感情は、すぐに脳をジャックする

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感情は、すぐに脳をジャックする
出版社
学研プラス

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出版日
2021年12月28日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

なぜ私たちは、マンガや小説のような創作物を必要とするのか。単なる時間つぶしや気晴らしのためだけではない。意識しているかどうかは別として、創作物に描かれた登場人物の感情の動きを読むことで、自分の感情を動かされることを期待している。それは笑いや興奮、爽快感といった単純な感情だけでなく、自分がかつて経験し、整理できていなかった感情の追体験や、これまで一度も経験していない感情を創作物の中で体験するといったことも含まれる。私たちは日々感情を動かし、世界には感情が溢れているとまでいえるのに、自分の中に湧き上がる感情を的確に把握し、自分の行動やアウトプットに反映させることは容易ではない。

本書は『バガボンド』や『宇宙兄弟』など、マンガ史に残る名作を担当した編集者、佐渡島庸平氏が感情について、できるだけ明解かつ論理的に考察した軌跡として著された。その考察には、共著者である石川善樹氏から受けた刺激や知見が多分に含まれているという。マンガ家の羽賀翔一氏のイラストが全編に彩りを加え、魅力的な一冊に仕上がっている。

本書を読んでいると、普段いかに感情を曖昧に捉えているかを思い知らされる。私たちの行動はすぐに感情にジャックされ、感情に振り回されてしまう。自分の把握する感情の解像度を高めることができたら、日々の生活から受け取ることができる情報の質、そしてアウトプットが確実に変化することだろう。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

佐渡島庸平 (さどしま ようへい)
株式会社コルク代表取締役社長。編集者。
1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、灘高校に進学。
2002年に東京大学文学部を卒業後、講談社に入社し、「モーニング」編集部で井上雄彦『バガボンド』、 安野モヨコ『さくらん』のサブ担当を務める。
03年に三田紀房『ドラゴン桜』を立ち上げ、 小山宙哉『宇宙兄弟』もTVアニメ、映画実写化を実現する。伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など小説も担当。12年、講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社・コルクを創業。『宇宙兄弟』『インベスターZ』『マチネの終わりに』などを担当。インターネット時代のエンターテインメントのあり方を模索し続けている。コルクスタジオで、新人マンガ家たちと縦スクロールで、全世界で読まれるマンガの制作に挑戦中。

石川善樹 (いしかわ よしき)
予防医学研究者。博士(医学)。
1981年生まれ。東京大学、ハーバード公衆衛生大学院を経て、自治医科大学で博士(医学)を取得。公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事。「人がよりよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学とプロジェクトを行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論。多岐にわたる知識から発せられる秀逸なコメントは、講演会、テレビ番組などのメディアでも好評を得る。著書に『考え続ける力』(ちくま新書)、『フルライフ』(NewsPicksパブリッシング)など多数。

羽賀翔一(はが しょういち)
マンガ家。コルクスタジオ所属。
1986年生まれ。2010年『インチキ君』で第27回MANGA OPEN奨励賞受賞。『ケシゴムライフ』をモーニングでデビュー。2017年8月に発表された『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)で一躍注目を浴びる。大ヒットを記録した『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の挿絵をはじめ、seven oopsのアルバムジャケットなど多方面でも活躍。本作の装画・挿絵も手掛ける。近刊『ハト部』(上下巻・双葉社)。現在Twitterで毎日1Pマンガを更新。

本書の要点

  • 要点
    1
    「感情」とは何か。感情の一つひとつを認知し、解像度をどれだけ高められるか。もし自分の感情を細かく認知できるようになれば、あらゆるアウトプットが確実に変わる。
  • 要点
    2
    「感情は、すぐに脳を乗っ取る」。あらゆる感情は、自分の行動や意思決定に影響するのだ。言い換えれば、同じ世界でもその人の持つ感情によって見え方が変わる。
  • 要点
    3
    感情への理解を深めるとき、重要なのは感情を認識し受け入れ、そのうえでどのような選択肢があるかを考え、採用する「認知・受容・選択」のサイクルを回すことだ。

要約

【必読ポイント!】 感情を知ることは、自分を知ること(佐渡島庸平)

感情を疑う

感情は、日々のあらゆるシーンで生まれては消えていく。なんとなく落ち込んだり、嬉しくなったりしても「私は今、どんな気持ちなのか?」と自問せず、その多くを漠然とやり過ごしている。一方で、強い感情が沸き上がったときは、その感情がすべての時間と空間を支配してしまうことがある。嬉しい気持ちになったことがあった日でも、その日の終わりに「しんどい」が一番強い感情であったら、「しんどい1日だった」と思ってしまう。感情はこれほどにもあいまいなものだ。

編集者である佐渡島氏にとって、感情はストーリーやキャラクターを描く際の重要な要素だ。ところが、自分自身の感情や、感情そのものの定義について長年無頓着であった。「怒りや悲しみに対処する方法」のように、感情をマネジメントしたりコントロールしたりするための情報はいくらでも見つかる。しかし、「自分にとっての怒りとは?悲しみとは?」を理解することは別の問題だ。

「感情」とは何か。感情の一つひとつを認知し、解像度をどれだけ高められるか。もし自分の感情を細かく認知できるようになれば、あらゆるアウトプットが確実に変わる。まずは、私たちは多くの感情を見逃しているのだという事実を知ることから始めよう。

感情は、すぐに脳を乗っ取る
TanyaJoy/gettyimages

「感情は、すぐに脳を乗っ取る」は共著者の石川氏の言葉だ。

佐渡島氏が感情を意識するようになったのは、経営者になってからのことだ。重要な意思決定のたび、感情が強く揺さぶられる。「ビジネスの意思決定に、感情を持ち込まない」が一般的なセオリーだが、現実はそううまくいかない。自分の中で生まれた感情にはすべて意味があり、どんなに抗っても感情と脳を切り離すことは不可能だ。あらゆる感情は、自分の行動や意思決定に影響する。

インプットもアウトプットも、感情から影響を受けている。だから、感情を正しく認知できれば、インプット・アウトプットともに質を上げることができるはずだ。感情をコントロールしようとするよりも、表層的な感情の先にある本質を理解し、正しく認知しようとするほうが自由に生きていけるし、より多くの世界を覗くことができるだろう。

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要約公開日 2022.03.05
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