大きなシステムと小さなファンタジー
大きなシステムと小さなファンタジー
大きなシステムと小さなファンタジー
出版社
クルミド出版

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出版日
2024年12月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

現代社会では、いろいろな技術が発達して生活が便利になり、経済が発展して様々な物に囲まれた豊かな生活ができる。それなのに、多くの人は生きづらさを抱えていて、窮屈そうに生きているように見える。いったい、それは何故なのだろうか。

心が疲れてしまったとき、どこかでゆっくりと一息ついて休みたくなる。自然に囲まれた場所に行ったり、温泉に入ったりする人もいれば、カフェでゆったりと過ごす人もいるだろう。

本書の著者は、国分寺で「クルミドコーヒー」と「胡桃堂喫茶店」を開業し、その店を中心としてクルミド出版や哲学カフェ、シェアハウス、「地域通貨ぶんじ」などを運営している影山知明氏だ。都会に行けば様々な種類のチェーン店系列のカフェがあるが、そういった店はどこか、カフェに行くこと自体が目的となってしまう。

しかし、カフェは街の人がなんとなく集まる場所でもある。たまたま集まった人たちそれぞれが、できることをやっていくことで、手に届く範囲の街が変わっていく。それによって、システムに当てはめられた生き方から解放されていく。本書を読むと、国分寺という街の生き生きとした様子が伝わってくる。

慣れ親しんでいる現代の社会のシステムを、すぐに変えることは難しいかもしれない。だけど、木が芽吹いて少しずつ育っていき、やがて大樹となるように、本書で提案されているイメージをじっくりと育てていきたい――。そう感じさせられる良書である。

ライター画像
大賀祐樹

著者

影山知明(かげやま ともあき)
1973年、東京・西国分寺生まれ。大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー社を経て、独立系ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、生家を建て替え、多世代型シェアハウス「マージュ西国分寺」を開設。1階には、こどもたちのためのカフェ「クルミドコーヒー」を開業。2017年には、2店舗目となる「胡桃堂喫茶店」をオープンさせた。店を拠点として、まちの仲間と共に、クルミド出版、胡桃堂書店、クルミド大学、クルミド/胡桃堂の朝モヤ、地域通貨ぶんじ、ぶんじ寮等を事業化。開かれた場づくりから、一つ一つのいのちが大切にされる社会づくりに取り組む。著書に、『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』(大和書房)好きな技はサソリ固め。会ってみたい人は世阿弥とミヒャエル・エンデ。
X @tkage

本書の要点

  • 要点
    1
    現代の社会は、目的を達成するための効率化を目指す「リザルトパラダイム」で成り立っているが、そのシステムに人を合わせるのではなく、一人一人のいのちのかたちに合わせた「プロセスパラダイム」を目指したほうが良い。
  • 要点
    2
    △(リザルトパラダイム)の社会は、設計図をもとに効率的に作り上げるが、▽(プロセスパラダイム)の社会では、一人一人の「やりたいこと」が種となり、場としての土に受け止められ、それぞれの形に育っていく。
  • 要点
    3
    自己の利益を最大化させる「テイク」に基づく経済ではなく、人に贈り、感謝を与え合う「ギブ」に基づいた「友愛の経済」が「もう一つの道」として必要とされている。

要約

自分の時間を生きる

△(リザルトパラダイム)と▽(プロセスパラダイム)
erhui1979/gettyimages

今の社会はピラミッド状(△)にできている。組織や会社では、労力やコスト、時間をできるだけ少なくすることが求められる。このような成果(リザルト)を先に決め、それに最短距離で近づこうとするやり方は「リザルトパラダイム」と表現されることがある。

しかし、一人一人のいのちの形は生まれながらにして違うから、一定の型にはめようとするとうまくいかなくなる。△(リザルトパラダイム)の社会づくりに対して、▽(逆ピラミッド状)の社会づくりを考えられないかと著者は提案する。▽の社会づくりとは、成果を事前に定義せず、一人一人の存在や一つ一つのしごと、関係性、偶発性、縁を大事にして、行き着く先をオープンに考えるという意味で「プロセスパラダイム」と表現される。

カフェの運営では、レシピやスケジュールなどが固定化され、マニュアル化されていく。マニュアルがあれば楽に働けるようになり、仕事の質も安定する。しかし、マニュアルを前提として働くことに慣れてしまうと、固定化した働き方を変えられなくなる。年月を重ねたお店が停滞する罠はここにある。小さな組織ならばマニュアルやシステムを変えるのは難しくないが、大企業では、決められたように仕事をしなければならないだろう。

ミヒャエル・エンデの『モモ』では、一人一人が自分の時間を持っていて、ほんとうの持ち主から切りはなされると時間は死んでしまうとされている。では、私たちは自分の時間を「生きた時間」として生きることができているのだろうか。

会社や組織で働き、自分の意思ではなく組織として「決められたこと」に従って仕事をしているとき、私たちは「自分の時間」を差し出して「組織の時間」を生きている。しかしそれは、エンデの言葉に従えば「死んだ時間」だ。現代は、それだけ自分の時間を生きるのが難しい時代である。

△(リザルトパラダイム)を支えるのは、様々なシステムと制度であり、組織の時間を生きるということはシステムの時間を生きるということだ。では、自分の時間を生きるにはどうすればいいのか。こどもたちは、今この瞬間の「やってみたい」「いやだ」といった情動に身を任せて生きている。大人たちの中にも、こどもだった自分が眠っているはずだ。著者の店・クルミドコーヒーには、こどもの自分に帰って自分の時間を過ごしてもらいたいという思いが込められている。

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要約公開日 2025.10.25
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