リサーチ・クエスチョンとは何か?
リサーチ・クエスチョンとは何か?
リサーチ・クエスチョンとは何か?
出版社
出版日
2024年11月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

報告書を作るために調査をして、情報をまとめて、執筆するという作業は困難な過程を伴う。どのような方法で調査を行うか、期間をどのくらいかけるのかといった現実的な問題から、そもそも何のために調査をするのか、何をテーマとするのかという根本的な問題まで、考えなければならないことが山ほどあり、調査や執筆に慣れていなければ、どこから手を付ければよいのかと途方に暮れてしまうことだろう。

学術的な研究においては、調査研究から論文執筆までの過程の方法が確立されており、その方法に沿って作業を進めれば、しっかりとした論文を作成することができる。しかし、型に沿えば必ず「面白い論文」を作成できるわけではない。必要なのは、筋の良いリサーチ・クエスチョンを設定することだ。

本書は、一般的な型に沿った論文や報告書を作成する方法だけでなく、その価値を高めるための視点についても解説されている。特に重視されているのが、調査報告の過程で行われる、完成された論文には出てこない、隠れた試行錯誤だ。実際に調査や研究を進めていくと、途中で当初の見込みとは違う情報や課題が見つかることは多々ある。それによって、当初の問題意識が修正されて、さらに新たな課題が見えてくる。調査研究のこのような過程を活かすことで、調査内容が面白いものになっていく。本書で提示されているこのような方法は、学術研究だけでなく、様々な業種で必要とされるリサーチにも大いに活かされるだろう。

ライター画像
大賀祐樹

著者

佐藤郁哉(さとう いくや)
1955年、宮城県生まれ。77年、東京大学文学部卒業。84年、東北大学大学院博士課程中退。86年、シカゴ大学大学院修了(Ph.D.)。一橋大学大学院商学研究科教授、プリンストン大学客員研究員、オックスフォード大学客員研究員、同志社大学教授などを経て現在、一橋大学名誉教授。専門は経営組織論・社会調査方法論。主な著作に、『暴走族のエスノグラフィー』(新曜社、国際交通安全学会賞)、『現代演劇のフィールドワーク』(東京大学出版会、日経・経済図書文化賞)、『社会調査の考え方[上][下]』(東京大学出版会)、『大学改革の迷走』(ちくま新書)、『はじめての経営学 ビジネス・リサーチ』(東洋経済新報社)、訳書に『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方(第2版)』(白桃書房)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    報告書や論文を作成する際、型通りに完成させようとするだけでなく、調査・研究の途中における問いの試行錯誤の経緯を大切にすることで、筋の良いリサーチ・クエスチョンを立てられるようになる。
  • 要点
    2
    リサーチ・クエスチョンは、「5W1H」ではなく、Whatの問い(どうなっているのか?)とWhyの問い(なぜ、そうなっているのか?)に、How toの問い(どうすれば良いか?)を加えた「2W1H」の間を何度も往復することで洗練されていく。
  • 要点
    3
    筋の良いリサーチ・クエスチョンは、意義、実証可能性、実行可能性の3つの条件を全て満たすものである。

要約

リサーチ・クエスチョンとはどのようなものか

論文はペテンである
PixelsEffect/gettyimages

「科学論文は一種のペテンである」という言葉がある。これはノーベル生理学・医学賞を受賞したピーター・メダワーという生物学者の弁であるが、確かに典型的な論文の構成には、実際の研究の手順と経緯に関して大きな誤解を招きかねないような特徴がある。特に、リサーチ・クエスチョンに関する誤解は深刻だ。

実証的手法による研究論文は、「序論・方法・結果・考察(IMRAD)」という形式をとる場合が多い。しかし、このように直線的なプロセスへと整理された表面上の「型」だけに囚われると、試行錯誤と紆余曲折を経て行われる実際の調査のプロセスとの間に大きなギャップが生じてしまう。発表された論文では、調査で得られた最終的な結論だけを効率的に報告するために、調査中の経緯は省略される。実際の調査プロセスと異なるという意味では、論文はフィクションでありペテンであるとも言える。

論文を書けるようになるために、初学者は研究を論文の型に沿った形でまとめる「上手なウソのつきかた」を身につける必要がある。しかしそれだけでは、論文を効率的に量産できるようになるかもしれないが、面白い研究を期待しづらくなる。革新的な研究とは、枠からはみ出た斬新なアイデアや、「セレンディピティ」と呼ばれる予想外の発見から生まれてくることが多いからだ。基本的な型に沿った論文を書くときにも、試行錯誤と右往左往のプロセスを活かし、セレンディピティを追求できる余地を残すことで、「筋の良い」リサーチ・クエスチョンを作り、育てられるようになるだろう。

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要約公開日 2025.07.20
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