物語戦略

未読
物語戦略
出版社
出版日
2016年04月12日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

近畿大学、パタゴニア、ルイ・ヴィトン、Apple。こうした企業の共通項は、顧客や従業員をはじめとするステークホルダーをファンにしてしまう強力な物語を持つという点だ。他社が簡単に真似できない競争優位性を生む「物語」をどうすれば紡ぎ出せるのだろうか。豊富な成功事例とともに、その解を提示しているのが本書である。

著者たちは、一般的な競争戦略の本では見落とされがちな「おもしろさ」に着目し、その企業の強みを象徴する物語、すなわち「シンボリック・ストーリー」の威力について述べていく。シンボリック・ストーリーは、多くのステークホルダーの間で共有され、語り継がれることで、ビジネスモデルの独自性を強めてくれる。そして物語は、競争戦略やビジネスモデルと結びついて、顧客や従業員を引きつけてやまない伝説となり、ファンの心に深く刻まれるというのだ。

シンボリック・ストーリーを核にして、他社が真似できないビジネスモデルを生み出すためのフレームワークと、成功した企業、ブランドの秘訣を余すことなく盛り込んだ一冊である。シンボリック・ストーリーの探し方が、現場ですぐに実践できるレベルにまで具体化されているのもありがたい。さらには、「そんな物語があるのは特別な会社だけ」という固定観念も見事に打破してくれる。

自社の強みを象徴する物語を戦略的に活かすという新機軸を打ち立てた本書は、経営戦略やビジネスモデルの変革を進めようとする方にとって、必読の書だといえる。

ライター画像
松尾美里

著者

岩井 琢磨(いわい たくま)
コミュニケーション戦略プランナー
早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。広告会社に入社後、インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクター、ブランドコンサルタントなどを経て現職。製造業、流通サービス業界を中心に、企業ブランド戦略および企業コミュニケーション戦略の策定・実行支援のプロジェクトを数多く手がけている。著書に『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(共著、日本経済新聞出版社)がある。日本マーケティング学会会員・マーケティングサロン委員、日本広報学会会員。

牧口 松二(まきぐち しょうじ)
マーケティング・ディレクター
早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。広告会社に入社後、ブランドコンサルティング会社の創立メンバーに加わり執行役員に就任。その後現職。製造業、流通業、店舗型サービス業界を中心に、事業戦略、ブランド戦略の策定・実行支援、サービスクオリティマネジメントなどのプロジェクトを数多く手がけている。著書に、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(共著、日本経済新聞出版社)、『なぜ、あの会社は顧客満足が高いのか』(共著、同友館)、『サービスブランディング』(共著、ダイヤモンド社)、『ブランドマネジメントのすすめ方』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、『ブランドマーケティングの再創造』(共訳、東洋経済新報社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    シンボリック・ストーリーは、①企業の強みを象徴している、②企業の戦略方針に合致している、③思わず人に話したくなるという3つの要件を満たす必要がある。
  • 要点
    2
    物語戦略とは、物語を経営資源ととらえ、ビジネスモデルに組み込むことによって、競争優位の獲得をめざすものだ。
  • 要点
    3
    物語戦略をつくる際には、シンボリック・ストーリーを「見つけ出す」、その力を「テストする」、ビジネスモデルと「つなぐ」という3つのステップに沿うとよい。

要約

企業の見え方を変える伝説の物語

ボルボを有名にした「シートベルトの物語」

スウェーデンの自動車メーカー、ボルボの「シーベルトの物語」は、シンボリック・ストーリーの好例である。

格段に安全性を高めた「3点式シートベルト」の生みの親であるボルボのエンジニアは、安全技術が普及するように、特許を無償公開した。特許公開によって、100万人以上の人々の命が救われたといわれている。この物語が人々の共感を呼び、「技術によって安全性をどこまでも追求する企業」として、ボルボは一躍、有名になった。さらには、自動ブレーキの全車装備などを他社に先駆けて発表し、競合と一線を画していったのだ。

このように、シートベルトの物語は、社会全体の安全への姿勢と、革新的な技術力、それらによって先進的な車をつくるという、ボルボの強みの象徴となった。

経営資源としてのシンボリック・ストーリー

シンボリック・ストーリーの条件

シンボリック・ストーリーとは、企業が持つ強みを象徴する物語であり、その独自性により、「他とは違う価値」を持たせる力を持つ。重要なのは、こうした物語が、企業のとる戦略の方向性に合致していることだ。シンボリック・ストーリーの条件は、漠然とした伝説とは違い、その企業の戦略上の強みを端的に発信していることである。逆に、企業らしさから逸脱した物語を広めようとしても、むしろ失敗につながりかねない。

もう一つ肝心な条件は、その物語が、簡潔に「人に話したくなる」内容になっていることである。つまり、シンボリック・ストーリーとは、①企業の強みを象徴している、②企業の戦略方針に合致している、③思わず人に話したくなるという3つの要件を満たす物語なのだ。

情報化社会は物語社会
ChristianChan/iStock/Thinkstock

なぜ今、シンボリック・ストーリーを使った戦い方が重要なのか。それは、「個人のメディア化」と「ビジネスモデルの同質化」という競争環境の2つの変化によるものだ。

まず、スマートフォンの急速な普及により、個人が瞬時に情報を入手、発信できるようになったことで、いまや個人の生活体験のすべてがコンテンツになっている。また、友人からの情報やレビューの信用度が高まる昨今、一顧客の体験談と同様に、企業に関する物語も拡散力を持ち始めた。つまり、おもしろい物語であれば拡散、蓄積されていくため、物語力のある企業がより際立った存在感を放てるようになったのだ。

そうはいうものの、他社の追随を許さないビジネスモデルを見つけるのは容易ではない。そのうえ、業界のリーダー企業は、チャレンジャー企業の新たな挑戦に対し、同じ戦い方をとってビジネスモデルの同質化を図り、チャレンジャーをつぶしにかかってくる。ビジネスモデルの情報がオープンになりやすい環境下では、競合企業による模倣は容易になる。しかし、物語は他者から買収することも盗用することもできない。つまり、ビジネスモデルの同質化というリスクに対抗する重要な経営資源になりえるのだ。

ビジネスモデルの核に物語を埋めこむ

著者たちによると、ビジネスモデルとは、①顧客に提供する価値、②競争優位性の持続、③儲けの仕組みという3つの戦略要素の組み合わせだと定義される。一方、シンボリック・ストーリーとは、この各要素の独自性を高め、戦略を強化する役割を果たす。

現在、多くの企業が「強みはあるのに社内外にその価値が伝わらない」という悩みを抱えている。しかし、物語として伝わらない強みなら、それを起点にした戦略の方向性自体に問題があると考えられる。

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要約公開日 2016.08.11
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