論破という病
論破という病
「分断の時代」の日本人の使命
NEW
論破という病
出版社
中央公論新社

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出版日
2025年02月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「正義の反対は何だと思う?」。以前こう尋ねられたときに頭に浮かんだのは「正義」だった。自分の立場を正しいと考え、対立する側にいかに自分たちの主張を受け入れるよう説得するか。こうした対立の構図がさまざまなシーンで見受けられている。これでは対立は解消できず、新たな境地を開くことは難しいだろう。

日本中に吹き荒れる「論破という病」を乗り越えるためには、我々善人たちの敵を倒せばいいという「20世紀型の妄想」から目を覚ます必要がある、というのが著者の主張だ。

著者の倉本圭造氏は20年以上、日本社会の対立する色々な立場の間をつなぎながら、前向きな変化を起こしてきた。「経営コンサルタント」としての経験から現場レベルの現実を冷静にひもときつつ、同時に「思想家」の広い視野で捉え返すことで活路を見出そうとする。大切なのは、相手が持つ正義も自分が持つ正義も両方尊重する世界観、「メタ正義感覚」だという。

「分断された2つの世界」を結びつけて新しい希望を生み出すにはどうすればいいか? 具体的な問題解決へと協力し合うための道筋が、数々のケーススタディを通じて描かれている。実験と模索を続けてきた著者ならではの世界のレンズは、現実的でそれでいて優しい。相手の存在意義に真摯に向き合うことの大切さを教えてくれる一冊だ。果たして日本は「論破という病」を克服できるのだろうか。

ライター画像
松尾美里

著者

倉本圭造(くらもと けいぞう)
1978年生まれ。京都大学経済学部卒業。マッキンゼー入社後、「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面し、両者を相乗効果的関係に持ち込む新しい視座の必要性を痛感。その探求のため肉体労働現場やホストクラブにまで潜入して働く「社会の上から下まで全部見る」フィールドワークののち船井総研を経て独立。中小企業のコンサルティングで『10年で150万円平均給与を上げる』などの成果を出す一方、老若男女の多様な生き方の個人に対して文通を通じた「人生について一緒に考える」仕事も。『日本人のための議論と対話の教科書』『みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?』など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    今の日本に必要なのは、「メタ正義的な議論のコーディネーター」である。立場の異なる者同士が協力して社会の現場に根差した問題解決を目指すことが求められる。
  • 要点
    2
    合理性重視の「水の世界」と、人のつながりを重んじる「油の世界」の対立を乗り越えるには、「エマルション(乳化)」の発想が重要となる。
  • 要点
    3
    日本社会に変化を求める際は、油の価値を壊さず、水と油のwin-winを目指すことで、水側の改革も進めやすくなる。

要約

メタ正義感覚

「論破という病」を乗り越えるために

著者は「ローカル」な世界から、「グローバル的に最先端」な事例まで両方に接してきた。今の日本では、議論がすれ違っているだけのコミュニケーション不全が大量に放置され、互いを無意味に罵り合っているかのようだ。大事なのは、立場を超えていかに協力し合うか。著者はこれを「メタ正義感覚」と呼ぶ。

対立する立場の間をつないで成果を出してきた経営コンサルタントの視点と、様々な個人との文通を通じ、社会全体を複眼的に見てビジョンを作ってきた思想家の視点。両方を駆使しながら、敵に見えている相手とどう協力し合えるかを解き明かすのが、本書の狙いだ。

そのためには、思想と社会の現場感の両者を往復し合い、新しい活路を見出すことが欠かせない。今の日本に吹き荒れる「論破という病」を克服する試みを始めよう。

政敵ではなく、問題と向き合う
Vitezslav Vylicil/gettyimages

今のネット論壇は「論破という病」にかかっている。インスタントに敵を攻撃して、何か意味のあることを言ったかのように勝ち誇る。これを「平成の議論」と呼ぼう。

一方、旧来メディアが盤石な地盤を持ち、知的な権威とされる論客たちが知識を披露していた時代を、「昭和の議論」と呼ぶことができる。冷静に考えると、平成時代の議論と同じくらい、昭和時代の議論でも人の話を聞いておらず、何も検証されない世界が広がっていたといえる。

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要約公開日 2025.08.10
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