「対話と決断」で成果を生む

話し合いの作法

未読
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「対話と決断」で成果を生む
話し合いの作法
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話し合いの作法
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出版社
出版日
2022年09月06日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

会社、学校、自治会、ありとあらゆる場面で日々行われる「話し合い」。あなたは、そんな日常にあふれる話し合いについて、自ら積極的に学んだことがあるだろうか。おそらく多くの方が、“いいえ”と答えるのではないだろうか。

私たちは大人になる過程で実体験として話し合いに触れ、時には親から「相手の立場になりなさい」と教えられ、時には上司から「積極的に発言しなさい」と指導されてきた。

だが、自分の身の回りや社会で見られる話し合いを振り返ってみてほしい。発言権がある大きい声の人の意見だけが反映されたり、意見がほとんど出ずに尻つぼみの場になってしまったり、はたまた長時間にわたり会議をするものの何も決まらず「結局、なんだったんだ」という曖昧模糊な結果に終わってしまったりしていないだろうか。そのような機能不全に陥っている会議や話し合いは、巷にあふれている。

本書は、そんな残念な会議がはびこる現状に危機感を覚えた著者が、「話し合いの作法」を紹介する一冊だ。生産的な話し合いを進めるコツ、話し合いに臨む際のマインドセットなどが豊富に掲載され、悪い話し合いの具体例、イラストや図、ケーススタディも用いてわかりやすく解説されている。

本書を読めばきっと、「よい話し合いをするために必要なこと」が明確につかめるはずだ。会議に苦手意識をもつ若手社員から、部下に闊達な意見交換を促したいリーダー層まで、幅広い世代、立場の人におすすめできる一冊だ。

ライター画像
小林悠樹

著者

中原淳(なかはら じゅん)
立教大学 経営学部 教授(人材開発・組織開発)。立教大学大学院 経営学研究科 経営学専攻 リーダーシップ開発コース主査。立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長。
1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。
著書に、『職場学習論』『経営学習論』『人材開発研究大全』(以上、東京大学出版会)、『組織開発の探究』(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、『研修開発入門』シリーズ(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中公新書ラクレ)、『残業学』(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、『フィードバック入門』『実践! フィードバック』『サーベイ・フィードバック入門』(以上、PHP研究所)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    話し合いは「対話」と「決断」の2つのフェーズに分けられる。
  • 要点
    2
    よい対話には、メンバーが「当事者性」を感じられるような「フォーカスされた問い」が欠かせない。問いの投げ方によっても話し合いの質は大きく変わる。
  • 要点
    3
    よい対話の実現によって、「自己を変える契機が得られること(自己変容)」「共通の了解が生まれること」の2つの成果が期待できる。
  • 要点
    4
    コミュニケーションの生産性を左右するのは「決断」だ。その際、安易に多数決を採るのではなく、全員が納得できる決め方を決めておくことが重要である。

要約

なぜ今話し合いを見直すのか

日本人が話し合いを苦手とする3つの理由
maroke/gettyimages

社会に分断や争いが増え、これまで以上に話し合いの重要性に目が向けられる時代にあって、「話し合いは面倒くさい、時間の無駄」という「あきらめ」が広がっているように感じられる。そもそも、「誰もが意見を持ち寄り、それらが受容され、納得感をもって、物事が決められている」話し合いは、どれだけ成立しているだろうか。

日本人が話し合いを苦手とする代表的な理由は、「①同質性の高い集団」「②子どもの頃から、ダメな話し合いを積み重ねている」「③正解主義に陥っている」という3つだ。

日本人は単一に近い民族であり、「個のすべてをかけて集団に関わることをともに求め合う」同調圧力の強い傾向がある。一見すると仲がよさそうな間柄でも、「心おきなく自分の意見を言っても、村八分にされない」ような心理的安全性が保たれているとは言えない。「心理的安全性は、話し合いのための基礎的資源」なので、同調行動への圧力が強い日本では話し合いに対して困難を感じる人は少なくないのだ。

そして、家庭や学校教育の場では、相手の話を最後まで聞くといった話し合いのルールが守られておらず、「嫌な経験」を積み重ねて、話し合いへの苦手意識を助長している。さらには、暗記・記憶が中心である一般的な一斉授業のために、「正しい答え」を探す正解主義的な考え方が強まっている。

正解がないことを対話によって考えるのが話し合いであり、多くの人に関わる「大事なこと」には、たいてい「唯一の答え」はない。

VUCAの時代に対応するために

「正解」が見えにくい不確実な現代社会では、話し合いがより必要になってくる。

かつてはビジネスでも学業でも、「これをやれば大丈夫」という「勝ちルート」が存在した。その時代には、「子どもの創意工夫」より「基礎学力の定着」「言われたことをやりきる力」に焦点が当てられていた。現代の多様化するニーズに応えるためには、さまざまな立場や所属の人々が強みを持ち寄り、話し合うことが必要となる。

また、グローバル化と高度な情報化などにより企業の同質性が失われている今、職場の多様性にも対応していかなくてはならない。同じとされてきた日本人同士でも、意見や価値観の違いが意識され始めている。多様性をポジティブな力に変えるためには、本当に腹を割って話し合い、時間をかけて合意をつくることが大切だ。

話し合いは民主主義の根幹

民主主義が世界規模で危機的な状況に陥りつつあることも、話し合いの作法を今学ぶべき理由のひとつだ。排外主義的な政策を推し進めたドナルド・トランプ氏の登場、ウクライナとロシアの戦争、民主主義とは対照的な政策をとる中国の台頭などが起きている。日本でも、国民への説明責任を果たさない国会答弁が繰り返され、「言葉の貧困」と「コミュニケーションの軽視」が問題になっている。

日本財団の調査によれば、「自分で国や社会を変えられると思うか」という質問に対して肯定的な回答をした日本の若者は、全体の18.3%にとどまったという。他国と比べてもワースト1位の結果である。

だからこそ、民主主義の根幹たる「話し合いの意義」に立ち返らなければならないのだ。

話し合いとは何か?

「対話」と「決断」

話し合いのプロセスは、大きく「対話」と「決断(議論)」の2つのフェイズに分けられる。「対話」では、お互いの意見の違いを明確にして、認識し合うコミュニケーションを行う。「決断」では、どれが優れている(マシである)意見かを理性的に比較検討し、決めるための議論をする。

「Aという意見をもつAさん」と「Bという意見をもつBさん」が話し合いをするとしよう。まず対話の段階では、双方が持つ意見の「違い」を認め合う。そして、AとBのさまざまな情報を比較検討し、最終的にどちらにするのかを決める。

このとき、自分たちがいま「対話」と「決断」のどちらのフェイズで話しているのか、意識を共有しながら進めることが大切だ。

こんな「残念な話し合い」見たことありませんか?
fizkes/gettyimages

「残念な話し合い」ももちろんある。

たとえば、対話で相手の意見をいったん受容することができず、最悪の場合「論破」してしまうケースだ。相手が何を言っても、「いや、そうじゃなくない?」「おかしくない?」と否定や反論を繰り返す。自分に自信がない、相手より優位に立ちたいと思いこんでいるときに陥りやすい。あるいは、自分の意見をただちに表明することが「相手への貢献」になると思い込んでいるケースもある。こういう人が多い話し合いでは、雰囲気が悪くなってしまう。

逆に、「対話が大切だ」とひたすら対話を行って、議論や決断をしない「対話ロマンティシズム病」もある。意見の違いが表出するだけで、いつまでもわかり合えない。さらには「いろんな意見があって当然だよね」と、相対主義的な話し合いに終始して物事が先に進まない「みんな違ってみんないい病」もよく見られる。

こうした状態を続けていると、最も話し合いから遠い「対話ゼロで、ただちに多数決」の状況に陥ってしまう。

【必読ポイント!】 対話の作法

対話を具体的につかむ

対話という言葉のイメージは人によってそれぞれだ。カフェで談笑しているイメージかもしれないし、外交を想像する人もいる。対話について具体的につかむには、「非対話的なもの」を考えるとよい。それには次のような3種類がある。

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要約公開日 2022.10.17
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