「予想以上に作業に時間がかかる」「時間をかけたのにミスをする」といった問題は、集中力が不足しているからではない。一度に1つの事柄に対して約20分しか集中できないという人間の脳の特性が影響しているのだ。
東京大学の池谷裕二教授の研究によれば、60分間一気に学習するよりも、15分学習後に5分の休憩を挟む方が結果としてパフォーマンスが良くなるという。人間の脳は20分後に集中力が低下し、40分後には大幅に低下するというデータもある。
集中力を維持するためには、適時に休憩を取る必要がある。ちょっとしたストレッチや目を閉じるだけでも効果がある。「まだ大丈夫」と思いながら、作業を続けることは避けるのが賢明だ。
集中力を語るうえで押さえておきたいのが、「人間は一度に複数のことを同時にできない」ということだ。ウェスタン・ワシントン大学で行われた実験がその事実を示している。
この実験では、350人の学生がいる広場に一輪車に乗った派手なピエロが現れ、何人の学生がその存在に気づくかを調査した。調査の結果、普通に歩いていた学生全員がピエロに気付いたのに対し、携帯電話で話をしていた学生のうち気付いたのはわずか8%であった。携帯電話で会話をしているだけでも、これほどまでに注意力が散漫になるという事実は驚きだ。
マルチタスクこそが効率を高める近道だと言う識者もいるが、それは誤解だ。マルチタスクではなく、「タスクスイッチング」(作業の切り替え)を行っているだけである。
人間の脳は、原則として一度に1つのタスクのみを処理する構造になっている。例えば、会議中にひそかにメールを返信していたとしよう。これは実際には「会議」というタスクから「メール返信」というタスクへと切り替えているだけである。しかも、この切り替えによって、本来の主タスクであった会議への集中力が分散し、メール返信の内容に誤りが混入する可能性が高まる。
これは、脳がタスクを迅速に切り替える能力に限界があるためだ。作業は一見進んでいるように見えるかもしれないが、時間の使い方としては適切ではない。
マルチタスクによって人間は、ミスを犯す確率が上がり、得た情報を活用する能力が低下する。
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