「やさしさ」という技術

賢い利己主義者になるための7講
未読
「やさしさ」という技術
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「やさしさ」という技術
出版社
出版日
2015年12月11日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

著者は両親ともに医者という家系に生まれ、自らもスウェーデンでトップの医大を卒業したがんの研究者である。そんなエリート街道を邁進してきたように見える著者だが、本書の語り口はいたってシンプルであり、穏やかだ。決して大上段から説教をする構えをとらずに、やさしさにまつわる誤解や、やさしさを磨く技術について紹介している。

本書によれば、「やさしさ」とは生まれ持った資質ではなく、知的判断を伴う技術であるという。なぜなら、やさしくあるためには、短期的に見て「よくない」と思えることもしなければならないからだ。逆に言えば、やさしくあろうと意識して行動すれば、誰でもやさしくなれるのである。

「情にほだされる」という表現があるように、やさしさはともすると、「もろさ」「意志の弱さ」とネガティブに受け取られがちだ。しかし、著者はそれを「偽りのやさしさ」とみなし、真のやさしさとは倫理観を伴ったものだと主張する。

他者のためになることは、結果自分のためになってかえってくる――ビジネスでの意思決定においては、合理的な判断をすることが求められるが、それだけでは不十分だと本書を読んで痛感させられた。今求められているのは、やさしさをベースにした意思決定であり、そちらのほうがむしろ最終的には得になるに違いない。本書を読んで今一度、やさしさというものを捉え直す旅にでかけてみてはいかがだろうか。

ライター画像
高橋朋美

著者

ステファン・アインホルン
1955年スウェーデン・ストックホルム生まれ。世界トップレベルの医大として知られるカロリンスカ医科大学の分子腫瘍学教授、がん専門医。スウェーデンでは「倫理」についての講義・講演の名手としても名高く、99年にはカロリンスカ医大の「学生が選ぶ最優秀教授」に認定されたほか、数多くの大学や企業、TEDなどでレクチャーを行っている。小説を含む9冊の著作があり、とりわけ倫理的に生きることの意義と効用を書いた本書『「やさしさ」という技術』は、人口900万人のスウェーデン国内だけで驚異の30万部以上を売り上げ、北欧を中心にセンセーションを巻き起こした。

本書の要点

  • 要点
    1
    「やさしさ」とは生まれもった資質や性格ではなく、誰でも意識的に身につけることができ、一生磨き続けることができる「技術」である。
  • 要点
    2
    やさしくなるために博愛主義者になる必要はないし、利己的な動機であっても全く問題はない。
  • 要点
    3
    やさしさは、人生で成功を収めるために、そして世界をより住みやすい場所に変えるためにも重要だ。
  • 要点
    4
    お金を基準に成功を捉えてはいけない。大切なのは、自分自身が意味のある人生と感じられること、そして仲間といい関係を築くことである。

要約

【必読ポイント!】「やさしさ」の正体に迫る

やさしさの根底にあるのは倫理感
VladimirFLoyd/iStock/Thinkstock

著者の考える「やさしい人」とは、倫理にしたがって生きている人のことである。私たちが人類という仲間であり続けるため、そして人道的な社会を築くための基盤として、倫理は大切な役割を果たしている。

だが、倫理的に正しくあろうとすることは簡単ではない。なぜならどのような行動にも、正しい部分と正しくない部分の両面が存在するからだ。これを「倫理のジレンマ」と呼ぶ。スウェーデンで行われている「積極的安楽死は合法か違法か」という議論は、このジレンマの典型例といえるだろう。どちらの場合にも利益と不利益が生じるからだ。そこまでいかなくても、早く家に帰って家族の夕食をつくらなければならない時に、車がエンストして困っている人を助けるべきか等、倫理のジレンマは日常にあふれている。

やさしさを伴った人間とは、そうしたジレンマをしっかりと認識し、倫理的な思考を深めていく人間のことだ。また、ルールを守ること、判断力を磨くこと、良心を持つこと、共感力を養うこと、そして他人に助言を求めることも、倫理的であるために大きな助けとなるだろう。

偽りのやさしさは人を不幸にする

真のやさしさを理解するためには、偽りのやさしさがどういうものかを知るべきである。「愚鈍」「意志薄弱」「ひ弱」といった印象を与えるやさしさは、真のやさしさではない。偽りのやさしさは、いずれも人を不幸にするものである。たとえば、行動を起こさず、立場を明確にしないことは偽りのやさしさにほかならない。

一方、真のやさしさには倫理が伴っているものだ。一見、無情に思えたり、非難をあびるような行いであったりしても、長い目で見て相手に最善の利益をもたらすと思われる行いは、真のやさしさから生まれた行為であるといえる。

やさしくする動機は利己的であっても構わない

よい人であるためには、行動することが最も重要だ。「大切なのは気持ちだよね」などという風潮など笑止千万である。どの人の人生も、何千という他人の人生と関わりあって成り立っている。だからこそ、自分の行動がよい影響をもたらすと信じて、実際に行動に移すことが何よりも尊いのである。

それが仲間への思いやりにもとづいた行動であれば、たとえ利己的な動機が含まれていても構わない。やさしくあろうとすることはもともと、大きな負担をともなうものであるからだ。だが、それは取り組みがいのある挑戦でもある。

やさしさを阻むもの

リソース不足がやさしさを摩耗させる
shironosov/iStock/Thinkstock

よい人間になりたい、やさしくなりたいと思っているのにもかかわらず、最善の行動が取れないことがある。ここではその代表的な要因を2つ紹介する。

まず、時間や資源、人材や資金などのリソースの不足が、やさしく振る舞えない大きな要因の1つだ。実際、リソースが不足している極限状態で、倫理的思考を保ち続けることは困難である。

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要約公開日 2016.07.04
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