私たちの日常は、あらゆる移動によって成り立っている。移動するのは人間だけではない。モノ・情報・資本・文化はいずれも地球規模で行き交い、相互に影響しながら私たちの生活を支えている。
ネット通販で注文した商品が玄関に届くのは、その典型例だ。EC市場拡大に伴って宅配便の取扱個数は2010年代後半の5年間で15.4%も伸びた。ECはいまや生活インフラとなり、地方移住への心理的ハードルを下げている。
また、SNSでのニュースチェックやメールの送受信はデータの移動に当たる。通信基盤の高度化とデジタルサービスの多様化により、ネットワークを流通するデータ量は増える一方だ。
さらに、店舗やオンラインで決済が発生するたびに資金は動く。国境を越えるマネーフローは拡大しており、とくに豊かな国で働く移民が母国などの低・中所得国へ送る送金が大きな比率を占める。
米国では日本食レストランが2022年時点で2万3064店に達し、海外スポーツも日常の娯楽となった。食・音楽・スポーツなどの文化財は、人と情報の動きを通じて新天地へ根付き、同時に資本も伴う。
こうした個々の移動は互いに連鎖し、一つのカテゴリーの動きがほかの領域を押し広げる。私たちの日常はあらゆる移動の網目の上に築かれており、その重要性は今後さらに増すだろう。
移動は社会の基盤へと成長したものの、その容易さや総量自体が全面的に増えたわけではない。重要なのは、移動できる人と移動できない人のあいだに、移動の量・機会・経験をめぐる明白な隔たりが存在する事実だ。本書では、こうして生まれたギャップを「移動格差」と呼ぶ。
3,400冊以上の要約が楽しめる