となりの陰謀論
となりの陰謀論
となりの陰謀論
出版社
出版日
2025年06月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

地球は平面であり、海の向こうに世界の果てがあるとする「地球平面説」を信じる人のことを、馬鹿げていると考える。その一方で、ケネディ暗殺犯のオズワルドが逮捕2日後に殺された裏に、ある組織が関係していることは、「事実」として受け入れる。

陰謀論とは、「世の中で起きている問題の原因について、不確かな根拠をもとに誰かの陰謀のせいであると決めつける考え方」を指す。その意味では、政治家の不祥事を見て、「政治家なんてみんな悪党だ」と考えることも、陰謀論的思考といえる。それが「善良な市民であろうとする規範意識」と結びつくなら、「公共の秩序を底支えする積極的な役割」を担えるかもしれない。

しかし、インターネット空間があまりに多量の陰謀論を溜めこみ、そこに誰もがアクセスできる現代、その内容は無視できないレベルの過激さをたたえている。「陰謀論が現実を凌駕するようなケースさえ生まれている」という。どれだけ事実の積み上げで否定されようと、「郵便投票に不正があったからトランプは2020年の大統領選で敗北した」「ユダヤ人が国際政治を牛耳っている」と信じる人はいなくならない。

わたしたちの多くはすでに、「陰謀論から影響を受けているという事実」に目を向け、「陰謀論と正しく向き合う方法を考えるため」に書かれたのが本書である。良かれ悪しかれ、あなたは陰謀論的思考と無縁ではない。その前提に立ちつづけていなければ、知らぬ間に際どい陰謀論へとはまりこんでしまうこともあるのだ。大切な人を守るためにも、ご一読いただきたい。

著者

烏谷昌幸(からすだに まさゆき)
1974年、慶應義塾大学法学部政治学科教授。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(法学)。主な著書に『シンボル化の政治学――政治コミュニケーション研究の構成主義的展開』(新曜社、2022年)、『ソーシャルメディア時代の「大衆社会」論――「マス」概念の再検討』(共著、ミネルヴァ書房、2024年)、訳書に『陰謀論はなぜ生まれるのか――Qアノンとソーシャルメディア』(共訳、慶應義塾大学出版会、2024年)。

本書の要点

  • 要点
    1
    単なる「偶然の一致」にしかすぎないものに、人間の脳は「過剰な意味を読み込んでしまう」。そこに陰謀論が生まれる。
  • 要点
    2
    陰謀論は、「出来事の原因を誰かの陰謀であると不確かな根拠をもとに決めつける考え方」と定義される。この意味では、誰にも陰謀論の萌芽はある。
  • 要点
    3
    「世界をシンプルに解釈したいという欲望」と「何か大事なものを『奪われる』感覚」が陰謀論を誘発する。
  • 要点
    4
    陰謀論の日常化は現実社会にパラレルワールドを出現させ、「現実に起きている基本的な事実を共有すること」も難しくなる。

要約

【必読ポイント!】 陰謀論とは何か

陰謀論はなぜ生まれるのか
fcscafeine/gettyimages

大きな地震の直前に珍しい形状の雲が現れたら、それを「地震雲」だと思いこむ。気象学の専門家が「地震とは関係ない」と折に触れて指摘しても、大地震のたびに話題にのぼる。単なる「偶然の一致」にしかすぎないものに、人間の脳は「過剰な意味を読み込んでしまう」のだ。

しかも、そうして際立った出来事が連続して起こると、それらを物語でつないでしまう。滅多に夢を見ない人が祖母の夢を見た直後、当の祖母が亡くなったという報せが入ったら、あれは夢枕に立ったのだという物語を描きたくなるのが人情だろう。

このような「『偶然の一致』とは思いたくない人間の心理から陰謀論が生まれてくる」のである。ここで陰謀論は、「出来事の原因を誰かの陰謀であると不確かな根拠をもとに決めつける考え方」と定義される。この意味では、誰にも陰謀論の萌芽はあるし、心当たりのある人も少なくないはずだ。陰謀論は、過激な少数派のものだけではない。ケネディ暗殺陰謀論のように、誰もがいつでも信じかねない「多数派の陰謀論」もあるのだ。

こうした陰謀論はなぜ生まれるのかについて、本書では2つの仮説を検討する。

1つは、「世界をシンプルに解釈したいという欲望を人間が持っている」ということだ。私たちが生きる現実は複雑で不確実なものであり、自分たちの存在そのものの根拠すら曖昧である。一般的な人間の精神は、そのありのままの現実に耐えられるようにはできていない。だから、「意味」や「物語」を求めてしまう。したがって、現代社会の諸問題は、善人たちの行動がもたらす「意図せざる結果」とは考えられず、背後に「諸悪の根源」がいると思いたがるのだ。

もう1つの仮説は、「何か大事なものを『奪われる』感覚が陰謀論を誘発する」ことである。大事なものや、何をもって「奪われた」と感じるかは人によって異なる。しかし、テロや自然災害、産業事故、戦争のように多くの人命が不条理に失われる出来事が起きると、ほぼ確実に陰謀論が生まれる。また、宗教、人種、階級などの深刻な分断によって、みずからの大事な何かが敵対勢力に「奪われる」脅威があるときも、陰謀論は生じやすい。

陰謀論の多様性

ニセ科学や虚偽を暴くデバンカーであり、科学ジャーナリストのミック・ウェストは、「陰謀論のスペクトラム」という考え方を提示した。これは、ある陰謀論についてどの部分に同意しているかが、人によってまったく異なっていることを示すものだ。たとえば9.11の場合、「事前にアメリカ政府がテロの関連情報を知っていたのに有効な手を打たなかった」という部分だけを信じている人から、「衝突した飛行機が実はホログラムで映し出された映像」などと考える人まで、大きな差がある。

このスペクトラムのなかで、「常識的な考え方と非常識な考え方とを分け隔てる境界線をどこに引くのが適切か」についての判断が肝要なのだ。この境界は、時代や状況の変化にあわせて変わっていくが、いずれにせよ境界線の向こう側は「筋金入りの陰謀論者」、トンデモな人とされるわけである。

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要約公開日 2025.08.02
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