スマートな悪

技術と暴力について
未読
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スマートな悪
出版社
定価
1,540円(税込)
出版日
2022年03月29日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

私たちの周りはスマートなもので溢れている。スマートフォン、スマートウォッチ、スマート決済などのほか、企業名やサービス名に「スマート」がつくものも少なくない。「スマート」という言葉には、未来的でポジティブな雰囲気すら感じられる。

しかし、どんな物事にも二面性がある。私たちの社会は一直線にスマート化に向かっているが、果たしてそれは手放しで歓迎すべきなのだろうか。哲学・倫理学を研究する著者の戸谷洋志氏は、私たちが「スマート化は素晴らしい」「スマートな社会になるべき」と無意識的に思わされていることに警鐘を鳴らす。本書では、倫理学の観点から「スマートさ」という概念が併せもつネガティブな側面について提起している。

本書によると、スマートさとは最新のテクノロジーではなく「最適化した仕組み」であるという。異なる要素を組み合わせて、シームレスな体験を提供するサービスやプロダクト。それらは無駄な工程が極力省かれ、すべてが効率よくサクサクと進む。その体験はあまりに便利で心地よいが、怖いのは、それらがいつの間にか人間の行動を支配してしまっていることだ。「スマートさ」自体は善でも悪でもない。しかし、スマートなものを何の疑いもなく受け入れていると、するりと「スマートな悪」に侵入されてしまう可能性もあるのである。

本書では、「スマートさ」という概念やその言葉の意味を再考し、スマートさの本質に迫っていく。超スマート社会を生きるすべての人たち必読の一冊である。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

戸谷洋志(とや ひろし)
1988年、東京都世田谷区生まれ。大阪大学大学院博士課程終了。博士(文学)。現在、関西外国語大学准教授。専門は哲学、倫理学。現代思想を中心に、科学技術をめぐる倫理のあり方を研究している。著書に『Jポップで考える哲学――自分を問い直すための15曲』(講談社文庫)、『原子力の哲学』(集英社新書)、『ハンス・ヨナス 未来への責任──やがて来たる子どもたちのための倫理学』(慶應義塾大学出版会)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    「超スマート社会」とは、ICTによってあらゆる分野が統合され、サイバー空間が人間の代わりに課題を解決する、無駄なもの・不要なものが一切存在しない社会である。
  • 要点
    2
    スマートさとは「仕組みの最適化」であり、いかに無駄を出さないプロセスを構築するかが重要となる。最適化された世界では、自然も人間もすべてが「単なる資源」と見なされる。
  • 要点
    3
    ナチスによるユダヤ人大虐殺の中心人物アドルフ・アイヒマンは、ユダヤ人問題を解決するための「スマートなシステム」を構築した。
  • 要点
    4
    「スマートな悪」に対抗するためのキーワードは「自立共生(コンヴィヴィアリティ)」である。

要約

「超スマート社会」を目指す日本

日本政府が掲げる超スマート社会「Society 5.0」とは

日本政府は第5期科学技術基本計画にて、日本が目指すべき未来の姿として「Society 5.0」を掲げている。「Society 5.0」とは「狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続くような新しい社会」であり、一言で言うと「超スマートな社会」である。その実現手段に「科学技術のイノベーション」が位置付けられ、政府主導で進めようとしている。

この計画における「超スマート社会」は、「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供する社会」と定義されている。これは「無駄なこと、不要なこと、余分なことが一切存在しない社会」とも言い換えられる。手続きに待たされる時間、煩雑な書類のやり取り、交通渋滞など、本質と関係ないことに費やされる労力を最小化する社会を目指そう、ということである。

超スマート社会は、生産・流通・販売・金融・公共サービスなどの個別の分野をICTによって「システム化」し、統合的な「サイバー空間」のもとで処理して社会を「自律化・自動化」させる。サイバー空間が人間の代わりに様々な課題を解決し、かつ必要なものが必要なときに、必要な分だけ手にはいるような社会。それが超スマート社会なのである。

超スマート社会の倫理性

しかし、超スマート社会が倫理的に望ましい社会とは限らない。倫理学の世界では事実(○○である)と当為(◯◯するべきである)は区別すべきだと考えるが、世の中には解決すべきでない課題もあるはずだ。その一つが、ナチスドイツにおけるユダヤ人問題の最終的解決である。

私たちの社会が「超スマートであるべき」なら、何を倫理的基準にして課題を設定するのかを問い直さなければならない。その基準がなければ、スマートな社会は私たちに牙をむくこともあるだろう。

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要約公開日 2023.07.06
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