手書きの戦略論

「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略
未読
手書きの戦略論
手書きの戦略論
「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略
未読
手書きの戦略論
出版社
宣伝会議
出版日
2016年04月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「ポジショニング」「ブランド」「アカウントプランニング」。名前を聞いたことがあるが明確には知らないという人が多いのではないだろうか。本書は、日本におけるアカウントプランニング黎明期においてその普及や導入に携わり、現在もアカウントプラナーの立場からあらゆるブランドの戦略立案に関わる著者が、コミュニケーション戦略を、その歴史や具体例を交えながら解説するものである。

著者は、コミュニケーション戦略を「人を動かす戦略」と定義し、大きく分けてポジショニング・ブランド・アカウントプランニング・ダイレクト・IMC・エンゲージメント・クチコミの7つのアプローチがあると説く。そしてそれらは、厳密に区別されるというよりは「7層のミルフィーユのように重なっている」という。ある理論が廃れて次の理論に切り替わるというのではなく、7つの戦略はすべて生き残っている。

本書を読み進めていけば、コミュニケーション戦略が年月を追うごとに消費者中心の考え方へと推移し、商品やサービスといった顧客が接する部分をすべてコミュニケーション領域と捉え、統合的に設計する必要性を実感できるだろう。

戦略論の歴史は、人を動かすアプローチの拡大、言うなれば「心理工学」の発達史でもあると著者は語る。モノがあふれ、消費者の動きが鈍化しがちな昨今。手法がありすぎて何から着手すべきかわからない、消費者が何を考えているのかわからないと嘆く人には、まず本書を読むことをすすめたい。

ライター画像
下良果林

著者

磯部 光毅(いそべ・こおき)
磯部光毅事務所アカウントプラナー。1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年博報堂入社。ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)に転属。2007年独立し、磯部光毅事務所設立。主な仕事に、サントリー「JIM BEAM」「ザ・プレミアムモルツ」「伊右衛門」「伊右衛門 特茶」、トヨタ自動車「G's」、ダイハツ「タント」、コーセー、KDDI、Google、味の素、AGF、花王、ティファニー、ブリヂストン、三井不動産、カルビーなど。ブランドコミュニケーション戦略を核に、事業戦略、商品開発からエグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。受賞歴にニューヨークフェスティバルズAME賞グランプリ、ACC CMフェスティバル ME賞メダリストなど。著書に『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議、2013年)、『アジアマーケティングをここからはじめよう』(共著、PHP出版、2002年)、『ニッポンの境界線』(共著、ワニブックス、2007年)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ポジショニング論が差別化の戦略なら、ブランド論は、そのブランドらしさを消費者の記憶に残そうとする戦略だ。アカウントプランニングでは、消費者の深層心理に対する理解が重視されている。
  • 要点
    2
    ダイレクトマーケティングとは、複数の広告メディアを用い、反応を獲得する双方向のマーケティングである。またIMC論は、ブランドと消費者との「接点」の統合を意識するアプローチである。
  • 要点
    3
    エンゲージメントは「情報の受け手である顧客による自発的な関与を引き出す」手法である。そして、情報の「人づて」が人を動かすというクチコミ論という戦略も生まれている。

要約

ポジショニング論

消費者の頭に「違い」を植え付ける

ポジショニング論とは文字通り「相対的な位置取り」を意味する。「顧客ニーズをくみ取りながら」「その顧客の頭の中に」「競合とは異なる位置づけを得る」という3点を重要視する考え方だ。その根底には、違いによって人を動かす差別化の思想がある。

第二次大戦後のアメリカでは、テクノロジーの進化により類似品が多く出回るようになり、企業は顧客にとって無意味な差別化に走るようになった。そんな環境下にあった1969年、広告業界誌で初めて「ポジショニング」という言葉を紹介したのは、アル・ライズとジャック・トラウトである。彼らは、情報社会で成功するためには自社ブランドの長所や短所だけでなく、競合ブランドの長所と短所も計算に入れ、消費者の頭の中に確固たるポジションを築かねばならない、と主張した。つまり、「頭の中での位置づけを争う」というやり方だ。

具体的には、まずポジショニングマップを描いていく。、縦横2軸の4象限に分けたチャート上に、例えばプレミアムかスタンダードか、リラックスかリフレッシュか、といった顧客目線の軸を設定し、自社ブランドと競合ブランドをそこに位置づけながら、余白がどこにあるのかを探るのだ。ここでポイントとなるのは、自社ブランドに有利に働く「競争軸」を見つけることである。同時に、一部の人しか求めないニッチなブランドにならないよう、とがったポジショニングと、メジャー感のバランスをとることも重要となる。

ブランド論

消費者の記憶に「らしさ」を残す
Stockbyte/Stockbyte/Thinkstock

ブランド論は、「らしさ」の記憶こそが人を動かすという考え方である。アメリカ・マーケティング協会は、ブランドを「個別の売り手の商品・サービスを競合他社のものと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはその他のもの」と定義した。とはいえシンボルは「マーク」にすぎず、マークを見ただけでその商品の特徴や品質、価値などが消費者の脳裏に浮かぶようでなければ、ブランド戦略は成功したとはいえない。

ブランドは、映像や個人的な経験などに紐づく「連鎖した記憶」がひとつの塊になり、好意的な感情によって包まれることで形成される。例えば、あるミネラルウォーターを「富士山麓の太古の地層でゆっくり濾過され磨かれたミネラルバランスのよい水」と形容したとする。消費者は「富士山」「太古の地層」「ミネラルバランス」のひとつひとつを正確に理解しているわけではない。しかし、これまでの知識や経験に基づく感情との連鎖によって「良さそう」という期待を抱き、そのブランドを長期にわたって記憶するようになる。

ブランド戦略のプランニングで必要なポイントは次の4つである。①「らしさ」の鮮度を保ち続けること、②ブランドの本質的な価値よりも、社会におけるその役割や方向性(ミッション・ビジョン)を重視すること、

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要約公開日 2016.07.27
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