ケーキの切れない非行少年たちのカルテの表紙

ドキュメント小説

ケーキの切れない非行少年たちのカルテ


本書の要点

  • 精神科医・六麦克彦が勤める要鹿乃原少年院には、多様な凶悪犯罪に手を染めた非行少年たちが収容されている。彼らの多くは知的障害や発達障害をもっており、本来なら保護されるべき「被害者」でもあった。

  • 16歳の田町雪人は、職場での暴行や窃盗で要鹿乃原少年院に入院した。雪人には軽度の知的障害があり、丸いケーキを3等分にできなかった。少年院では模範生として過ごし「二度と人に迷惑をかけない」と誓って出院する。しかし気持ちとは裏腹に社会生活はうまくいかず、振り込め詐欺の受け子になり、金銭トラブルから殺人事件を起こしてしまう。

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少年院では優等生だった、田町雪人のカルテ

保護されるべき障害児だった非行少年たちが集まる場所

精神科医の六麦克彦が要鹿乃原(いるかのばら)少年院での勤務を始めて5年が経っていた。神戸の自宅から山間部にある少年院まで、3つの府県をまたいで片道3時間強。週2日の出勤日に朝4時半に起きて始発電車に乗る生活は2年で交替の約束だったが後任はまだ決まっていない。

この少年院には、窃盗、傷害、強制わいせつ、薬物乱用、詐欺、放火、殺人など、ほぼ全ての犯罪を行った非行少年たちが収容されている。他の少年院と違うのは、彼らが知的障害や発達障害のいずれか、または両方をもっていることだ。少年たちは多様な犯罪に手を染めたが、かつては大切に保護されるべき障害児でもあった。

かつて診察した少年が、殺人を犯したのははじめてだった

Dimitri Disterheft/gettyimages

ある日の昼休み、六麦がテレビのスイッチを入れるとニュースが耳に入ってきた。早朝の公園で若い女性の遺体が発見された。鈍器のようなもので殴られた後、首を絞められ殺害されたようだ。容疑者は田町雪人、20歳。午前11時頃、母親と一緒に出頭してきたところを逮捕された。金銭トラブルが原因とみられている。

六麦にはこの名前に聞き覚えがあった。4年ほど前にこの少年院にいた少年だ。少年院を出てから、再非行で戻ってくる少年は一定数いる。だが、六麦にとって、自分の診察した少年が殺人事件を起こすのははじめてだった。呆然とした気持ちになりながら、六麦はまだあどけなさの残る雪人のカルテの写真を見つめ、記憶を遡った。

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要約公開日 2022.11.02
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