仕事帰り、夕暮れのターミナル駅。家路を急いでいたタクトの視界に、見覚えのある横顔が飛び込んできた。
「久しぶり!」と声をかけると、パリッとしたスーツを着こなした相手が振り向いた。大学時代の同級生、ショータである。
ショータは金融機関を経て、昨年外資系コンサルティング企業へと転職したという。厳しい環境に自らを投じ、人の倍の速度で成長したい――それが彼の選んだ道だった。その声には、確かな自信と充実感がにじんでいた。
タクトは、システムエンジニアとしての近況を伝え、ショータと別れた。
電車に揺られながら、SNSを開こうとした指がふと止まる。
「僕はこのままでいいのだろうか?」
「いまいる場所が、本当に自分のいるべき場所なのだろうか?」
アメリカの神話学者ジョセフ・キャンベルは、世界中の神話を研究する中で、英雄の物語には共通のパターンがあることを発見した。その型は「ヒーローズ・ジャーニー」と呼ばれている。
ヒーローズ・ジャーニーは、以下の8つの要素から成る。
(1)天命:主人公は、平凡な日常の中で突如として「天命」を受け取る。
(2)旅の始まり:その運命を受け入れ、未知の世界へと旅立つ。
(3)境界線:日常と非日常の境界を越え、新たな世界に足を踏み入れる。
(4)メンター:知恵や力を授ける賢者や守護者との出会いが、主人公を導く。
(5)悪魔:化け物や悪魔との対決を通じて、試練を乗り越える。
(6)変容:苦難の中で内面に変化が訪れ、主人公は成長する。
(7)任務完了:最終的に困難を克服し、使命を果たす。
(8)故郷へ帰る:成長した姿で故郷に戻り、新たな日常を迎える。
君の人生を、このヒーローズ・ジャーニーとして再構成してみよう。
主人公である君は、ある日「天命」を受け取って、新たな挑戦の世界に足を踏み入れる。そこで知恵を授けてくれる「メンター」と出会い、成長を促す「悪魔」との対決を経て、少しずつ変化していく。そしてついに使命を果たし、日常へと帰還する――。
重要なのは、自分の人生を一つのストーリーとして捉え、その中心に立つ「主人公」としての覚悟を持つことだ。これが「ぬるま湯」から抜け出すための最初の一歩となる。
3,400冊以上の要約が楽しめる