一流の決断力

伝説のディール・メーカーが教える「粘る力」と「割り切る力」
未読
一流の決断力
一流の決断力
伝説のディール・メーカーが教える「粘る力」と「割り切る力」
未読
一流の決断力
出版社
日本能率協会マネジメントセンター
出版日
2013年12月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

あなたは部下から慕われる上司であると、自信をもって言えるだろうか。

本書は凄腕のディール・メーカーとして知られる植田兼司氏によって書かれた、リーダーに必要な「決断力」について書かれた一冊だ。植田氏は「ハゲタカ」として名をはせた米系投資ファンドのリップルウッド・ジャパンで8年間にわたってマネージング・ディレクター、代表取締役として数々のM&A案件を手掛け、2008年には自身で「いわかぜキャピタル」を設立した。

当時の植田氏の部下には現在ライフネット生命で社長として活躍する岩瀬大輔氏など、極めて優秀な部下が揃っていた。外資系企業では、優れた部下から見限られたら最後、チームが機能しなくなり、リーダーは責任を取ってクビになるということがザラにある。そうした厳しい環境にもかかわらず、なぜ植田氏は部下から慕われるリーダーとして君臨できたのか。本書にはその秘訣が詰まっている。

各章の末尾には「まとめましょう」という一言から始まる、その章のサマリーが記載されており、本書は分かりやすさにも配慮された良書だ。著者の趣味という相撲や将棋などの名言を織り交ぜつつ、ウンウンと納得しながら読み進めることができる充実した内容に仕上がっている。

周囲の人間から慕われる経営者が著す書籍の特徴として、尊敬する人やお世話になった関係者の名前をはっきりと記していることが挙げられる。本書には岩瀬大輔氏をはじめ、植田氏が関わった多くの方の名前が明記されており、そうしたところからも著者が周囲から尊敬される経営者であったところがうかがい知れる。

ライター画像
苅田明史

著者

植田 兼司
いわかぜキャピタル株式会社代表取締役CEO。1952年生まれ。1974年に関西学院大学経済学部を首席で卒業し、同年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)に入社。以降25年間、国内外の資産運用業務に携わる。1987年には、同社における当時の最年少課長に抜擢される。その後、グローバル運用のヘッドとして約7000億円のポートフォリオを運用。1999年より「ハゲタカ」として名をはせた米系投資ファンドのリップルウッド・ジャパンに移り、8年間に渡ってマネージング・ディレクター、代表取締役として数々のM&A案件を手掛ける。

本書の要点

  • 要点
    1
    決断力のあるリーダーをめざすのであれば、またリーダーとして最適の決断を不断に続けるのであれば、若い頃からリスクにチャレンジし、徹頭徹尾考え抜き、自分のこととして結果にこだわることが必要だ。
  • 要点
    2
    最適の決断は、「粘る力」と「割り切る技術」の絶妙のバランスから生まれる。このふたつは矛盾しているようだが、だからこそ決断に伴うリスクが軽減される。バランスを取るには試行錯誤を繰り返すしかない。
  • 要点
    3
    変わることは難しいが、現状に満足し、それを守ろうとするところに進歩はない。困難なこともあるかもしれないが、優秀な人は新しい環境に進むことで、新たな才能が引き出されるはずだ。

要約

決断の流儀

百人の悩みを両ポケットに詰め込んで
iStock/Thinkstock

本書は三十代から四十代のリーダーや経営者が決断をするに当たり、その背中をひと押しするようなひと言を、そして二十代の未来のリーダー候補に将来リーダーとなった後も迷ったときのバイブルに、と考えてまとめられた著者である植田兼司流の「決断の流儀」だ。

植田氏は25年間東京海上に勤めたあと、米系投資ファンドであるリップルウッドに転職する。リップルウッドにおけるプライベート・エクイティ・ファンド投資の仕事は、まず投資する企業を探し出し、売り手とのきびしい買収交渉を経て、最終契約書締結に至る。買収後には経営陣とともに数年間かけて投資先のバリューを上げていく経営改善のプロセスがあり、最後に投資した会社を高い価格で売却するエグジットが必須となる。

このようにさまざまなプロセスにある会社を何社もフォローし、辛抱強くディールをまとめて企業価値を上げていくわけだが、その過程では、交渉相手や投資先の経営者など多くの人が不満を爆発させたり、泣きついたりしてくる。植田氏は、この状況を「百人を超えるであろう関係者の悩みを両ポケットいっぱいに詰め込んで、残尿感いっぱいに全力疾走している感じ」と表現している。

こうした経験を踏まえ、植田氏がリーダーに求めることは、「粘る力」(不屈の精神)と「割り切る技術」(冷静な観察眼と勇気)の2つであるという。

本書にはこれらを基本として、「決断」を取り巻くリスクコントロールや課題解決、人間関係構築など様々な重要ファクターについて植田氏からのメッセージが記されている。

相手目線に立つ
iStock/Thinkstock

ビジネスの要諦は「相手(お客さま)がどう考えるか」を的確にとらえ、優位に交渉を進めて取引を完成させ、チャリンとお金をいただくことだ。自分がどう考えるかではなく、相手がどのように考えて何を求めているかを把握することが、的確な決断の基本になる。

日本では、会社を売るということはまだネガティブな意味合いにとらえられているため、買収する側としては、会社を売る相手の決断を導くまでには相当の時間と労力を要する。強気になったり、弱気になったりと揺れ動く売り手の心理を的確に把握しながら、適切なタイミングで連絡をとって、「この人、この会社に売りたい」という気持ちに導けば、あとは期待を大きく裏切らない条件を出すだけでディールはぐっと近づくのである。

リップルウッド時代に、ある自動車部品会社の買収に取り組んでいたとき、植田氏は何度もその会社のオーナー・ファミリーのもとに通い、気持ちを完全につかんでいた。その社長が売却を決断したとき、親会社から「ハゲタカに売却しても良いのか」と疑念を投げかけられたそうだが、その社長は押し切って決断してくれたそうだ。まさに常に相手の目線に立って冷静に判断することが導いた決断だと言えよう。

AかBか悩み抜いての決断であれば、どちらでも正しい

東京海上時代の上司から「悩んで一生懸命にやったときに失敗はない。ミスは何も考えずにやったときに起きるものだ」と言われた植田氏は、その後「AかBか悩み抜いての決断はどちらも正解」ということが分かってきたという。

リーダーに求められることは、あらゆる選択肢を悩んで悩み抜くことだ。そうすれば、最後に何を選んでも間違いではなく、これでよかったのかとそれ以上悩む必要は全くない。むしろ「こちらを選択するのが当然」と、すっと選択したときにミスが起きることを肝に銘じるべきだ。

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要約公開日 2014.01.08
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