スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち

標高5000mで動き出した史上最高の“眼”
未読
スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち
スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち
標高5000mで動き出した史上最高の“眼”
未読
スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち
出版社
出版日
2017年07月31日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

宇宙の誕生・進化の歴史をとらえようとする電波望遠鏡「アルマ」をご存じだろうか。2019年4月、ブラックホール観測の一翼を担い撮影成功に貢献、注目を集めた66台からなる電波望遠鏡群だ。目覚ましい成果をあげ、宇宙科学の発展への貢献が期待されているアルマ。その「創造」の裏側には、壮大なストーリーがあった。

2011年8月25日深夜、神戸市から西におよそ50キロ離れたフクトクテクノス高砂超大型工場から、口径7メートルもある巨大なパラボナアンテナの最後の搬出作業が行われていた。およそ100トンのパラボナアンテナは、ただ巨大なだけではない。主鏡と呼ばれるお椀型の表面にアルミニウムを削り上げた鏡面仕上げが施されている、超精密製品で、日本は16台を製造した。

移動中に何かがあれば、「アルマ」は台無しになってしまう。それを貨物船に積み込み、太平洋を越えて地球の反対側、南米のチリへの納品を続けてきた。これだけでも、途方もない努力が必要だということが察せられる。

チリに届いたパラボナアンテナは、標高5000メートルのアタカマ砂漠に設置される。そして、はるか彼方の宇宙から、地球に届いている「電波」を拾うために使われる。このように宇宙を電波で観測する装置が「電波望遠鏡」だ。

複数の国が協力し合い、およそ1000億円を投じて実現した、史上最大スケールの天文学プロジェクト。それが本書のテーマである「アルマ」だ。宇宙の歴史を知るという途方もない人類の夢に向けてひたむきに手を動かし続けた創造者たちの物語を堪能していただきたい。

ライター画像
池田明季哉

著者

山根 一眞(やまね かずま)
ノンフィクション作家
1947年東京生まれ、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。福井県年縞博物館特別館長、宇宙航空研究開発機構(JAXA)客員、福井県文化顧問、理化学研究所名誉相談役、日本生態系協会理事、3.11支援・大指復興アクション代表。日本の「モノつくり」を広く伝えた『メタルカラーの時代』シリーズ(小学館)は25冊を出版。『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(マガジンハウス)は渡辺謙主演で映画化。近刊が『理化学研究所』(講談社ブルーバックス)。『週刊東洋経済』連載「新メタルカラーの時代」他、オンライン新聞の連載コラムをもつ。獨協大学非常勤講師。日本文藝家協会会員。
山根事務所http://www.yamane-office.co.jp

本書の要点

  • 要点
    1
    宇宙から届いている電波を受信し観測することで、宇宙誕生や進化の歴史が解明できる。
  • 要点
    2
    電波望遠鏡「アルマ」の国際共同プロジェクトでは、超精密かつ巨大なアンテナを製造することで、波長が短く観測が難しいとされる「サブミリ波」の観測を目指した。
  • 要点
    3
    アルマは視力6000を達成し、惑星誕生の現場を史上最高解像度で撮影することにも成功した。

要約

スーパー望遠鏡「アルマ」の役割

宇宙からの電波を観測する理由
写真提供/ 山根一眞さん

本書は、スーパー望遠鏡「アルマ」を創造した人たちの物語だ。

アルマが建設されたチリ周辺のアタカマ砂漠は、観測史上一度も雨が降ったことがないとさえいわれる、世界で最も乾ききった場所だ。アルマが宇宙の彼方から受け取る電波は、大気中の水蒸気に吸収されてしまうため、地上では受信することが難しい。宇宙に電波望遠鏡の展望台を打ち上げることが理想だが、アルマのような巨大な望遠鏡を打ち上げることは不可能だ。そこで、宇宙に最も近い環境であるとして、アタカマ砂漠が選ばれたのだった。

「電波」で宇宙を「観測」するというのはいったいどういうことか。星は、目に見えない、波長の異なるたくさんの電磁波を発している。星が発する電波を調べれば、そこにどんな化学物質があり、どのようにつくられているか、そこに生命があるのか、水はあるのかといったことを知る手がかりになる。電波を観測すれば、可視光では得られない宇宙に関する多くの情報が得られるというわけだ。

130億年のタイムマシン

アルマが取り組んだのは、一般に利用されている「電波」より波のうねり(波長)が短い電磁波帯、「サブミリ波」だ。サブミリ波は、可視光線を発していない極低温の天体からも発せられている。その冷たい世界を見ることができれば、あらゆる物質がいつつくられ、星がどう誕生したか、さらには私たちがなぜここにいるかという問いへの答えを得られるという期待があった。

アルマには、宇宙が誕生したビッグバンの後、130億年前に発した電波も入ってくる。電波も光も1秒間に30万キロメートルの速度で進むが、地球に届く電波は「過去」のものだ。130億年もかけて宇宙を旅してきた電波をコンピュータで処理すれば、宇宙の開闢(かいびゃく)後の様子を垣間見ることができる。その電波を詳しく調べれば、宇宙での物質の誕生や、星の進化も知ることができるかもしれない。アルマはある意味ではタイムマシンでもある。

日本チームの大胆な作戦
画像・ALMA/ESO/NAOJ/NRAO

アルマが受信している電波はとても微弱だが、宇宙を見る眼の解像度は0.01秒角、視力に換算すると6000にもなる。6000とは、東京から大阪にある1円玉がくっきりと識別できるほどの視力に相当する。

この解像度と視力は、日本のモノづくりの成果だ。山麓施設のアンテナ組み立てエリアでは、日米欧で区切られて作業をしていたが、各国の作業エリアのつくりはそれぞれに異なっていた。米国は格納庫のような建屋で、欧州は仮設工場で作業を進める中、日本のエリアは野ざらし状態であった。予算が限られていたため、組み立て工場の設営を諦めたのだ。日本で組み上げたものを分割してから現地に送り、再び組み上げるという方法を採用することにした。

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要約公開日 2019.07.13
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