ボツ
ボツ
『少年ジャンプ』伝説の編集長の“嫌われる”仕事術
NEW
ボツ
出版社
小学館集英社プロダクション

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出版日
2025年05月22日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

鳥嶋和彦は、元・集英社の編集者であり、一時は『週刊少年ジャンプ』の編集長として、同誌の黄金期を築いた中心人物の一人である。『ドラゴンボール』の鳥山明をはじめとして、多くの才能ある作家たちとともに数々のヒット作を生み出してきた、おそらくはもっとも有名な漫画編集者。そんな鳥嶋が自身の編集者人生を振り返り、創作と仕事の現場で起きていたことを正直に語ったのが本書『ボツ』である。

鳥嶋は担当作家の原稿を容赦なく「ボツ」にすることで知られており、鳥山が次の連載作品を完成させるまで、原稿を500枚ボツにしたという伝説があるほどだ。それは一見、厳しすぎる理不尽な振る舞いに思える。しかし本書を読めば、それが単なる否定ではないことがよくわかる。

鳥嶋は言う。読者にとって編集者とは、最初の読者である。読者が曖昧なことを言うはずがない。おもしろいか、おもしろくないか、それだけだ――。

本書はインタビューの形式を取っており、その過程で鳥嶋の豪放磊落な伝説がおおむね事実であることが判明していく。しかしそれ以上に伝わってくるのが鳥嶋の仕事ぶりの真摯さと徹底ぶりである。鳥嶋は常に作家の才能を信じ、そして読者にとってのベストを追求してきた。結果がよくなければ情報を集めて問題がどこにあるのかを分析し、作家と二人三脚でアイデアを出していく。確かに編集者としてのセンスが発揮される場面も多々描かれてはいるのだが、本書から浮かび上がってくる鳥嶋の姿は、どこまでも真摯に課題に向き合うビジネスパーソンであった。

ライター画像
池田明季哉

著者

鳥嶋和彦(とりしま かずひこ)
1976年、集英社に入社。創刊8年目の『週刊少年ジャンプ』編集部に配属される。
鳥山明、桂正和、稲田浩司など人気漫画家を発掘育成。漫画だけでなく、アニメ、ゲームに深く関わり『ジャンプ』のメディアミックス展開を精力的に推し進める。
1993年にゲーム情報誌『Vジャンプ』を立ち上げて編集長に就任、1996年には『週刊少年ジャンプ』6代目編集長を務める。以後、集英社全雑誌の責任者の専務取締役に。その後、白泉社の社長、会長を歴任。漫画業界の立役者として知られている。
著書に『Dr.マシリト 最強漫画術』(集英社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    鳥嶋和彦は『ドラゴンボール』の作者・鳥山明に対して、500枚以上の原稿を「ボツ」にした編集者として知られるが、それは才能を信じぬき、読者におもしろいものを届けるための徹底した姿勢の反映だった。
  • 要点
    2
    『ドラゴンボール』打ち切り寸前から「天下一武道会」で巻き返したエピソードに象徴されるように、読者の反応を見ながら臆せず大胆に軌道修正する柔軟性が、鳥嶋の真骨頂である。
  • 要点
    3
    編集長時代には旧企画を白紙に戻し、新人の起用に賭けた。「読みにくい」として『ONE PIECE』連載に反対しつつも、議論を尽くし最終的にGOを出すなど、作品とその向こう側にいる読者に真摯に向き合い続けてきた。

要約

【必読ポイント!】 『ドラゴンボール』は、どのようにして誕生したのですか

ボツを500枚やるということ
BBuilder/gettyimages

『ドラゴンボール』でよく知られる漫画家・鳥山明は、デビュー作から次の作品となる『Dr.スランプ』を生み出すまでの1年半の間に、漫画原稿用紙500枚のボツを出され続けたという伝説が、まことしやかに語られている。漫画における「ボツ」とは、作成されたが採用とならなかったネームや原稿を意味する。500枚という数は必ずしも誇張ではなく、どうやら引っ越しの際に出てきたボツ原稿が、目測でそれくらいはあったということらしい。そのボツを鳥山に出し続けた当時の担当編集者が、『週刊少年ジャンプ』編集部時代の鳥嶋和彦であった。

鳥山明は当時の様子をエッセイマンガに描いており、とにかく無慈悲に「ボツ」と言い放つ鳥嶋のキャラクターは、読者に強い印象を与えた。のみならず『Dr.スランプ』には鳥嶋をモデルとした悪役マッドサイエンティスト「Dr.マシリト」というキャラクターすら登場させている。「ボツ」という言葉は、いつしか鳥嶋のキャッチフレーズのようになっていった。

ところが鳥嶋は、鳥山に対して相当なダメ出しをしたことは事実だが「ボツ」という言葉を口にしたことはないという。あるエッセイ漫画に書かれた「ダントツで人気なかった」「はっきりいってドベ!」という言葉はたしかに言った記憶があるというが、「ボツ」とは言っていないそうだ。漫画家は、常に現実に起こった出来事をおもしろく描こうとする。鳥山本人が述べたところによれば、似顔絵をうまく描くコツは「欠点をどう描くか」だ。鳥嶋は、鳥山の「ボツ」というキャッチーな言葉で決めるという采配を受けて、次のように語っている。

「ボツ」という言葉が僕のイメージになっているとすれば、鳥山さんの漫画がいかにうまいかってことだよ――。

『ジャンプ』の漫画は大嫌いだった

しかし、鳥山は恨みがましい口調でおもしろおかしく鳥嶋をエッセイ漫画に描いてはいるものの、同時に「この1年間はなかなか勉強になっておもしろかった。わしはめげないのである」とも書いている。鳥山がなぜ500枚も書き続けられたのかと問われた鳥嶋は、負けず嫌いな性格と生活を立てなければならなかった状況を挙げつつも、修正をする中で鳥山自身が手応えを感じていたからではないかと分析する。

もともと、鳥嶋は漫画が好きで『ジャンプ』に入ってきた社員ではなかった。むしろ当時の『ジャンプ』の漫画について「絵は汚いし、下手くそだと思っていたよ」と語る。同調性が強い編集部の組織文化にも疑問を持っていた。そこで昼寝をしに出かけたのが小学館の資料室だった。ここで『ジャンプ』以外の漫画を読み漁ったことで、自分なりの漫画作りのメソッドを確立できたことが大きかった。その方法論を活用して鳥山の漫画をレベルアップさせていったことが、『Dr.スランプ』の誕生につながっていったのである。

連載前の『Dr.スランプ』は編集部内では不評だった。先輩のデスク(3〜4人の班を統括する役職)からは「落ちがない」と叱られたというが、鳥嶋は次のように語っている。

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要約公開日 2025.08.19
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