ドーパミン中毒

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ドーパミン中毒
出版社
出版日
2022年10月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

学生のころ、期末試験の勉強をしないといけないのに、マンガを読み始めてやめられなくなった。仕事の休憩中にスマホを眺めていて、気づいたら1時間経っていた。はたまた、一口だけと食べ始めたスナック菓子をやめられず一袋まるまるたいらげてしまった―――。こんな経験が、誰しもあるのではないだろうか。

現代には、欲望と快楽の対象が数限りなく存在する。お酒やギャンブル、ネットショッピング、ゲーム、SNS、動画サイトなど、私たちは自分たちに刺激を与えてくれるものに囲まれて生活している。そうして快楽を感じると、脳でドーパミンという物質が放出される。ドーパミンは報酬を獲得できる動機に対して作用するため、脳は再びその行為を促して、さらなる快楽を求めるようになる。そうして快楽に浸り続けた結果、依存症になってしまうのだ。これは、誰にでも起き得ることである。

本書では、そんな「ドーパミンの沼」から脱するための道しるべが示されている。具体例や実体験も数多く紹介されており、向精神薬、ポルノ、アルコール、食べ物、ロマンティック小説など、登場する依存対象も幅広い。もちろんドーパミンは絶対の悪者というわけではない。支配されないように上手にコントロールできれば、生きるための原動力にもなりえるのだ。

私たちの多くは、程度の差はあれど、何かしらの依存症予備軍になっている可能性が高い。「もしかして」と少しでも頭をよぎったら、本書からドーパミンとの付き合い方を学んでみてはいかがだろうか。

ライター画像
小林悠樹

著者

アンナ・レンブケ(Anna Lembke)
1967年アリゾナ州生れ。精神科医。医学博士。スタンフォード大学医学部教授。同大学依存症医学部門メディカル・ディレクター。イエール大学を卒業後、スタンフォード大学で医学を修める。依存症医学の第一人者であり、前著Drug Dealer, MDが話題に。論文、受賞歴多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    脳が快楽を感じるとドーパミンが放出される。
  • 要点
    2
    快楽と苦痛はシーソーのような関係にあり、快楽の側にシーソーが傾いた後、その事後反応として苦痛の側にもシーソーが傾く。
  • 要点
    3
    衝動的行動をコントロールするためには「セルフ・バインディング」を行うのがよい。意志の限界を認め、自分と自分がはまっているものとの間に、意識的に壁を作る。
  • 要点
    4
    正直に生きると、自分の行為に対して自覚が生まれ、いい人間関係を構築でき、未来の自分に対して説明責任を果たせるようにもなる。それは、「充分状態のマインドセット」を育む。

要約

快楽の追求

ドーパミンとは

「消費することこそが私たちの生きる動機の全てとなってしまったこの世界で、衝動的に何かを過剰摂取してしまうことをどうやったらやめられるのか」。そうして求めすぎた快楽は苦痛へとつながる。そのメカニズムとして脳の報酬処理に光が当てられるようになった。

脳内では「ニューロン(神経細胞)」という組織が脳の主要機能を担っており、ニューロン同士はシナプスで電気信号と神経伝達物質をやりとりしている。「ドーパミン」はその神経伝達物質のひとつである。

ドーパミンは生物が感じる「快楽」そのものというより、報酬を得ようとする動機に対して重要な役割があるようだ。ドーパミンを作れないように遺伝子操作したマウスは、食べ物がある状況ですらそれを求めず、餓死してしまう。

ドラッグの使用で脳内の報酬回路にどの程度、どれくらいの速さでドーパミンが放出されるかを計測することで、ドラッグの潜在的な依存性を図ることができる。放出量が多いほど、反応が早いほど、そのドラッグは依存性が高いと考えられる。ラットの場合、チョコレートは脳のドーパミン基礎放出量を55%増加させる。セックスは100%、ニコチンは150%だ。注意欠陥障害の治療に用いられる薬の有効成分であるアンフェタミンは、1000%にもなる。

快楽と苦痛のシーソー
Eoneren/gettyimages

快楽と苦痛は脳の同じ部分で処理されることがわかっている。しかも両者は、いわばシーソーのような関係にある。脳内にあるシーソーが片側に早く大きく傾くほど強い快楽を感じる。

ただしこの脳内のシーソーには、傾きをなるべく水平に保とうとする自己調整メカニズムが働く。その過程で、快楽の側に傾いた反動として、苦痛の側にもシーソーが傾くのだ。この関係は「相反過程理論」と呼ばれ、片方の反応が起きたとき、それとは正反対の「事後反応」が起こることを指す。体内の多くの生理的過程は、同様のメカニズムで制御されている。

なぜポテチに手を伸ばしてしまうのか

つい2枚目のポテトチップスを求める、ゲームをもう1度やってしまう。似たような快楽刺激が続くと、快楽側へのシーソーの傾きが弱く短くなる。このような快楽への「耐性」は、依存症発症の重要なファクターだ。そして耐性ができると、快楽の事後反応である苦痛側への偏りも強く長くなる。この一連の現象は「神経適応」と呼ばれる。

また、高ドーパミン物質を大量かつ長時間摂取することで、脳はむしろ苦痛へと偏り、ドーパミン欠乏状態になることもわかっている。薬物依存の人は薬物使用によって放出されるドーパミンの量もそれを受け取るドーパミン受容体も減少する。これは報酬回路の感度が低下した状態であり、こうなると何があっても喜びを得られなくなるのだ。「無快感症」である。

ギャンブルとドーパミン

一度揺らいだシーソーは、ドラッグ使用を連想させる刺激に晒されただけでも傾く。これは、神経科学で「合図依存的学習」と呼ばれている。いわゆる「古典的(パブロフ型)条件付け」である。条件刺激によって、一次的に軽いドーパミン欠乏状態になるのだ。このとき、渇望する報酬が得られないと、さらに状態は悪くなる。

その例がギャンブルだ。ギャンブルでは、最終的な報酬だけでなく、「報酬がもらえるかどうかわからないという予測不能性」に対してもドーパミンが放出される。ギャンブルの動機は、むしろ報酬が予測できない点にあるのだ。

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要約公開日 2022.12.26
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