現場論

「非凡な現場」をつくる論理と実践
未読
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「非凡な現場」をつくる論理と実践
著者
未読
現場論
著者
出版社
東洋経済新報社
出版日
2014年11月06日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

本書は、これまで『現場力を鍛える』『見える化』『ねばちっこい経営』という「現場力三部作」を出版してきた著者による現場力研究の集大成である。「非凡な現場」をつくるためのヒントをすべてまとめて書き残したい、という著者の思いから生まれた本書は、論理編と実践編からなり、それぞれにケーススタディとミニ事例が盛り込まれている。現場力研究を始めてからの15年間で訪ね歩いた400を超す現場の中から抽出された事例はいずれもユニークな創意工夫を成し遂げており、読み手の刺激を誘う。散りばめられたキーワードに頭を揺さぶられ、何の概念について整理しているのかわからなくならないように、冒頭で本書の「航海図」が示されているのも読者の理解を助ける。

精神論や根性論だけで「非凡な現場」をつくることはできず、高い納得性と理詰めのアプローチが不可欠であるという認識のもと、抽象的で曖昧な「現場力」を、経営学的観点からシステマティックに分析している。ひとつの現場で起きている事象を概念としてとらえ、類型化して図式化するという野心的な取り組みがなされており、現場に存在する空気感を書面で伝えようとする意欲がうかがえる。

日本企業の偉大な経営者には、共通して「現場愛」が見られるという。多くの現場を訪ねてそれらに触れた著者の記述からは、著者もまた現場に対して敬意を払い、現場と共に成長しようとする日本企業の姿勢に愛情を注いでいることが伝わってくる。

著者

遠藤 功(えんどう・いさお)
早稲田大学ビジネススクール教授。株式会社ローランド・ベルガー会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。
早稲田大学ビジネススクールでは、総合経営、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。
また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。
良品計画社外取締役、ヤマハ発動機社外監査役、損保ジャパン日本興亜ホールディングス社外取締役、日新製鋼社外取締役、コープさっぽろ有職者理事を務める。
著書の『現場力を鍛える』はビジネス書評誌『TOPPOINT』の「2004年読者が選ぶベストブック」の第1位に選ばれた。『見える化』は2006年(第6回)日経BP・BizTech図書賞を受賞。『新幹線お掃除の天使たち』はミュージカルとして上演され、好評を博した。

本書の要点

  • 要点
    1
    現場力は「保つ能力」「よりよくする能力」「新しいものを生み出す能力」で形成される。
  • 要点
    2
    非凡な現場では「よりよくする能力」と「新しいものを生み出す能力」がコア能力になっている。
  • 要点
    3
    非凡な現場をつくるためには、一人ひとりが何のために活動を行うかを理解している「合理的な必然性」と、能力形成に必要な要素が整っている「合理的な仕組み」が不可欠である。
  • 要点
    4
    「合理的な必然性」は「戦略的必然性」と「信条的必然性」という2つの要素から形成される。

要約

現場こそが企業の屋台骨

ndoeljindoel/iStock/Thinkstock
日本企業の「現場」には、可能性とリスクがある

日本企業には「現場」と呼ばれる場所が存在する。そこには日本企業がもつ強みや弱み、日本人の特異性やユニークさが潜んでいる。

現場は戦略の実行を担い、夢を形にする「価値創造主体」であり、「業務遂行主体」でもある。ルーティン作業に加え、本来であれば起きてはいけない異常にも対処する。その際に生まれる「刹那的な達成感」は決して悪いものではないが、その達成感に溺れると、日常に追われ、いつの間にか現状を維持することが現場の主たる任務になってしまう。これは大きなリスクのひとつである。

現場にはさらに「人材育成主体」という側面もある。人という観点から見ると現場は極めて同質的で隔絶的だ。仲間との連帯感は現場の強みだが、外部と隔絶された「小宇宙」は、小さな関係性に拘泥する「現場モンロー主義」のリスクもはらむ。

そのような現場のマネジメントは、戦略を練るよりもはるかに難易度が高いという点を認識すべきである。

現場の組織能力こそ成長の鍵である

同一業界で類似の価値を生み出そうとすれば、どの現場も似たような機能、業務を遂行することになる。そうした中でパフォーマンスに違いが出るのは、機能や業務が異なるからではなく、組織能力が違うからだ。組織能力はそれぞれの企業のブラックボックスなので、解明して一般化・体系化するのは難しいが、人の集積である現場が保有する組織能力の鍵は、実行力にある。

戦略は実行されてこそ意味を持つ。地に足のついていない戦略の成功確率は低い。現場にこそ未来につながる戦略の芽が潜んでいるので、その芽にいち早く気づき、自分たちが進むべき方向性を決めるのが、戦略策定の正しい態度である。

現場力は3段階で進化する

現場力は、以下の3つのステージを経てレベルアップしていく。

①保つ能力・・・確実に業務を遂行し、決められた標準価値を安定的に生み出す能力。

②よりよくする能力・・・現場力を競争上の優位性にまで高めるため、日々改善する能力。現場が微差にこだわり、問題を「処理」するのではなく、根っこから「解決」する姿勢を取る。

③新しいものを生み出す能力・・・現場の声に着目し、その質を高めていく能力。現場にはイノベーションの原石が埋もれている。規律が守れる現場なら、現場の権限や裁量権を高めることで、創造性を喚起できる。

「生きている現場」では、現場だからこそ思いつく知恵や創意工夫が連続的に創出される。そうした個々人の暗黙知は「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」というプロセスを経て組織内で共有されるようになる。非凡な現場には、この「知識創造スパイラル」が存在する。

【必読ポイント!】「非凡な現場」をつくるための「合理的必然性」

Nataliya Hora/iStock/Thinkstock
「非凡な現場」では全員が考えて動いている

平凡な現場では、コア能力は「保つ能力」にあるが、非凡な現場では「よりよくする能力」「新しいものを生み出す力」をコア能力化することに成功している。

非凡な現場を誇る「デンソー」は、工場長がリードする全員参加の日常的な改善活動を続けることで「よりよくする能力」をすでに確立しており、それを凌駕する「新しいものを生み出す力」を磨いている。そのキーワードは「1/N」。

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要約公開日 2015.01.30
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