多動脳
出版社
出版日
2025年04月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

近年、発達障害に関する認知度は確実に高まりつつある。学校や職場でも配慮が進み、診断を受ける人も増えている一方で、「発達障害は甘えではないのか」という誤解も根強い。こうした現状を踏まえ、『多動脳』は精神科医アンデシュ・ハンセンが、ADHDとは何かを改めて問い直す一冊である。

著者は、ADHDは確かに存在する「生まれつきの脳の傾向」であると明言する。同時に、過剰診断が疑われる状況に警鐘を鳴らし、まずはADHDの特性について正しく知ることの重要性を説く。精神医学の診断は本質的に〈問題〉に着目するものであるがゆえに、〈強み〉が見過ごされがちだ。この現状に対しても、鋭い指摘を加えている。

本書は、ADHDの背景にある脳の仕組みを丁寧に解説しつつ、その特性を歴史的な〈強み〉と捉え、個人の特性をどう活かすかという実践的な示唆を与えようとする。創造性や瞬発力、柔軟性といったADHDの側面は、現代社会でも活かしうる資質だということが、具体例と共に示される。

ADHDと診断された人は、全員が同じ傾向を持つわけでも、同じ対処法が有効なわけでもない。薬で集中力が改善する人もいれば、環境の整備や運動によって問題が軽減する人もいる。重要なのは、「ADHDがどんな〈強み〉になるか」を考えながら、自分に合った対応を見つけることだ。その際に、「他の人が持っていない工具箱を持っている」「あとはその使い方を知るだけ」と呼びかける著者の言葉は、力強い助けとなるだろう。

ライター画像
池田友美

著者

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)
1974年生まれ。精神科医。スウェーデン・ストックホルム出身。ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得後、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『ストレス脳』『運動脳』が世界的ベストセラーに。科学ナビゲーターとしても各メディアで活躍中。

本書の要点

  • 要点
    1
    程度の差はあるが、ADHDの傾向は誰にでもある。ADHDという診断がされるのは、その傾向が強く、深刻な問題が起きている人だ。
  • 要点
    2
    ADHDの特性は、歴史的に考えれば〈強み〉であった。だからこそADHDの傾向を持った祖先が生き残り、現代にもその傾向が引き継がれているのだ。
  • 要点
    3
    ADHDの特性は、現代でも〈強み〉になりうる。大切なのは「ADHDがどんな〈強み〉になるか」を考え、自分の環境を変えようとしていくことだ。

要約

ADHDって何?

誰もがADHDの傾向を持っている
Thx4Stock/gettyimages

発達障害の一種である注意欠如・多動症(ADHD)と診断される場合、基本的には集中力、多動、衝動という3つの分野で問題が起きている。ADHDによって、「集中力を保てない」「じっと座っていられない」「よく考えずに行動してしまう」といった問題が起こるのだ。

よく誤解されているが、どんな人にもADHDの傾向はある。人間は全員、ADHDのスペクトラム、つまりグラデーションのどこかにいて、それが濃いか薄いかで、ADHDと診断がつくかが決まる。だから、ADHDと診断されなくても、ADHDの特徴に心当たりがある人はたくさんいるし、「ちょっとADHD」という状態もありうる。診断が下りて治療対象となるのは、ADHDの傾向が強く、グラデーションの濃いところにいて、深刻な問題が起きている場合だ。

ADHDの診断は、本人の深刻な問題と結びついている。だからこそ、ADHDにポジティブな面があることには目が向けられにくい。しかし、ADHDの特性が問題ばかりというわけではない。

強みになるADHDの特徴としては、「率先力がある」「エネルギッシュ」「クリエイティブ」「フレキシブル」といったことが挙げられる。問題点にばかり目を向けていると、本人は自信をなくし、自分にはできないことばかりだと無力感を募らせることになりかねない。

本書は、ADHDのポジティブな面に注目し、〈強み〉を活かすことを提案したい。ADHDだということは他の人が持っていない独自の「工具箱」を持っているということだ。その工具の使い方を学びさえすれば、たくさんの可能性の扉が開くのを感じられるはずだ。

集中できないのはわけがある

医学的に考えると、人をやる気にさせるのは脳の奥深くにある「側坐核」、俗に「報酬系」と呼ばれる脳細胞の集まりだ。報酬系は神経科学の雑学ネタでもよく取り上げられ、自分の好きなことをすると、ぴかっと点灯するイメージが定着している。

報酬系は、常に「待機モード」になっていて、活動が低下すると、他に興味を引く刺激はないかと探し始める。取り組もうとしていることに「時間をかける価値があるか」を評価し、「価値がない」と判断すれば、別のものを探したい衝動が生まれる。

この報酬系が、生まれた時から少し違った働きをする人たちがいる。報酬系が鈍くて、普通なら活性化されるようなことにも反応しない人がいるのだ。そんな人たちにとって、世界はとても退屈だ。たいていの人にとって「ちょっと退屈だな」と思うことは「苦痛なほど退屈」になる。普通なら「面白いから続けたほうがいい」と報酬系が語りかけてくるような場面でも、「面白くない。他のことを探せ!」と命じられる。そのため、ひとつのことが続かず、あれもこれもと次々にいろんなものに手を出していく。絶え間なく刺激を探し回る人は、集中力に欠け、注意散漫で、衝動的で、多動にもなる。これがADHDだ。

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要約公開日 2025.05.23
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