町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
知られざる戦後書店抗争史
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町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
出版社
出版日
2025年04月15日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

町から本屋が次々と姿を消していくのはなぜか──。本好きなら誰しも抱いたことのあるこの疑問に、『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』は徹底的に答えてくれる。

そもそも本屋は姿を「消して」きたわけではない。一店一店が、苦悩の末に力尽き、閉店へと追い込まれてきたのだ。著者が「つぶれる」という強い言葉をあえてタイトルに選んだのは、その重みを伝えるためだ。

本書は単なるノスタルジーではなく、書店の「戦後史」を緻密に描き出している。私たちが当たり前に受け入れている「本を定価で買う」仕組みは、出版社・取次・書店の三者による再販契約に基づくものだ。実はこの制度が、書店の経営を圧迫している一因だ。さらに返品条件付販売、雑誌優位の流通構造、見計らい配本といった業界独特の仕組みが、町の本屋を苦しめていった経緯も詳細に解説される。

書店が団結して交渉してきた「闘争の歴史」も見どころだ。取次への条件改善要求、公取委との攻防、大型書店や異業種参入との摩擦──本屋がただ淘汰されていったのではなく、「生き残ろうと戦ってきた」ことが本書を通して実感できる。そこに最後に立ちはだかるAmazonが、物流と効率化を武器に上陸後数年で覇者となる。この経緯はまるで経済ドラマのようだ。

本書を読むと、町の本屋がつぶれてきたのは、単なる時代の流れではなく、制度と流通の構造に深く根ざしていたことがわかる。出版や本屋に関心がある人はもちろん、ビジネスや流通に興味がある人にとっても刺激的な知識が得られる一冊である。

ライター画像
池田友美

著者

飯田一史(いいだ いちし)
1982年青森県生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材、調査、執筆。JPIC読書アドバイザー養成講座講師、電子出版制作・流通協議会「電流協アワード」選考委員。著書に『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩書房)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』『ウェブ小説30年史』(以上、星海社新書)、『「若者の読書離れ」というウソ』(本凡社新書)、『電子書籍ビジネス調査報告書2024』(共著、インプレス総合研究所)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本の出版流通独特の、再販契約(いわゆる著作物再販制)や返品条件付き販売、見計らい配本といった仕組みが、町の本屋の経営を長期的に圧迫してきた。
  • 要点
    2
    書店団体は運賃負担撤廃やマージン改善を求めて取次や出版社と交渉してきたが、公正取引委員会の介入により団結が弱まり、交渉力を失っていった。
  • 要点
    3
    大型書店の進出とAmazonの効率的な物流システムによって、中小書店は急速に淘汰されていった。

要約

町の本屋はどのようにして競争に破れてきたのか

中小書店は1960年代から赤字だった
JGalione/gettyimages

かつて「ふらっと立ち寄る」「雑誌の発売日に必ず行く」場所だった本屋は、いまでは「本好きが、わざわざ行く」場所になっている。新品の書籍・雑誌を扱う、地元資本の「町の本屋」の商売はどのように成立し、どのような背景から競争に敗れ、つぶれてきたのだろうか。

日本の紙の出版市場は1990年代半ばをピークに減少傾向がつづいている。マンガ喫茶や新古書店、図書館の増加、ネットやスマホの普及など、さまざまなものがその「犯人探し」の標的になってきた。しかし、出版市場が最盛期に向かおうとする1980年代後半からすでに、町の本屋は年間千店舗単位でつぶれはじめている。

じつは、1960年代後半の調査で、平均的な中小書店はすでに赤字だった。小売業ワーストクラスの利益率の、本の値段が安く、経営が成り立っていなかったのだ。また、ネットやスマホの登場以後も、米濠仏伊独などの国では紙の本の市場はくずれていない。なぜ日本ではそうならなかったのだろうか。

その一因に、出版-取次-書店の「垂直的な取引関係」がある。取次と出版社によって書店業のマージンやキャッシュフローは決められてしまうが、それは町の本屋にとっては厳しい条件だ。そのため、経営を成り立たせるためには、書籍や雑誌以外の「兼業商品」を扱ったり、書店側から客先へ出かける「外商」が必要となった。

本を売る店同士の「小売間競争」もある。本屋以外にも、本や雑誌を扱うさまざまな店舗や図書館流通センターなどとも争わなければならないのだ。「垂直的な取引関係」によって構成される書店業界の課題は長年変わっていないが、周辺の動きはどんどん移り変わっている。町の本屋がつぶれてきたのは、書店業をめぐる諸問題の根源を先送りにしてきた結果だ。

【必読ポイント!】 書店に不利な、新刊書店のビジネスモデル

本は安いし、本屋の取り分が少ない

新刊書店は、小売側に価格の決定権がほとんどない。出版社、本の卸売・流通を担う取次、書店の三者の間で「再販売価格維持契約」が結ばれ、出版社が本の値付けをし、本屋は読者に定価で売ることを約束させられている。現在では、小売店に自由に価格を決めさせない契約のほとんどは違法だが、本屋には売れない在庫の安売りをすることも、品薄の本を高く売ることも許されていないのだ。

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要約公開日 2025.09.23
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