本書のタイトルである「脳の外で考える」とは、「頭の外にあるものをうまく使う」ということを指す。「体の感覚や動き、学んだり働いたりする物理的な空間、さらには周りにいる人たちの知性を、自分の頭の中で行う処理に使うべく取り込む」ということだ。
人間の脳は万能だと考えられてきたが、近年では多くの研究者が「脳の限界」に気づいている。この限界はもちろん、個々人の知性に関係なくあらゆる人の脳に当てはまる。だからこそ、脳に頼らない方法を学ぶのが賢明だ。
しかし、私たちは学校で自分の頭を使うことばかり教えられ、「脳の外」で考える能力をトレーニングされていない。
本書は、「脳の外」にあるリソースを活用する実用的な方法を紹介してくれる。
「正しい判断を下すには、体からのフィードバックに注意深く耳を傾ける能力が必要である」。「内受容感覚」すなわち「体内の状態に気づくこと」が成功を左右するのだ。
この感覚には大きな個人差がある。「内受容感覚が優れている人」は、手を胸に置いたりせずに心臓が鼓動するタイミングを正確に当てられたりする。内受容感覚は豊かな情報の源になっているが、意識が処理するよりもずっと多くの情報は普段、無意識下に沈められている。
認知科学者のパヴェル・レヴィツキの実験は、無意識のプロセスのありようを示している。実験参加者は、画面上に現れては消える十字架を観察し、次にどこに十字架が現れるか予測するように指示される。数時間経つと、予測の精度は上がっていったが、なぜ予測できるかは説明できなかった。無意識の領域がその複雑なパターンを認識していたのである。
「非常に関連性が高そうなパターンを検知したとき、それをこっそり教えてくれるのが内受容感覚の機能」だ。震えやため息、呼吸の加速、筋肉の緊張といった形で気づかせる。体は意識よりもずっと早いペースで複雑な情報を処理している。「体の刺激に敏感な人ほど、無意識の知識を活用できる」のだ。
内受容感覚への気づきを強化するためには、たとえばマインドフルネス瞑想、その中でも「ボディスキャン」が効果的だ。居心地の良い場所に座るか横になるかして目を閉じ、体全体が一つになるのを感じる。左足のつま先から順番に、最終的には顔まで、呼吸を送るイメージで意識を移動していく。そうして、体内の感覚にチューニングを合わせる。
そうして感覚を強化すれば、意識を縛る認知バイアスを無効にすることもできるだろう。
動物と同様に人も、身体的な活動を行うときは周辺視野を中心に視覚が鋭くなる。科学者たちは、動きの強度と種類という2つの方向から、認知能力の強化について調べている。人類は進化の過程で比類なきサイズの脳を獲得したが、「身体的な活動と知的な鋭敏さは、密接に絡み合っている」のだ。
学校で生徒は平均で50%の時間を座って過ごしている。この割合は、年齢が上がっていくにつれて高くなる。しかし、カリフォルニア州のモリーン・ジンクの教室ではスタンディングデスクが採用されており、自由に動き回ることも許されている。これにより子どもたちは、「集中力が高まり、自信を持ち、生産的になる」状態になったという。
心理学者のダニエル・カーネマンは、「中強度の運動を中程度の時間で行うと、運動中および運動直後の考える能力が向上」することを立証した。ランチ休憩、会議のスキマ時間なども、「脳が最適に働く状態を作るための運動の場」になりうるだろう。
人は言葉で表現しきれないことを手や体の動きで伝えている。
ジェスチャーは、動いている本人の視点を他の人がシミュレーションできるようにする。したがって、まだ不確かな未来に現実味を与えることもできるのだ。ジェスチャーを巧妙に活用する創業者は、新規事業に向けた資金獲得の確率が12%も高くなった、という研究もある。
クリスチャン・ヒース教授は、ビデオ録画した会話を細かく分析調査している。たとえば「堂々巡り」という前に手をクルクル回している人など、言葉にする前にジェスチャーで表現する人が多く、「私たちの会話はほとんどが手によってなされ、口にする言葉は単なる補足だ」ということが見えてくる。
意識より先に手が、何を伝えようとしているかを「知って」おり、ジェスチャーを禁じられると流暢に話せなくなることもわかっている。
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