移動と階級
移動と階級
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移動と階級
出版社
出版日
2025年05月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書『移動と階級』は、人々が移動する力を「資本」と見立てて、その偏在がいかに新たな階層線を刻むかを精緻に描き出す一冊だ。特徴的なのは「移動の自由は誰にでも開かれているわけではない」という視点である。自家用車から海外渡航まで、移動手段を使いこなすには金銭・技能・ネットワークという3つの資源が必要となる。

著者は膨大な文献やデータの分析とヒアリングを重ね、年収や性別が移動機会をどう分岐させるかを示してくれる。富裕層はモビリティを増幅装置にし、偶然をチャンスにする一方で、低所得層は「動けなさ」がさらに選択肢を狭める負のスパイラルに絡め取られてしまう。可動性の差は、起業・学歴・子育てといった人生の節目にも連鎖し、格差を再生産しているのだ。

興味深いのは、移動が持つ偶発性の美点を独占させないためのアプローチを重視している点だ。移動サービスの均質化だけでなく、情報・ネットワークへのアクセス保障を並行して進めなければならないという警句は重い。

移動という軸から、日本の階層地図を塗り替えようとする試みはスリリングだ。ジェンダーによる差や、テレワークが「動けない者」を覆い隠すといった洞察も鋭い。本書を読み終える頃には、最寄り駅までの道のりさえ普段と違う景色に見えるかもしれない。

著者

伊藤将人(いとう まさと)
1996年生まれ。長野県出身。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員・講師。2019年長野大学環境ツーリズム学部卒業、2024年一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。戦後日本における地方移住政策史の研究で博士号を取得(社会学、一橋大学)。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、NTT東日本地域循環型ミライ研究所客員研究員。地方移住や関係人口、観光など地域を超える人の移動に関する研究や、持続可能なまちづくりのための研究・実践に長年携わる。著書に『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(学芸出版社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    移動できる人と移動できない人のあいだには、移動の量・機会・経験をめぐる隔たり、すなわち「移動格差」がある。移動資本の格差により、経済力やジェンダー規範が移動機会を分岐させ、潜在的可能性そのものを階層化している。
  • 要点
    2
    移動とネットワーク資本が結合することで、富裕層はさらに成功し、移動困難層は選択肢を奪われるという格差再生産スパイラルが強まっている。
  • 要点
    3
    移動にも「能力主義」が影を落としている。

要約

移動とは何か?

モノ・情報・お金・文化も移動する

私たちの日常は、あらゆる移動によって成り立っている。移動するのは人間だけではない。モノ・情報・資本・文化はいずれも地球規模で行き交い、相互に影響しながら私たちの生活を支えている。

ネット通販で注文した商品が玄関に届くのは、その典型例だ。EC市場拡大に伴って宅配便の取扱個数は2010年代後半の5年間で15.4%も伸びた。ECはいまや生活インフラとなり、地方移住への心理的ハードルを下げている。

また、SNSでのニュースチェックやメールの送受信はデータの移動に当たる。通信基盤の高度化とデジタルサービスの多様化により、ネットワークを流通するデータ量は増える一方だ。

さらに、店舗やオンラインで決済が発生するたびに資金は動く。国境を越えるマネーフローは拡大しており、とくに豊かな国で働く移民が母国などの低・中所得国へ送る送金が大きな比率を占める。

米国では日本食レストランが2022年時点で2万3064店に達し、海外スポーツも日常の娯楽となった。食・音楽・スポーツなどの文化財は、人と情報の動きを通じて新天地へ根付き、同時に資本も伴う。

こうした個々の移動は互いに連鎖し、一つのカテゴリーの動きがほかの領域を押し広げる。私たちの日常はあらゆる移動の網目の上に築かれており、その重要性は今後さらに増すだろう。

「移動格差」とは何か?
gremlin/gettyimages

移動は社会の基盤へと成長したものの、その容易さや総量自体が全面的に増えたわけではない。重要なのは、移動できる人と移動できない人のあいだに、移動の量・機会・経験をめぐる明白な隔たりが存在する事実だ。本書では、こうして生まれたギャップを「移動格差」と呼ぶ。

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要約公開日 2025.08.28
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