戦略的暇
戦略的暇
人生を変える「新しい休み方」
戦略的暇
出版社
出版日
2025年04月30日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

スマホやSNSなどへの依存によるデジタル疲れ、過剰な情報にさらされることによる脳の過労状態、いわゆる「脳腐れ」は、心身に悪影響を及ぼすという。そうしてくたびれた心身の休養に、またデジタルを使ってしまう。誰にも心当たりがありそうだ。

著者は、デジタルと共存するために「休息」を設けていく、デジタルデトックスの活動を通じて、「今の私たちに足りないのは、余白ではないか」と考えるようになった。「ケイパビリティ(能力)」ではなく「キャパシティ(許容量)」が不足しているのだ。デジタルデトックスは、余白という名の「暇」を生み出す行為といえる。それは、自分の人生や社会に「ポジティブな変革を起こす」エネルギー、きっかけになるという。これが、「人生に大きな発見と自由をもたらす『旅人の余暇』」と「社会に温かさと冷静さをもたらす『賢者の余暇』」の獲得につながる。

本書は、「戦略的に(=目的を持って)、暇(=目的を持たない時間)を作ろう」としている。そして、暇な時間における「休息」では、心身の活動を抑える「パッシブ・レスト」だけではなく、趣味やライフワークなどによる気分転換を含む「アクティブ・レスト」もバランスよく取り入れる必要がある。VUCAの時代に、社会を変えていくほどのエネルギーを蓄えるためにも、そうして良質な暇を目指していかなくてはならない。

すべての忙しい現代人に、戦略的暇という良薬は最初は苦く、しかし抜群の効果を誇るに違いない。

著者

森下彰大(もりした しょうだい)
一般社団法人日本デジタルデトックス協会理事/講談社「クーリエ・ジャポン」編集者/Voicyパーソナリティ
1992年、岐阜県養老町生まれ。中京大学国際英語学科を卒業。在学中にアメリカの大学に1年間留学し、マーケティングと心理学を専攻。学生時代は音楽活動にものめり込む。その後、日本語教育や貿易業に携わる傍らでメディア向けの記事執筆を副業で始める。その後独立し、2019年にライティング・エージェント「ANCHOR」を立ち上げ、記事制作業を本格化。現在は「クーリエ・ジャポン」の編集者として、ウェルビーイングや企業文化の醸成を中心にリサーチ・取材・執筆活動を行う。日本デジタルデトックス協会では企業・教育機関向けの講義やデジタルデトックス(DD)体験イベントを提供する。
米留学中にDDが今後の「新しい休み方」になると直感し、実践と研究を開始する。しかし社会人になり自身がデジタル疲れに悩まされるように。体調の悪化から危機感を持ち、会社員生活を続けながら小規模なDDイベントを始める。その過程で、「今の私たちに足りていないのは、余白(一時休止)ではないか」と考えるようになり、戦略的に余白―暇を作り出すための方法を模索。多忙な現代社会の中で人生を変えるための「戦略的“暇”」を提唱している。
2020年より日本初となるDDを専門的に学び実践する「デジタルデトックス・アドバイザー®養成講座」を開講。のべ100名以上の修了生を輩出している(2025年時点)。

本書の要点

  • 要点
    1
    私たちがデジタル技術と共にありつづけるためには、そのデメリットにも目配りしておく必要がある。
  • 要点
    2
    人間の注意力、集中力は「私たちの生活そのもの」である。しかし、テック企業はそれを「擬制商品」として売買している。
  • 要点
    3
    テクノロジーは「満ち足りた余暇社会」を目的として設計・導入されなくてはならない。そのファーストステップがデジタルデトックスだ。
  • 要点
    4
    余暇の時間に、生身の人間として非効率を謳歌できることは、人生を彩り、愛おしくする。

要約

デジタル社会は私たちをどう変えたのか

注意力散漫な現代人
MStudioImages/gettyimages

戦略的“暇”を行使していくためには、まず私たちが生きるデジタル社会がどのようなものかを知らなくてはならない。デジタル技術のもたらした恩恵は大きく、私たちがその技術と共にありつづけるためには、デメリットにも目配りしておく必要がある。

現代人は、スマホやPCの画面をのぞいているスクリーンタイムがどんどん長くなっている。若年層ではその時間がさらに伸びるはずだ。しかし、注視すべきは利用時間よりも「ながら」状態だという。断続的なデジタル機器の使用が、生活そのものをぶつ切りにしてしまう。アメリカのある調査では、スマホユーザーは平均5分に1回、スマホに触れていることが示された。そうすることで、複数のまったく関係のないタスクに集中が分散し、脳が過労状態となる。スマホが近くにあるだけで、私たちの注意資源は消耗させられるのだ。

スマホという外部記憶装置を使い、注意力散漫な状態になって、「いまここ」から意識が遊離した上の空の状態が続くと、自分のアイデンティティも変わってしまうかもしれない。短期記憶を長期記憶へと移行させるのも困難になり、「創造のための材料が足りない状態」に陥る。注意を傾けられないことによって、周囲から取り入れる外的情報や自らの五感を通して得る内的情報をつなぐことができなくなる。

特定のタスクや情報処理に集中するONの状態ではなく、何かに注意を払わずに済むOFFの状態にアイデアは降ってくる。その仕組みが「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」だ。これは安静時に発動する脳機能で、ぼんやりと思いに耽っている状態を指す。このとき、「記憶機能や自我機能に関する複数の部位が活性化して、相互に連絡を取り合っている」という。DMNのときには溜まった情報を脳が処理しており、その情報がぶつかりあってひらめきがやってくる。

身体への影響

Microsoft社の幹部だったリンダ・ストーンが行なった非公式の調査の結果、200人中の8割が、PCなどでメールをチェックしているときに呼吸が浅くなったり止まったりしていることがわかった。このことは、2023年の「ニューヨーク・タイムズ」に「スクリーン無呼吸」として紹介された。

人を含む動物は、何かの刺激に対して身構えるために呼吸のリズムを変える。獲物を捕らえたり脅威から逃げたりするときに、自らを守るために備わった機能だが、現代人は似たようなストレスにつねにさらされている。スマホを開けば、新しい、ランダムな情報がひっきりなしに入ってくる。その結果、脳はいつも興奮した極限状態に陥ってしまう。ストレートネックやスマホ腱鞘炎、手根管症候群などに見舞われながらも私たちがスマホの操作をやめられないのは、そうした興奮状態のせいなのだ。

スマホを延々と使い、デジタル機器に触れつづけている子どもたちは、1981年と比較して半分の時間しか外遊びしなくなっているというデータもある。運動は脳の血流量を増進し、海馬の増大にも一役買うという。身体を動かさなければ、前頭葉の働きが落ち、ストレスに耐えられなくなってスマホの誘惑に負けてしまう、という悪循環にはまってしまうのだ。

分断される「今」
Jatuporn Tansirimas/gettyimages

社会学者ハーバード・サイモンが提唱したアテンション・エコノミーは、「情報過多となった社会では注意資源が不足する」ことから、テック企業やメディアが「人の注意を集めるための戦略を追求するようになる」点を指摘したものだ。それはいま、過剰なまでに惹きつけるデザインとして実現している。その結果、「ユーザーのメンタルヘルスよりも滞在時間のほうが優先されてしまう」状況が生じているのだ。

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要約公開日 2025.07.02
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