学歴社会は誰のため
学歴社会は誰のため
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学歴社会は誰のため
ジャンル
出版社
出版日
2025年03月28日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

学歴ほど人を惹きつける話題はない。今も昔も、学歴は話題のネタであり、論争の火種にもなってきた。「あそこの大学を出ている人は云々」「学歴とは頑張った証だから」「学歴など本来は意味のない指標だ」といった言説は、だれしもどこかで耳にしたことがあるのではないだろうか。SNSが浸透した現在では、学歴は高いインプレッションを稼ぐ話題でもあり続けている。なぜ学歴はここまで人を惹きつけるのか。もっといえば、これほど数多くの論争を経て、何が改善したのか。そもそも、何か明確なゴールを見通したうえでの議論だったのだろうか。

本書はこうした学歴論争を解きほぐしたうえで、新しい道を示そうとする。なぜ、日本でこれほど学歴が有効な指標になっているのか、それに一体どういったメリットがあったのか、既存の学歴論争を否定するのではなく、その歴史性を踏まえて丹念な考察を加えているのが特徴だ。

少子高齢化で人材が限られたこれからの時代において、従来のような学歴中心の人材雇用で仕事が回るとは思い難い。しかし、学歴で評価されることにも評価することにも疑問を覚えてはいても、実際のところ学歴なしにどう人を評価すればいいのかわからないという人も多いはずだ。そんな人にこそ、ぜひ本書を読んでほしい。最後のページを読み終わるころには、学歴について新しい視点を持っていることだろう。

著者

勅使川原真衣(てしがわら まい)
組織開発専門家。1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て2017年、組織開発を専門とする「おのみず株式会社」を設立。企業をはじめ病院、学校などの組織開発を支援。二児の母。2020年から乳がん闘病中。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、紀伊國屋じんぶん大賞2024・8位)、『働くということ』(集英社新書、新書大賞2025・5位)、『格差の“格”ってなんですか?』(朝日新聞出版)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    学歴主義とは、学歴が人の価値を測定する基準となる考え方のことである。身分制度から近代に移る過程で、限られた資源の分配は身分ではなく「能力」によって決定づけられるようになった。
  • 要点
    2
    優れた「能力」に対しては多くが分配される。その「能力」の良し悪しを決める客観的な基準として、「学歴」という指標が重視されるようになってきた。
  • 要点
    3
    高度経済成長期では学歴によるメンバーシップ型雇用が採用された。しかし、少子高齢化というまったく異なる社会背景となった現在においてもそれが有効かには疑問が残る。

要約

学歴論争とは何だったのか

こうして「能力」が指標になった

「学歴」とは学校の経歴を示す言葉であり、それ以上でも以下でもない。しかし、そこに「主義」という言葉をつけて「学歴主義」とすると、言葉の印象はガラリと変わる。学歴主義とは学歴が「人の価値」の基準とされる価値観だ。そしてこの主義に社会が合意した状態が「学歴社会」といえるだろう。

「人の価値を評価する」。ではそもそもなぜ「人の価値」を「評価」しなくてはならないのだろうか。その点を、能力主義の基本概念に注目しながらもう少し掘り下げてみよう。

お金、土地、食料。こうしたリソースは有限なので、分け合って生きなければならない。問題はそれをどのように配分するかだ。身分制度の時代は権力者に多く献上しようというのがまかり通っていた。しかし、社会が進歩してくると、「生まれ」で持つものと持たざる者が決まってしまうのは不平等なのでは、という疑問が湧いてくる。

近代に入ると身分制度は廃止され、資源をどう配分すれば不満が出ないかという課題が出てきた。この流れを受けて、努力を含む出来(=能力)によって分け合い、多寡を決めようとする能力主義が誕生したのである。「能力」の高い人こそが、「価値」の高い人であり、そうした人が多くをもらうべきである――というロジックは今や我々の社会システムの中心的な運用基準となっている。

学校と能力主義
Yuto photographer/gettyimages

ここで一つの疑問が生じる。能力の多寡は、いったい誰がどのようにして計測するのだろうか。「能力」「コミュ力」「リーダーシップ」「主体性」等々、能力に関連する言葉は数多くあれ、その実態は目には見えないし、そもそも同じイメージを共有できているのかもわからない。能力なるものを測定し、個人の有能さを客観的に証明するというのは、最初からSFのような物語なのである。しかし、多くを得るべき人とそうでない人を決めなければ分配は立ち行かない。では現代社会は何を測ったことにして成り立っているのだろうか。

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要約公開日 2025.08.15
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