本書の要点

  • チャールズ・シュルツは後年、自身を「平凡な人間」と語っていたが、幼少期から才能は開花していた。

  • 『ピーナッツ』は子供だけを描いた漫画でありながら、人生の苦しみを深く描き出している。そこにはチャールズ・シュルツ自身の内面や、私生活が色濃く反映されていた。

  • 「スヌーピー」は、キャラクターとしての成長は遅かったが、人間らしさと、時代の精神をうまく汲み取ったことで、主人公のチャーリー・ブラウンさえしのぐ人気を獲得した。

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チャールズ・シュルツの少年時代

繊細な少年スパーキー

Milan_Jovic/gettyimages

チャールズ・モンロー・シュルツは、ミネソタ州で、ドイツ人の父親とノルウェイ移民二世の母親の間に生まれた。チャールズは当時流行していた漫画のキャラクターにちなんで「スパーキー」と呼ばれるようになった。一家は身なりがよく、気持ちのいい家族だった。しかし、母親のディナはやや見栄っ張りな性格で、よそよそしく、冷笑的なところがあった。彼女のこの性格は、その後スパーキーの人格や作品に多大な影響を及ぼすことになる。ともあれディナはひとり息子を溺愛していた。スパーキーは女の子と遊ぶほうを、西部劇よりも漫画のほうを好むおとなしい少年だった。彼は子供のころから絵の才能があったが、母方の親戚は「絵を描く男は女々しい」と思っており、理解を示さなかったという。父親のカールは自ら営む理髪店で45年あまり働いたが、その間一度も休暇を取ったことはなかった。店は清潔でよく手入れされ、客はカールの心をこめたもてなしを受けた。スパーキーは父親を尊敬しており、父親の店には自分の居場所があると感じていた。スパーキーは優秀だったため、小学校で飛び級して5年のクラスに編入した。そのせいでいちばんのチビという立場に甘んじることになった。そして、進学した高校はまるで「監獄のよう」だった。スパーキーは、教師は愚かで自分の才能を見抜けないのだと思い、努めて平凡な人間に見えるように過ごしていた。この見せかけは後年まで続くことになる。

初めて目の当たりにした「漫画」

連載漫画はアメリカ全土に広まった初めての娯楽媒体で、連載小説や歌謡集などよりも早くに普及した。当時連載漫画は「配信(シンジケーション)」というシステムによって掲載されていた。それは自分の新聞に載った連載漫画を、他の新聞経営者に売るというものだ。この大量販売システムにより、広域の多数の新聞への一斉掲載が可能となり、連載漫画を読むことはアメリカの国民的習慣となった。スパーキーも漫画を熱心に読んでいた。漫画を丁寧に模写し、コマ割り漫画を描くという夢を抱いていたが、その夢は当時の価値観からするとまともにとりあってもらえないようなものだった。ある日、シュルツ一家の住む町の図書館でコマ割り漫画の展示会が開かれた。そこでスパーキーは初めて、プロの漫画家の原画を目にした。そして、プロの仕事の大変さと、絵のレベルの高さに衝撃を受けた。

漫画家としての一歩

artisteer/gettyimages

シュルツ家では犬を飼っており、父親はこの犬をとてもかわいがっていた。最初の犬はスヌーキー、次にやってきた犬はスパイクと名付けられた。スパイクは白地に黒い斑点が散る雑種で、いつも家族を笑わせていた。

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要約公開日 2020.03.08
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