本書の要点

  • 脳が快楽を感じるとドーパミンが放出される。

  • 快楽と苦痛はシーソーのような関係にあり、快楽の側にシーソーが傾いた後、その事後反応として苦痛の側にもシーソーが傾く。

  • 衝動的行動をコントロールするためには「セルフ・バインディング」を行うのがよい。意志の限界を認め、自分と自分がはまっているものとの間に、意識的に壁を作る。

  • 正直に生きると、自分の行為に対して自覚が生まれ、いい人間関係を構築でき、未来の自分に対して説明責任を果たせるようにもなる。それは、「充分状態のマインドセット」を育む。

1 / 3

快楽の追求

ドーパミンとは

「消費することこそが私たちの生きる動機の全てとなってしまったこの世界で、衝動的に何かを過剰摂取してしまうことをどうやったらやめられるのか」。そうして求めすぎた快楽は苦痛へとつながる。そのメカニズムとして脳の報酬処理に光が当てられるようになった。脳内では「ニューロン(神経細胞)」という組織が脳の主要機能を担っており、ニューロン同士はシナプスで電気信号と神経伝達物質をやりとりしている。「ドーパミン」はその神経伝達物質のひとつである。ドーパミンは生物が感じる「快楽」そのものというより、報酬を得ようとする動機に対して重要な役割があるようだ。ドーパミンを作れないように遺伝子操作したマウスは、食べ物がある状況ですらそれを求めず、餓死してしまう。ドラッグの使用で脳内の報酬回路にどの程度、どれくらいの速さでドーパミンが放出されるかを計測することで、ドラッグの潜在的な依存性を図ることができる。放出量が多いほど、反応が早いほど、そのドラッグは依存性が高いと考えられる。ラットの場合、チョコレートは脳のドーパミン基礎放出量を55%増加させる。セックスは100%、ニコチンは150%だ。注意欠陥障害の治療に用いられる薬の有効成分であるアンフェタミンは、1000%にもなる。

快楽と苦痛のシーソー

Eoneren/gettyimages

快楽と苦痛は脳の同じ部分で処理されることがわかっている。しかも両者は、いわばシーソーのような関係にある。脳内にあるシーソーが片側に早く大きく傾くほど強い快楽を感じる。ただしこの脳内のシーソーには、傾きをなるべく水平に保とうとする自己調整メカニズムが働く。その過程で、快楽の側に傾いた反動として、苦痛の側にもシーソーが傾くのだ。この関係は「相反過程理論」と呼ばれ、片方の反応が起きたとき、それとは正反対の「事後反応」が起こることを指す。体内の多くの生理的過程は、同様のメカニズムで制御されている。

なぜポテチに手を伸ばしてしまうのか

つい2枚目のポテトチップスを求める、ゲームをもう1度やってしまう。似たような快楽刺激が続くと、快楽側へのシーソーの傾きが弱く短くなる。このような快楽への「耐性」は、依存症発症の重要なファクターだ。そして耐性ができると、快楽の事後反応である苦痛側への偏りも強く長くなる。この一連の現象は「神経適応」と呼ばれる。また、高ドーパミン物質を大量かつ長時間摂取することで、脳はむしろ苦痛へと偏り、ドーパミン欠乏状態になることもわかっている。薬物依存の人は薬物使用によって放出されるドーパミンの量もそれを受け取るドーパミン受容体も減少する。これは報酬回路の感度が低下した状態であり、こうなると何があっても喜びを得られなくなるのだ。「無快感症」である。

ギャンブルとドーパミン

一度揺らいだシーソーは、ドラッグ使用を連想させる刺激に晒されただけでも傾く。これは、神経科学で「合図依存的学習」と呼ばれている。いわゆる「古典的(パブロフ型)条件付け」である。条件刺激によって、一次的に軽いドーパミン欠乏状態になるのだ。このとき、渇望する報酬が得られないと、さらに状態は悪くなる。その例がギャンブルだ。ギャンブルでは、最終的な報酬だけでなく、「報酬がもらえるかどうかわからないという予測不能性」に対してもドーパミンが放出される。ギャンブルの動機は、むしろ報酬が予測できない点にあるのだ。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2651/4048文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2022.12.26
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

いつもよりラクに生きられる50の習慣
いつもよりラクに生きられる50の習慣
藤本梨恵子
脳の外で考える
脳の外で考える
アニー・マーフィー・ポール松丸さとみ(訳)
言語化の魔力
言語化の魔力
樺沢紫苑
自分を鍛える!
自分を鍛える!
渡部昇一(訳・解説)ジョン・トッド
禅、シンプル生活のすすめ
禅、シンプル生活のすすめ
枡野俊明
「超」メタ思考
「超」メタ思考
ハック大学 ぺそ
人生をもっと“快適”にする 急がない練習
人生をもっと“快適”にする 急がない練習
名取芳彦
頭がいい人の勉強法
頭がいい人の勉強法
和田秀樹

同じカテゴリーの要約

一流の研究者たちが教える 快眠の科学
一流の研究者たちが教える 快眠の科学
伊藤和弘三島和夫(監修)
なぜゲームをすると頭が良くなるのか
なぜゲームをすると頭が良くなるのか
星友啓
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
新版 科学がつきとめた「運のいい人」
中野信子
スマホ脳
スマホ脳
アンデシュ・ハンセン久山葉子(訳)
スタンフォード式 最高の睡眠
スタンフォード式 最高の睡眠
西野精治
最強に面白い 睡眠
最強に面白い 睡眠
柳沢正史(監修)
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
新版 「空腹」こそ最強のクスリ
青木厚
FACTFULNESS
FACTFULNESS
ハンス・ロスリングオーラ・ロスリングアンナ・ロスリング・ロンランド上杉周作(訳)関美和(訳)
無料
科学的に元気になる方法集めました
科学的に元気になる方法集めました
堀田秀吾
リサーチ・クエスチョンとは何か?
リサーチ・クエスチョンとは何か?
佐藤郁哉