すばらしいクラシック音楽
涙がでるほど心が震える
すばらしいクラシック音楽
NEW
すばらしいクラシック音楽
出版社
出版日
2025年07月18日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「この曲を聴いた感想を書きましょう」

音楽の鑑賞の授業でこんな指示が出されたとき、たいていの人は「答えになりそうな感想」を予想して書いていたはずだ。特にクラシック音楽では「定番の感想」が決まっている。だから、本当に感じたことを語り合うよりも、自分の感想が「正解」に近いかのほうが気になってしまう。

本当の感想はなんとなく口に出しづらいような空気があるなかで、本書『すばらしいクラシック音楽』は、ドイツで声楽家として活躍する著者が、曲を聴いて感じたことを積極的に言葉にしている。これは、存外勇気のいることだ。それでもなお著者が自分の感じたことを言葉にするのは、音楽が心のコミュニケーションであるという考えがあるからだ。音楽が感情の表現なのであれば、受け手にも感情の変化が起こることは必然だ。そしてそれは、自分が感じたことを大切にしてこそ、ようやく完成するものであるともいえる。

本書はクラシック初心者の入門書にもなれるよう、作曲家の生涯や作品の背景にも触れられているが、それ以上に、著者がその作曲家に抱いている印象や、曲の雰囲気についても丁寧な描写がされている。バッハの音楽は「心の声」、シューベルトは「天国的な美しさ」などと言われると、ついつい紹介された曲を聴いてみたくなってしまう。何百年も前に書かれた音楽が、著者の心を揺さぶり、人生までもを導いている様子を見ていると、同じ音楽を聴いたら自分にはどんな感想が浮かぶだろうかと心の声に耳を傾けたくなってくるはずだ。読む前と後では、曲の聴き方が大きく変わってしまうに違いない。

ライター画像
池田友美

著者

車田和寿(くるまだ かずひさ)
声楽家。福島県出身。福島県立安積高等学校卒業。国立音楽大学声楽科卒業。東京都立高等学校音楽科教諭として4年間勤務した後、渡独。ブレーメン芸術大学声楽科を最優秀の成績で卒業。在学中にキール歌劇場においてオペラ歌手デビューを果たし、以後ハンブルク州立劇場、ヒルデスハイム歌劇場、レーゲンスブルク歌劇場、ザクセン州立歌劇場(ドレスデン)、ザクセン国立劇場(ラーデボイル)など、ドイツ国内外の歌劇場において数多くのオペラにソリストとして出演する。2015年にはオリバー・コルテ作曲「コペルニクス」の世界初演において主役のコペルニクス役を務めた。
また演奏活動の傍らヨーロッパの伝統的な歌唱法とその指導法を長年に渡り研究。近年は車田和寿オペラ声楽アカデミーを主宰し、国内外で後進の指導にあたる。
2021年からはクラシック音楽や声楽について解説するYouTubeチャンネル「車田和寿‐音楽に寄せて」、「車田和寿——歌の翼に」を開設。チャンネル登録者数は合計で14万人を超えており(2025年1月)、幅広い層に音楽の魅力を伝える役割を果たしている。

本書の要点

  • 要点
    1
    両親、妻、子どもたちと、バッハは幼少期から多くの身近な人を亡くしている。多くの宗教音楽を作ったバッハが悲しみや救い、癒しや祈りをテーマにしたのは、神に救いを求めていたからなのかもしれない。
  • 要点
    2
    シューベルトの音楽は、聴き手を気づかないうちに別世界へ連れて行ってしまう、天国的な美しさがある。
  • 要点
    3
    集中力を極限まで高め、徹底した完璧主義から生み出されたラヴェルの音楽は、色彩豊かな響きで聴き手を異世界へと導いてくれる。

要約

【必読ポイント!】 心の声を表現した、「音楽の父」バッハ

小さなオルガンに導かれ

著者は大学4年生のとき、ドイツ東部のザクセン州にあるラインハルツグリンマという村を訪ねたことがある。バッハが生きていた時代のオルガン製作者ゴットフリート・ジルバーマンの作ったパイプオルガンを一目見たかったのだ。

交通の弁が悪い小さな町の教会にたどり着くと、鍵がかかっていて自由には入れないようになっていた。牧師の家を教えてもらい、この教会のオルガンを見るためにはるばる日本からやってきたことを伝えると、教会の鍵を貸してもらうことができた。

ジルバーマンのオルガンは小さいけれど美しく、教会の中で、圧倒的存在感を放っていた。こんな小さなドイツの村まで著者を導いたのは、バッハの存在だった。バッハの足跡を自分の目で見てみたいという気持ちに導かれ、のちにはドイツ留学をするまでになる。それから今も音楽をやっているのは、バッハをはじめとした多くの作曲家に導かれたからに他ならない。

バッハの生涯
Marcus Friedrich/gettyimages

1685年、ドイツ中部、アイゼナハで音楽一家に生まれたヨハン・セバスチャン・バッハは、音楽と同時に神学の教育を受けて育った。アイゼナハは宗教家ルターが青年時代を過ごした街でもあり、バッハと宗教との結びつきは強かったといえる。

幼い頃に両親を亡くしたバッハは兄に育てられ、22歳でマリア・バルバラと結婚し、7人の子供をもうけた。しかし、30代でマリア・バルバラは亡くなってしまう。2番目の妻となるアンナ・マグダレーナとは13人の子どもをもうけたが、合わせて20人生まれた子どものうち、10人を亡くしている。身近な人の死を多く経験したバッハは、悲しみのなかで神に救いを求めたのかもしれない。バッハは多くの宗教音楽を作り、悲しみや救い、癒しや祈りが音楽の大きなテーマだった。

「音楽の父」と呼ばれるバッハの音楽を聴くときには「バッハにとって神とはどのような存在だったのか」を無視することはできない。様々な宗教的な題材が取り上げられているが、そこで描かれているのはバッハが題材に触れて動いた「心」だ。バッハの音楽からは人の「心の声」が聞こえてくる。

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要約公開日 2025.10.05
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