「脱・値引き」営業

小さな町の電器屋さんが20年連続黒字の秘密
未読
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小さな町の電器屋さんが20年連続黒字の秘密
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「脱・値引き」営業
著者
出版社
出版日
2016年05月19日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

町の電器屋さんというと、子どものころに近所にあった!という方も多いのではないだろうか。しかしそうした風景もここ20年ほどでめっきり少なくなってしまった。不景気、消費増税、安い海外製品の台頭……世の中の流れとしても、小さな小売店が生き残るにはなかなか厳しい状況であることは間違いない。

そんな中、20年連続で黒字経営を続けてきた町の電器屋さんが「でんかのヤマグチ」(以下、ヤマグチ)だ。大手家電量販店の粗利益率が25%ほどである一方、ヤマグチは40%もの粗利益率を実現している。今年で創業52年目を迎えたヤマグチだが、初めからこのような高利益率を実現していたわけではなかった。ある時までは他の企業と同じく安売り一辺倒の経営を行っていたという。それが90年代後半、周辺に大手家電量販店が多数出店してきたことをきっかけに、このまま価格競争を続けていてはいずれ潰れてしまうと経営方針を一変。タイトルにもなっている「脱・値引き」経営に踏み切った。

本書はヤマグチと同じような中小企業経営者の方にはもちろん、大企業で働くビジネスマンにも読んでいただきたい1冊である。というのも、少子高齢化が進行している中、時代は「安いものを大量に」から「よりよいものをより高く」に移っており、世の中の多くのサービスに対しても言えることだからだ。安売りから180度視点を変えた先に、新たなビジネスチャンスが見えるかもしれない。

ライター画像
和田有紀子

著者

山口 勉(やまぐち つとむ)
1942年東京都生まれ。65年にパナソニック系列の電器店「でんかのヤマグチ」を創業。90年代後半、近隣への大手家電量販店の進出を受け、値引き営業と決別。顧客の家を訪問する「御用聞き」営業に代表される手厚いサービスを提供する地域密着型経営にかじを切る。2015年9月期の売上高は9億2200万円、最終利益は1200万円で、粗利益率は約40%。20年連続黒字を達成した。

本書の要点

  • 要点
    1
    ヤマグチは、安売りせずに顧客サービスの向上を徹底することで、着実に利益を出す経営を長年続けている。
  • 要点
    2
    ヤマグチでもっとも力を入れているのが「御用聞き」と呼んでいる訪問営業で、売上のうち7割を占める。訪問営業では各社員に担当エリアがあり、顧客台帳の活用で家族構成まで把握するなど徹底し、顧客に寄り添ったサービスを実現している。
  • 要点
    3
    様々な節目にイベントを開催したり、地元企業との提携を進めたりと、ヤマグチは積極的に地域貢献するよう心がけている。

要約

【必読ポイント!】 なぜ町の電器屋さんが20年連続黒字なのか?

お客さんが求めているもの
Jochen Sand/Photodisc/Thinkstock

ヤマグチは、売り場面積430平米ほどの町の小さな電器屋である。修理センターを除くと1店舗しかなく、その店舗もターミナル駅の町田駅から約4.5キロメートル離れた住宅街の中に立地している。また、原則値引きをしないため、電化製品の値段は高く、競合となる大手量販店は町田駅周辺に6店もある。

これだけ聞くと、今にも潰れてしまうのではないかと心配しそうになるが、ヤマグチはこのような悪条件にもかかわらずしっかり利益を上げているという。2015年9月期には20年連続で黒字を達成し、粗利益率は40%という驚異的な数字をたたき出している。

なぜヤマグチはこのような高収益店を作ることができたのか? それはひとえにヤマグチが、価格ではなく顧客サービスを徹底する方針に切り替えたからである。価格で大手に競り勝つことは難しい。競争に持ち込んでもすぐにこちらが疲弊してしまうことは目に見えていた。悩んだ末にヤマグチが導き出したのが、値引きしないかわりに、家電の設置や修理・不具合の点検などサービスを徹底し、地元密着型で一人ひとりのお客さんを大切にするという方針である。

ヤマグチのお客さんは高齢者が多い。60代~70代がメインで、80代~90代のお客さんも珍しくない。高齢になると、車で家電を買いに行ったり、壊れた家電を修理に出したり、電球を取り替えるといった、若いころには当たり前にできていたことが難しくなる。そんなとき重宝されるのが、ヤマグチの御用聞きサービスだ。ある程度財布にゆとりがある高齢者にとっては、困りごとを解決してくれるのであれば、正規料金で家電を買うことはさほど重要ではない。

ヤマグチでは以前から訪問営業を行っていたものの、エリアを限定していなかったため、1日に回れるのは3~4世帯だけだった。また、せっかく頼まれても、翌日以降にしか伺えないことがよくあったという。

しかし、経営が危機に瀕した20年ほど前、全面的にサービスを見直し、訪問エリアを車で1時間以内に駆けつけられる町田市と相模原市の一部に限定した。すると、お客さんから連絡があったときにはすぐに「トンデ」行けるようになり、1日に訪問できる世帯数も格段に多くなった。

お客さんの小さな困りごとから別の商談に進むこともしばしばある。何かあったときにはすぐに駆けつけ、普段から信頼関係を構築しておくことが非常に大事であると学んだ。

店の規模や数を絶対に拡張しないわけ
sergeyryzhov/iStock/Thinkstock
ヤマグチは2015年に町田街道の拡張工事にともない、旧店から立ち退かざるをえなくなってしまった。そこで、そこから少し離れたところに新店をオープンした。これを見たお客さんの中には、ヤマグチが多店舗展開を始めたのかと勘違いした人もいたが、社長は1店舗のみと心に決めているという。理由は明確で、個々のお客さんに対するきめ細かいサービスを実現するためだ。社員40人ほどのヤマグチで多店舗化を図ろうとすると、新店舗スタッフの採用や研修が中途半端になってしまい、社長としても目が行き届かなくなる恐れがある。それなら、既存のお客さんのために徹底的にサービスの向上に努めたほうがよいと考えているのだ。山口社長がこのような経営判断を行う背景には、実は20年ほど前の失敗経験がある。

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要約公開日 2016.09.07
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