オシムの言葉 増補改訂版

未読
オシムの言葉 増補改訂版
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オシムの言葉 増補改訂版
出版社
文藝春秋
出版日
2014年01月04日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

サッカーのワールドカップ・ブラジル大会で、唯一の初出場の国がある。旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナだ。多民族からなるボスニアは、90年代に激しい民族紛争が起き、20万人が犠牲になったといわれる。民族間の対立がいまなお根深いこの国では、サッカー協会のなかでも分断が続き、2011年にはFIFAから加盟停止処分を受けた。そんなボスニアサッカー界の窮地を救い、ワールドカップ出場への道筋を作ったのが、ボスニア出身で元日本代表監督のイビツァ・オシムだ。

日本での在任中、人々が注目したのはオシムの手腕はもちろんのこと、彼が放つ言葉だった。サッカーを通して人生の哲学や本質をつくオシムの名言の数々は、多くの人に影響を与えた。本書は、オシムの激動の半生を振り返りながら、なぜ彼の言葉はこれほど人の心を揺さぶるのか、その背景に何があるのかを丁寧に綴ったノンフィクションだ。改めてオシムの偉大さに気づくとともに、彼の重く、鋭い言葉にハッとさせられる人もいるのではないだろうか。

本書の底本は2008年刊行だが、増補改訂版として、病に倒れ不自由な身体になりながらも、祖国のため、サッカー界のために尽力したオシムの姿が克明に描かれている。サッカーを愛する人にとっても、そうでない人にとっても、彼の生き方そのものから得られる教訓は少なくないはずだ。

著者

木村 元彦
1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。スポーツから民族問題まで、幅広い分野で執筆活動を展開する。著書に「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」「悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記」「終わらぬ『民族浄化』 セルビア・モンテネグロ」「蹴る群れ」「オシムからの旅」「争うは本意ならねど」などがある。本書の底本となった『オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える』は、ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞作品、文科省読書感想文コンクール課題図書。

本書の要点

  • 要点
    1
    「アイデアのない人間もサッカーはできるが、サッカー選手にはなれない。でもアイデアは練習だけでは身につかない。鍛えられない。バルカン半島からテクニックに優れた選手が多く出たのは、生活の中でアイデアを見つける、答えを出していくという環境に鍛えこまれたからだろう」(サラエボ、サッカー、アイデアの相関関係を語って)
  • 要点
    2
    「家を建てるのは難しいが、崩すのは一瞬。サッカーもそうでしょう。攻撃的ないいサッカーをしようとする。それはいい家を建てようとする意味。ただ、それを壊すのは簡単です。戦術的なファウルをしたり、引いて守ったりして、相手のいいプレーをブチ壊せばいい。作り上げる、つまり攻めることは難しい。でもね、作り上げることのほうがいい人生でしょう。そう思いませんか?」(守りを重視しがちな指導者に対して、伝えたいことはあるかという質問に答えて)
  • 要点
    3
    「人間は失敗の中で生きるのではなく、成功の中で自己の思想や感情を進化させてゆく・・・人々は誇りを取り戻し、何かに近づいたような気がしたのだ。まるで国が再生し、新しい冒険を生き始めたかの様だった。もちろん皆がサッカーを愛する必要はない。しかし勝利を喜ぶ姿を見るだけでも国民は幸福を感じる。何故かは重要ではなく、その気持ちが重要なのだ」(ボスニア代表がW杯初出場を決めた翌日のインタビューで)

要約

人生の真意をつく言葉

Aksonov/iStock/Thinkstock
休むのは引退してからで十分

2003年、Jリーグのジェフユナイテッド市原の監督に就任したイビツァ・オシムと選手たちが初めて対面したのは、韓国のキャンプ地だった。開幕まで3カ月を切って決まったこの新監督のことを、選手たちは知らなかった。所信表明のスピーチもせず、ミステリアスな雰囲気を漂わすオシム。だが、翌日から選手たちは、壮絶ともいえる練習でオシム流のサッカーを叩き込まれる。

走りが中心のメニューはまるで高校時代の部活動で、練習試合で負けると罰走させられる。フルコートでの3対3も、一時でも足を止めることが許されない。休日は前日になるまで知らされず、選手から不満があがるとオシムはこう返した。「君たちはプロだ。休むのはオフになってから、あるいは引退してからで十分だ」

指示されたメニューを漫然とこなすのではなく、創意工夫することを選手たちに求めた。意図を理解していれば、監督の指示と違うことでも、何をしてもよかった。吐き気がするほど苦しい練習に最初は選手たちも反発したが、チームは確実に変化していた。リーグ戦を連勝でスタートすると、その後も快進撃を見せる。

ウサギが逃げ出す時に肉離れをしますか?

前年度リーグ7位のジェフが首位に立ったころには、マスコミの注目度も高まり、同時に会見でのオシムのエスプリとウィットに富んだ受け答えに関心が集まった。

「サッカーとは危険を冒さないといけないスポーツ。それがなければたとえば塩とコショウのないスープになってしまう」

「サッカーの試合とは絶対にひとりでは成立しない。君たちの人生も同じじゃないか」

「ライオンに追われたウサギが逃げ出す時に、肉離れをしますか? 要は準備が足らないのです」

ときに厳しく、ときにユーモアを交えながらサッカーを題材に哲学を語り、人生の真意をつくオシムの言葉が、人々の心に刻まれていった。

ユーゴ崩壊の始まり

サラエボに生まれて

オシムは1941年5月6日、ボスニアの首都サラエボに生まれた。ボスニアは多民族地域で、なかでもサラエボは、セルビア・クロアチア・ムスリムの3民族が融和した都市だった。戦後復興の貧困のなかで、オシムは他の子供たちと同様にサッカーに興じ、13歳で地元のクラブ、ジェレズニチャルに入団する。学業も優秀、特に数学に秀で、サラエボ大学から教授の誘いもあったほどだったが、経済的な理由からプロサッカー選手の道を選んだ。

プレーヤーとしてのオシムはドリブルの名手と謳われ、ユーゴ代表として東京五輪にも出場、日本を相手に2ゴールを上げている。1970年からはフランスリーグで活躍し、78年の引退とともに祖国ボスニアに戻った。

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要約公開日 2014.06.24
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