発達障害の一種である注意欠如・多動症(ADHD)と診断される場合、基本的には集中力、多動、衝動という3つの分野で問題が起きている。ADHDによって、「集中力を保てない」「じっと座っていられない」「よく考えずに行動してしまう」といった問題が起こるのだ。
よく誤解されているが、どんな人にもADHDの傾向はある。人間は全員、ADHDのスペクトラム、つまりグラデーションのどこかにいて、それが濃いか薄いかで、ADHDと診断がつくかが決まる。だから、ADHDと診断されなくても、ADHDの特徴に心当たりがある人はたくさんいるし、「ちょっとADHD」という状態もありうる。診断が下りて治療対象となるのは、ADHDの傾向が強く、グラデーションの濃いところにいて、深刻な問題が起きている場合だ。
ADHDの診断は、本人の深刻な問題と結びついている。だからこそ、ADHDにポジティブな面があることには目が向けられにくい。しかし、ADHDの特性が問題ばかりというわけではない。
強みになるADHDの特徴としては、「率先力がある」「エネルギッシュ」「クリエイティブ」「フレキシブル」といったことが挙げられる。問題点にばかり目を向けていると、本人は自信をなくし、自分にはできないことばかりだと無力感を募らせることになりかねない。
本書は、ADHDのポジティブな面に注目し、〈強み〉を活かすことを提案したい。ADHDだということは他の人が持っていない独自の「工具箱」を持っているということだ。その工具の使い方を学びさえすれば、たくさんの可能性の扉が開くのを感じられるはずだ。
医学的に考えると、人をやる気にさせるのは脳の奥深くにある「側坐核」、俗に「報酬系」と呼ばれる脳細胞の集まりだ。報酬系は神経科学の雑学ネタでもよく取り上げられ、自分の好きなことをすると、ぴかっと点灯するイメージが定着している。
報酬系は、常に「待機モード」になっていて、活動が低下すると、他に興味を引く刺激はないかと探し始める。取り組もうとしていることに「時間をかける価値があるか」を評価し、「価値がない」と判断すれば、別のものを探したい衝動が生まれる。
この報酬系が、生まれた時から少し違った働きをする人たちがいる。報酬系が鈍くて、普通なら活性化されるようなことにも反応しない人がいるのだ。そんな人たちにとって、世界はとても退屈だ。たいていの人にとって「ちょっと退屈だな」と思うことは「苦痛なほど退屈」になる。普通なら「面白いから続けたほうがいい」と報酬系が語りかけてくるような場面でも、「面白くない。他のことを探せ!」と命じられる。そのため、ひとつのことが続かず、あれもこれもと次々にいろんなものに手を出していく。絶え間なく刺激を探し回る人は、集中力に欠け、注意散漫で、衝動的で、多動にもなる。これがADHDだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる