「就職氷河期世代論」のウソ
「就職氷河期世代論」のウソ
「就職氷河期世代論」のウソ
出版社
出版日
2025年09月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
要約全文を読むには
会員登録・ログインが必要です
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

1993年から2004年に卒業し、就職に大きな割を食ったとされる「氷河期世代」。本書はその実像に迫り、マスコミが作り上げた虚像を打ち破る熱い一冊である。

著者は、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏だ。リクルートワークス研究所「Works」編集長やリクルートキャリアフェローなどの経験を持つ、雇用の現場をよく知る人物だ。著書も数多く、2025年に上梓した『静かな退職という働き方』は各方面で話題を呼んでいる。

著者は、巷で騒がれる「就職氷河期問題」とその実情には乖離があると主張する。「大学卒業時が氷河期にあたったため、熟年になっても非正規の仕事を余儀なくされている」というイメージがあるかもしれないが、実のところ30代前半には8割近くが不安定雇用を脱しているという。この世代でいまも不安定な職に就いているのは、非大卒者と女性。氷河期問題の実態とはつまり、性差・学歴差問題なのである。

真摯に統計と向き合えば氷河期世代の実像は見えてきたはずなのに、なぜそうなっていないのか。問題をこじらせてきた犯人こそ、問題を報じる当のマスコミと、支援策を行う行政だと著者は喝破する。両者が内包する問題から、氷河期問題は今後も長引く可能性は高い。

ここまで書き進めたら、東京都人事委員会が「就職氷河期世代」を対象にした令和7年度の都職員採用試験の応募状況を発表、という報が入ってきた。「大卒程度」が対象の計10人の募集に641人が応募、応募倍率は64.1倍だという。“動き始めた列車”はなかなか止まらないということか。

ライター画像
荻野進介

著者

海老原嗣生(えびはら つぐお)
雇用ジャーナリスト。サッチモ代表社員。大正大学表現学部客員教授。1964年東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社サッチモを立ち上げる。漫画 『エンゼルバンク――ドラゴン桜外伝』の主人公、海老沢康生のモデルでもある。人材・経営誌「HRmics」編集長、リクルートキャリアフェロー(特別研究員)。著書は30冊以上、近著『静かな退職という働き方』が話題沸騰中

本書の要点

  • 要点
    1
    統計を見ると、「就職氷河期に卒業した大多数が無業・フリーター」というのは、明らかに間違っている。
  • 要点
    2
    大学卒業時点で無業・フリーターだった氷河期のどん底にあった2000年卒生は、30代前半までに約75%が不安定雇用を脱している。
  • 要点
    3
    氷河期世代の40代前半における非正規雇用の8割以上は女性である。残りの男性の大多数は非大卒者だ。氷河期非正規問題を突き詰めれば、性差と学歴差の問題に行き着く。
  • 要点
    4
    就職氷河期問題をこじらせた犯人は、マスコミと行政である。

要約

【必読ポイント!】偽りの氷河期問題

「たった6万人の差」に大騒ぎ
P.25 図表2(扶桑社提供)

就職氷河期世代、とりわけ卒業時期が運悪く不況期(1993~2004年)にあたった大卒者はどのようなキャリアを歩んできたのか。データを振り返って見てみよう。

まずは大学卒業時の就職状況である。文部科学省「学校基本調査」によれば、氷河期世代は確かに卒業時点での無業・フリーターが多く、その数は2000年卒と2003年卒の両方で14万人を超えて最悪だった。ただし、その最悪期においても、新卒での正社員就職は両年とも各30万人に上っている。これは大学卒業生における55%であり、無業・フリーターの割合(26~27%)に対して2倍以上の数となる。

この問題を考えるとき、注意しなければならないのが、大学定員数の変化である。バブル期は氷河期に比べて定員が少なく、したがって卒業生数も少ない。にもかかわらず就職数は氷河期よりも多いため、氷河期世代の就職環境が厳しいことにはうなずける。

だが、より精緻に分析してみると、別の問題が浮かび上がってくる。大学の定員数が比較的近い後期氷河期(1999~2004年卒)とポスト氷河期(2005~2009年卒)を比較してみると、大卒就職者数の差は両時期で約6万人、無業・フリーター数の差も同じく6万人程度だった。つまり、この6万人の差が「氷河期問題」の原点なのである。

大学卒業者が53~54万人当時における「6万人」というと、卒業生数に占める割合はたった11~12%程度だ。それがいつの間にか、「大多数が無業・フリーター」という話になってしまったことが、大きな問題なのである。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3840/4518文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2025.10.09
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本
一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本
越川慎司
現代語訳 福翁自伝
現代語訳 福翁自伝
福澤諭吉齋藤孝(編訳)
休息する技術
休息する技術
菅原道仁
決定版 「稼げる営業」と「ダメ営業」の習慣
決定版 「稼げる営業」と「ダメ営業」の習慣
菊原智明
NEW
すばらしいクラシック音楽
すばらしいクラシック音楽
車田和寿
教養主義の没落
教養主義の没落
竹内洋
仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣
仕事の「判断ミス」がなくなる脳の習慣
加藤俊徳
新版 エスキモーに氷を売る
新版 エスキモーに氷を売る
ジョン・スポールストラ佐々木寛子(訳)