人間の条件

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人間の条件
出版社
定価
1,650円(税込)
出版日
1994年10月06日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

現代社会を生きる私たちにとって、労働はほとんど不可避のことに思える。実際、日本国憲法には「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」(第27条1項)と書かれており、これはいわゆる「国民の三大義務」のうちのひとつである。だから私たちは、労働に高い価値が認められていることを、自然と受け入れている。

だが本書の著者であるハンナ・アレントは、労働の価値を無批判に受け入れない。そしてその正体を、歴史的・社会的な見地から明らかにしようとする。アレント曰く、労働はかつて最低の地位にあった。しかし近代に入るとそのヒエラルキーは逆転し、労働に高い価値が置かれ、その他のものは労働と同化されるか、脇に追いやられたのだという。

本書でまず興味深いのは、労働と「仕事」を区別している点だ。アレントのいう労働は消費に紐付いた概念であり、一方の仕事は消費の及ばない領域に係わるものを指す。生産性という観点で見たとき、労働は最も評価が高い。しかしそれは、「消費とセットである」という労働の性質に大きく依拠している。消費を是としない仕事が昨今再評価されてきているのは、労働的なるものへの危機感が共有されているからだろう。

また、「活動」の持つ価値が高く評価されていることにも注目したい。再生産を続ける労働は世界を変えず、新たな物を生み出す仕事も世界の構造を変えるには至らない。唯一、世界の根幹を変える可能性があるとアレントが信じているのは活動であり、それは人間の相互関係におけるアイデンティティの表出に他ならないという。そういう意味で、本書は「人間の条件」を根底から問い直した書といえよう。

著者

ハンナ・アレント (Hannah Arendt)
現代の最もすぐれた女性政治思想家。1906年、ドイツのユダヤ人家庭に生まれる。マールブルク大学でハイデッガーに、ハイデルベルク大学でヤスパースに師事、哲学を学ぶ。1933年、ナチスの迫害を逃れてフランスへ、41年にはアメリカへ亡命。20世紀の全体主義を生み出した現代大衆社会の病理と対決することを生涯の課題とした。1975年歿。著書に、『全体主義の起源』『革命について』などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間の基本的な活動力は、「労働(labor)」、「仕事(work)」、「活動(action)」の3つに分けられる。
  • 要点
    2
    近代において労働が賛美されるようになったのは、労働のもつ「生産性」の高さが原因である。
  • 要点
    3
    労働で生まれた物は「消費」されるが、仕事で生まれた物は「使用」され、半永久的に世界に留まる。
  • 要点
    4
    人のアイデンティティは、活動を通して明らかになる。活動なき人生は、世界に登場していないのと同義である。

要約

人間の条件

活動的生活
ASKA/gettyimages

人間の基本的な活動力は、「労働(labor)」、「仕事(work)」、「活動(action)」の3つに分けられる。

労働とは、「人間の肉体の生物学的過程に対応する活動力」だ。人間の肉体は成長し、新陳代謝し、最後には朽ちる。そしてこの過程は、労働によって生み出され、消費される生活の必要物と深く結びついている。すなわち、労働の人間的条件は生命そのものなのだ。

仕事とは、そうした自然の流れとは異なる活動力といえる。人間は、生命の循環に盲目的に付き従うだけではない。なぜなら仕事によって生み出される物は、生命を超えて存続する「人工的」な世界そのものだからだ。したがって、仕事の人間的条件は世界性であると言える。

活動とは、「直接人と人との間で行なわれる唯一の活動力」であり、「多数性という人間の条件」に対応している。地球上に生きて世界に住むのはたった一人の人間ではない。この人間の多数性は、全政治生活の必要条件であるばかりか、最大の条件となる。私たちは、過去や現在、将来に生きるどの他人とも異なっているからである。

この3つの活動力とそれに対応する「人間の条件」は、「人間存在の最も一般的な条件である生と死」に深く結びついている。労働は、個体の生存と種の生命の両方を保障する。仕事やその結果である工作物は、死すべき生命と人間による時間のはかなさに対して、一定の永続性と耐久性をもたせる。そして活動は、政治体の創設と維持が可能である限り、記憶と歴史を残し続ける。そうして、来たるべき新しい人間のために世界を保持しようとする。

とりわけ活動は、誕生という人間の条件に最も密接に関係している。なぜなら、活動は新しいことを創始する(作り出す)ということであり、それは生命の誕生に紐付くからである。

労働

なぜ労働の地位は上がったのか

労働に対する軽蔑は生命の必要物に対する奉仕から自由になるためのすさまじい努力から生じたものであり、「肉体を非常に劣悪なものにする」労働はもっとも蔑まれたものだという言説もあった。

しかし近代になって伝統はすっかり転倒し、「あらゆる価値の源泉」として労働が賛美されるようになる。かつては〈理性的動物〉が占めていた地位に、〈労働する動物〉が置き換わった。

その理由は、労働の「生産性」にある。カール・マルクスは、労働する活動力、すなわち「労働力」という言葉を用いて、それは自分を生存させる手段を生産した後も消耗されず、「剰余」を生み出すという観点で、労働の生産性を説明した。したがって、何人かの労働だけで万人の生命を支えることができ、すべての労働は「生産的」になる。

マルクスは労働を「人間による自然との新陳代謝」と定義した。労働が生産するあらゆる物は、すぐに消費され、そしてその消費が新しい「労働力」を再生産する。労働と消費は密接に結びついており、ほとんど同じ一つの運動のようである。その運動は、何度も「生存の必然(必要)」という出発点に立ち戻るため、終わることがない。

労働は「すべての生産性の源泉」とみなされ、「人間のほかならぬ人間性そのものの表現」となった。

あらゆるものが労働になる
Nuthawut Somsuk/gettyimages

近代以前の〈労働する動物〉は私的な肉体に拘束され、奴隷状態となって家の内部に閉じ込められていた。奴隷は家族内部の生物学的生命の重荷を引き受け、その代わり労働から解放された人びとは、人間的な活力、自然な「快楽」を奪われていた。

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