日本婚活思想史序説

戦後日本の「幸せになりたい」
未読
日本婚活思想史序説
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戦後日本の「幸せになりたい」
著者
未読
日本婚活思想史序説
著者
出版社
東洋経済新報社

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定価
1,980円(税込)
出版日
2019年06月13日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「結婚とは一体なんなのか」という問いを持ったことがある人は少なくないはずだ。結婚のかたちは国や時代によって異なるが、オープン・マリッジに契約婚などの様々な「結婚」もあり、もはや法律のみによって定義するものでもないといえる。また、近年ではネット婚活サービスが隆盛を見せるなど、結婚に至るまでの過程も大きく変化している。

本書では主に、80年代から今日にかけての結婚や婚活をめぐる状況の変遷が、結婚雑誌や社会状況の分析に基づいて提示されている。80年代は、「婚活」という言葉がなくても「婚活」の議論がなされていたということで、著者は「婚活0.0」時代と位置づけている。

一貫してカジュアルで読みやすい語り口でありながら、政治学者である著者は、結婚や婚活を少子高齢問題やフェミニズムなどの問題にも結びつけて、学術的な要素に裏打ちされた考察を行なう。また、今日のネット婚活サービスにおける婚活の様相をマネジメントやマーケティングといった言葉を用いながら分析している点も興味深い。

本書は、「結婚」「婚活」というキーワードを通して、時代の変化に伴う社会や心理の変化を浮かび上がらせており、読み物として楽しめる一冊だ。また、本書で紹介される様々な考え方は、自身の婚活や結婚、結婚生活を考える際の良いヒントをくれるかもしれない。

ライター画像
池田明季哉

著者

佐藤 信(さとう しん)
東京大学先端科学技術研究センター助教。1988年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科博士後期課程中退。博士(学術)。2015年より現職。専門は政治学、日本政治外交史。著書に『鈴木茂三郎』(藤原書店)、『60年代のリアル』(ミネルヴァ書房)、共編著・共著に『政権交代を超えて』『建築と権力のダイナミズム』(ともに岩波書店)、『天皇の近代』(千倉書房)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    雑誌『結婚潮流』などに見られるように、80年代にはすでに「婚活」の議論がなされており、旧来とは異なる結婚のかたちが提唱されていた。
  • 要点
    2
    ゼロ年代に入り、時代のムーブメントを表す言葉として「婚活」の語が生まれた。「マーケティング婚活論」「社会改善+恋愛婚活論」「速攻婚活論」などの議論がなされた。
  • 要点
    3
    ネット婚活サービスが主となる、現代・未来の婚活においては、自分自身をいかにマネジメント・マーケティングするかということがキーポイントとなる。

要約

「結婚」のかたち

「結婚」、そして「婚活」とはなにか?
Hibrida13/gettyimages

結婚や夫婦の定義は、時代によって、また個人の認識によってそれぞれである。著者は現代における日本の結婚を、恋愛・共同生活・子どもという三要素の組み合わせで成り立つものとしている。

日本では、法律婚のかたちで結婚する人が大多数のため、結婚のかたちはみな同じと考えてしまいがちだが、現実には、法律が定義づけるものと相容れない婚姻関係や親子関係のかたちも多くある。「法律婚」と社会に実在する「結婚」の違いを理解した上で、たとえば前述した要素を通して、個別の「結婚」の実像を見ていかなければいけない。

それにしても、様々な男女関係・家族関係の形がありながら、人々が依然として「結婚」を重要視するのはなぜだろう。一つには、見栄がある。結婚をしているという事実を作り上げることによって、「私には受け入れてくれる人がいる」という対外的な証明ができるのだ。さらには、平均寿命が延びる一方で、孤独死や介護問題などが社会問題として取りざたされている今日において、人々は老後や介護まで視野に入れた、良い結婚の重要性を認識し始めている。

そういうわけで「婚活」――結婚活動――には、個人が社会の目を気にしながら、それぞれの人生をどのように構想するかが現れるのである。

「婚活0.0」

『クロワッサン』のシングル賛歌

50年代に、日本の都市部では、すでに恋愛結婚が見合い結婚を上回っていた。そしてその後、地域差はあるものの、70年代に向かって恋愛結婚が主流になっていった。同時に、恋愛によって導かれる結婚が理想形として意識されるようになった。しかし、生殖が結婚の要素として重視されていたこの時代、結婚適齢期をすぎて子供をつくるのが難しくなってきてしまうと、もはや恋愛結婚は高望みとなり、女性に残される道は二つとなる。

一つは「婚活」(当時はそのような言葉は存在しなかったが)を行い、現実的な結婚をするという道だ。そしてもう一つは、結婚をしない代わりに、自由を謳歌する道だ。

70年代後半に創刊された雑誌『クロワッサン』は、後者の立場を象徴していた。同誌には、女性の権利を声高に叫んだり、社会に変革を起こそうとしたりするわけではなく、趣味や友達を大切にして、オシャレに独身生活を楽しむ女性――向田邦子や桐島洋子ら――が登場した。この影響を受け、シングルを謳歌し、結果として婚期を逃す現象は「クロワッサン症候群」と名付けられた。

しかし、80年代に入ると、時代の空気は一転して、結婚をすることの価値が見直され、「婚活」についての議論が盛んになっていった。著者はこのときの議論が、2000年代に流行った「婚活1.0」の議論をほぼ先取りしているという性質から、「婚活0.0」と名付けた。そして、この「婚活0.0」の火付け役となったのが、雑誌『結婚潮流』だった。

「婚活0.0」を主導した『結婚潮流』
DjelicS/gettyimages

『結婚潮流』は林真理子らの言説を参照しながら、結婚を否定するフェミニズム、そしてその一つの形であるウーマン・リブと闘いながら結婚を高唱した。しかしここで語られた結婚とは、旧来の結婚観に基づいたものではなかった。同雑誌は旧来の結婚観とも闘いながら、新しい結婚・結婚生活のあり方を模索していったのだ。

著者はここで展開された婚活論を、三つの観点に分けて整理している。一つ目は、出会い方に関する議論だ。この問題に対して誌面には様々な識者の論考が載せられていたが、まとめると、恋愛感情も重要な要素とみなしながらも、相手の属性と自分の相性を冷静に判断できる見合いを適数回重ねた上で、結婚相手を見つけることを最適とする「見合い・恋愛混合型」が提唱されている。

二つ目は将来の家族のかたちに関する議論だ。

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要約公開日 2019.08.11
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