実はおもしろい古典のはなし
「古典の授業?寝てたよ!」というあなたに読んでほしい
実はおもしろい古典のはなし
NEW
実はおもしろい古典のはなし
出版社
出版日
2025年04月05日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「古典」といえば、学校の授業。学生時代は、結局何が面白いのかわからないまま終わってしまった——。そんな人におすすめしたいのが、本書『実はおもしろい古典のはなし』だ。

本書は、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で話題の書評家の三宅香帆氏と、『ニセコ化するニッポン』など、都市やチェーンストア論で注目を集める谷頭和希氏が2人で行っていた中高生向け古典教養バラエティー番組「放課後の古典ラジオ」を書籍化したものだ。生粋の「古典オタク」である三宅氏と高校で古文を教えていた経験のある谷頭氏の「おしゃべり」には、古典文学の知識がふんだんに散りばめられているのに、堅苦しさはまったく感じられない。2人のやりとりがとにかく楽しそうで、自分も古典を愛するものの語らいに参加している気分で、どんどん読み進められてしまう。

とりあげられるのは、『万葉集』『古今和歌集』『源氏物語』『枕草子』『方丈記』など、誰でも聞いたことがあり、教科書で見たことがある作品ばかりだ。「古典」という現代とは切り離されたこれらの作品を、2人はグッと現代の視点に引き寄せ、私たちにも共感しやすいかたちで見せてくれる。古典入門書でありながら、すでに古典に親しんでいる人にも、新鮮な発見があることだろう。古典の楽しみ方はこんなにも自由でいい。そんな古典を楽しむ姿勢そのものを教えてくれる本書を読み終わったら、自分なりの古典の楽しみ方を見つけてみたいという気持ちになれるはずだ。

ライター画像
池田友美

著者

三宅香帆(みやけ かほ)
文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。1994年高知県生まれ。京都大学人間・環境学研究科博士後期課程中途退学。リクルート社を経て独立。
小説や古典文学やエンタメなど幅広い分野で、批評や解説を手がける。著書『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『女の子の謎を解く』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』等多数。

谷頭和希(たにがしら かずき)
都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。著作に『ニセコ化するニッポン』(KADOKAWA)、『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)など。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』「めさまし8」など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    恋愛物語がたくさん詰まったアンソロジーとしての性格を持ち、物語の合間に和歌で自分の心情を綴る形式をとった『伊勢物語』には、現代の少女漫画の原型が詰まっている。
  • 要点
    2
    『枕草子』は、清少納言がお仕えする定子の素晴らしさと、自分たちの絆を描いた、「推し」語り作品として読むことができる。
  • 要点
    3
    和歌=SNSと捉えてみると、もっと軽いノリで和歌を楽しむことができるようになる。

要約

江戸文芸のはなし

江戸文化のプロデューサー 蔦屋重三郎
ferrantraite/gettyimages

2025年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では、江戸時代後期の出版業者である蔦屋重三郎の人生が描かれる。学校の授業ではあまり扱われない江戸文芸のとっかかりにぴったりなのが、蔦屋重三郎だと谷頭氏は言う。

蔦屋重三郎は今でいうプロデューサーだ。浮世絵や読本、狂歌といったジャンルの「キーパーソン」を押さえ、クオリティの高い売れる作品をどんどん作っていった。「この人が言うんだったら」と言うポジションの人を見つけ、その人と関係を築き、自分の活動を広げていった蔦屋の戦略は、現代にも通ずるものだ。

勢力を拡大したあと、蔦屋は自分の版元で若い人を発掘し、江戸時代の大ベストセラー作家たちを育てていく。時代の文化シーンを作っていった蔦屋は、「プロデューサー」と呼ぶにふさわしい人物だ。

三宅氏は、蔦屋のビジネスは現代のDMM的ではないかと指摘する。出版業は最初の資金を生み出せない時期がある。そこで蔦屋は春画や歌舞伎スターのブロマイドを売り出すことで、出版部門の初期資金を生み出し、ベストセラーを産んでいる。現代の出版社が新たな文化シーンを作るための資金を、アイドルの写真集を売ることで作っているのと似た構図だ。蔦屋はプロデューサーであり、経営者でもあったのだ。

谷頭氏も三宅氏の指摘に同意しながら、文化にかけるコストを賄うために別の商売で売上を確保する、こうしたやりくりに江戸文化の豊かさを感じると付け加えた。

コンプライアンス的にアウト!? 『東海道中膝栗毛』

谷頭氏が江戸文芸としておすすめするのは十返舎一九の『東海道中膝栗毛』だ。当時の文学には、江戸時代の一般大衆である「町人」が登場する「町人文学」というジャンルがあった。その代表的な作品が『東海道中膝栗毛』だ。

主人公の「弥次さん」と「喜多さん」は、江戸から伊勢神宮までの「お伊勢参り」の旅をする。東海道の各宿場町を舞台に、一つずつのエピソードが連なっていく、アンソロジー的な性格を持っている作品だ。

内容としてはこの場にはかけないような下世話なネタやコンプライアンス的に完全アウトな話が多いと谷頭氏と三宅氏は口をそろえる。谷頭氏がこうした古典文学で重要だと考えるのは、今ではコンプライアンス的に制限を受けるであろう表現を読み、「人間の生々しさ」について話せる空間が生まれることだ。古典文学は、現代とは異なる言葉で書かれているからこそ、ある程度の距離を持つことができる。そうしたもので、「生々しさ」に触れることは、文学を読む際に欠かせないものでもある。

【必読ポイント!】 物語のはなし

少女漫画の原型がここに 『伊勢物語』

平安の文学で三宅氏がおすすめしたいのは『伊勢物語』だ。俵万智さんの『恋する伊勢物語』(筑摩書房)をきっかけに『伊勢物語』に触れ、『伊勢物語』の原文・現代語訳も読んで、作品自体も好きになった。三宅氏いわく、ここには少女漫画の原型が全部詰まっている。

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要約公開日 2025.09.04
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