駐在すると、先達から「この国では~だ」といった類の教訓を多く聞くことになるだろう。たとえば著者がかつて赴任していたイランならば、「イランでは、真の情報が簡単に手に入ると思うな」「イランでは、相手の言うことを信用してはいけない」といった具合だ。しかし、こうした教訓は本当なのだろうか。「真の情報が手に入らない」のは、必要な情報を持った適切な人物に出会えていないだけではないか? 逆の立場に立って想像してみればわかるが、一見(いちげん)の外国人を初めから信頼して重要な情報を開示するはずがない。ならば、必要なのは徹底的に信頼関係を構築する努力であろう。「異文化」は海外で仕事がうまくいかないことの言い訳に使われがちである。実際にはどこの国でも起こりうる、ごく当たり前のビジネス上の課題が、「異文化だから」で片づけられていることが多い。「海外での仕事は異文化だから特別だ」というバイアスを捨てなければ、問題の本質に向き合うことはできない。

「異文化だから」の4つの落とし穴

「異文化」にとらわれると、ごく一般的なビジネス上の問題を、異文化の問題と取り違えてしまう。特に取り違えやすいポイントが4つある。第一に、経済やビジネスの発展段階の違いだ。その国がどのような発展の段階にあるかによって、ビジネスのやり方は異なる。例えば、日本は成熟期を迎えているため、大半は成熟産業であり、業種によってはすでに衰退産業と化している。一方、東南アジア諸国などは成長期のただ中にある。両者のやり方が違うのは当然だ。成熟期の日本しか経験していないビジネスパーソンが成長期のベトナムなどに派遣されると、その違いに戸惑うはずだ。それを文化の違いに起因するものだと思い込むと、永遠に現地のスタッフとは理解し合えない。第二に、自分がカバーするビジネス領域の違いだ。日本ではマーケティングならマーケティング、製造なら製造など、仕事における役割が細分化、専業化していることが多い。それに対して、比較的規模の小さい海外事業では、1人で多くの領域をカバーしなければならなくなる。海外で初めて経験のない領域を扱うと、その仕事のやり方の違いが異文化の違いとして映ってしまいやすい。

経験不足が招く思い込み

yuoak/gettyimages

第三に、組織でのポジションの違いだ。日本の本社から海外に派遣されると、ほとんどの場合役職が1、2段階上がる。日本国内であっても慣れない職務を、海外で初めてこなさなければならなくなると、当然うまくいかないこともある。マネージャーとして部下を抱えた経験がないまま海外で働き始めると、人が思うように動かないことをすべて異文化のせいにして、思考停止してしまう。同じような問題に直面したとしても、日本人相手ならば根気強くやろうとするのに、現地の外国人相手だとすぐに異文化のせいにして諦めてしまいがちだ。本来ならば母語の違う現地のスタッフにこそ、より時間をかけて丁寧に接するべきである。第四に、文化の違いだ。これはいわゆる「異文化の壁」である。国や民族の文化的な違いももちろんあるが、個人の持つ考え方も含まれるため、より複雑だ。この4つは複合的に絡み合っている場合もある。しかし、これらをまとめて「文化の違い」と捉えてしまえば思考停止に陥り、前向きで具体的な対応には結びつかなくなってしまう。その問題が本当に文化の違いからきているものかどうか、常に自問するべきだ。

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海外で活躍するためのスキル

自社の理念が説明できるか?

海外でビジネスをする際、まずは現地の新しい顧客やビジネスパートナーに意識が向くだろう。しかし、無視できないのが自己理解である。

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要約公開日 2021.05.25
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